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クエーサーは大質量銀河の目印

アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)のアンテナ群。ALMAは、標高約5000mのチリ・アタカマ砂漠に設置された66台のパラボラアンテナからなる電波望遠鏡であり、日本、台湾、米国、カナダ、欧州などの国際共同プロジェクトだ。 Credit: Carlos Padilla – AUI/NRAO

クエーサーは、光を持続的に放つ天体の中で最も明るい天体だ。クエーサーは、太陽の少なくとも10億倍の質量を持つブラックホールがそのエネルギー源だと考えられていて1,2、ビッグバン後わずか7億5000万年の時期にすでに存在しているものが見つかっている3,4。初期宇宙でクエーサーが発見されて以来、どのようにしてそれほど比較的短期間でクエーサーが形成されたのかという大きな疑問は解明されないままだった。今回、マックス・プランク天文学研究所(ドイツ・ハイデルベルク)のRoberto Decarliらは、チリのアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)を使って遠方のクエーサーの周辺を調べたところ、4つの大質量の星形成銀河を発見したことをNature 2017年5月25日号457ページで報告した5。この観測結果は、クエーサーの形成過程に関する私たちの理解を深めると同時に、初期宇宙で最も大質量の銀河たちを見つけ、研究するためには、どうすればいいのかも教えてくれた。

クエーサーにエネルギーを供給するブラックホールはおそらく、生まれたときは小さく、降着によって指数関数的に成長したとみられる6。このため、ブラックホールに近い物質は、強い重力場から逃れることはできず、やがてはブラックホールに引き込まれた。初期宇宙で発見された明るいクエーサーは3,4、莫大な質量を短期間で集めていることから、物質密度が特別に高い領域にあったと考えられている。物質密度の高い環境は、クエーサーのエネルギー源になるブラックホールの急速な成長に物質を供給しただけでなく、クエーサーのすぐ近くでの銀河の成長も促しただろう。

初期宇宙のクエーサーの成長に関するこの一般的モデルを、初期宇宙の明るいクエーサーの周辺で銀河を探すことによって検証しようとする試みが多数行われてきた。しかし、遠い銀河の標準的な探索方法の空間(視線方向)分解能が低いことや7-11、検出技術がクエーサー周辺の低質量の銀河にのみ敏感であること12,13が、そうした取り組みの障害になっていた。これまでに行われた研究は、明るいクエーサーは宇宙の高密度環境で形成されたという考えを支持したものの、十分な証拠にはならなかった14

ALMAは、天文学者たちにとって、明るいクエーサーのすぐ近くの大質量星形成銀河からの輝線放射を探す強力なツールになった。干渉計とは、互いに接続され、観測結果を結合することができるアンテナ群だ。ALMAは、集光面積が非常に大きく、また、25秒(満月の角直径の約1.5%)の視野のあらゆる位置で発光スペクトルを得ることができるため、こうした観測を実現することができる。

Decarliらは2016年1~3月、ALMAの口径12mのアンテナ38~48台を使って、ビッグバン後9億年未満、つまり、6を超える赤方偏移に存在する、25個の明るいクエーサーを観測した(天体の赤方偏移が大きいほど、その天体が光を放出した時点の宇宙は若い)。加えて彼らは、クエーサーから、天球の接平面上で70キロパーセク未満、地球への視線方向で2メガパーセク未満の距離の空間内で、クエーサー以外の放射源のしらみつぶしの探索も行った。

図1 遠方のクエーサーとその伴銀河
クエーサーは非常に明るい天体で、太陽の少なくとも10億倍の質量があるブラックホールがそのエネルギー源だと考えられている。Decarliらは、初期宇宙のクエーサーの近くで、4つの大質量の星形成銀河を発見した5。この画像は、クエーサーPJ231-20とその近くで見つかった銀河で、それぞれの中心を十字で示している。Decarliらは、初期宇宙での大質量星形成銀河のスペクトルで特に目立つ、一階電離した炭素に伴う特定の輝線放射を探した。黒い等高線は、この輝線放射の強度が等しい点をつなげた等輝度線(アイソフォト)だ。カラースケールは、星の光を受けた塵が放つ連続放射の強さを示し、暗い赤が弱く、黄色が強い。スケールバーは10キロパーセク(1パーセクは3.26光年)。

Decarliらは、現在の宇宙の銀河の星間物質と、初期宇宙の大質量星形成銀河のスペクトルで特に目立つ、一階電離した炭素に伴う輝線を観測対象にした15,16。彼らは、調べたクエーサーから強い放射を見いだし、さらに、同じ観測で4つの明るい輝線放射源を発見した(図1)。Decarliらは、これらの輝線放射源を大質量の星形成銀河と解釈し、これは理にかなっている。

Decarliらが遠方のクエーサーの近くで明るい銀河を発見したことは、少なくとも2つの理由で重要だ。第一に、この発見は、明るい高赤方偏移クエーサーは特に高密度の環境で形成されたという、決定的で説得力のある証拠になり、大質量銀河の高密度環境に物質がどの程度豊富にあるかについて具体的で重要な答えをもたらしてくれる。これまでの研究では、赤方偏移4.8(参考文献17)と5.3(参考文献18)での関連した発見が報告されている。Decarliらは、赤方偏移が6を超える明るいクエーサーを調べることにより、これまでの知見を相当に拡大した。

第二に、Decarliらは、明るいクエーサー周辺をしらみつぶしに探索することにより、6を超える赤方偏移でこれまでに発見された中で最も大質量の銀河の1つとみられる星形成銀河を3つ発見した。意外なことに、彼らの方法は、ずっと広い視野(満月の角直径の数倍)を持つ、初期宇宙の銀河探索の成果を上回ったようだ16,19。Decarliらが見つけた銀河は、光度が高く、近隣のクエーサーからの光の汚染がないため、初期宇宙での銀河について詳細に調べることができる可能性がある。

発見された放射源は、ALMAやジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡、近い未来のその他の観測施設の観測対象になることは確実だと思われる。放射源の性質に関する私たちの知識は現在得られているデータに制限されているため、Decarliらの観測結果を完全に理解するためには追跡観測が必要だ。それでも、Decarliらの研究は非常に価値の高い開拓的研究であり、明るい高赤方偏移クエーサーを取り巻く領域に関する今後の調査だけではなく、初期宇宙の最も大質量の銀河たちを探す方法をも根本的に変える可能性がある。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170828

原文

Quasars signpost massive galaxies
  • Nature (2017-05-25) | DOI: 10.1038/545418a
  • Rychard Bouwens
  • Rychard Bouwensはライデン大学ライデン天文台(オランダ)に所属。

参考文献

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  5. Decarli, R. et al. Nature, 545, 457–461 (2017).
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