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がん治療に役立つ細胞地図

Credit: man_at_mouse/iStock / Getty Images Plus/Getty

2017年5月4日にCellに発表された2つの研究1,2で、腫瘍の周りに存在する免疫細胞に関する詳細な地図が、がんの治療法の決定に役立つ可能性があることが報告された。例えば、治療標的を明らかにしたり、特定の治療に対して良い反応が期待できそうな患者を選別するためのマーカーを突き止めたり、治療を開始する最も良い時期を予測したりできるという。

この2つの論文は、治療に対する腫瘍の応答が、腫瘍の境界に集まり、腫瘍内部に侵入する免疫細胞によって誘導されるという認識が高まっていることを反映している(Nature ダイジェスト 2017年5月号「細胞単位で参照できる体の地図作りが熱い!」参照)。

「この2つの論文は本当に重要です。彼らは地面に旗を立てて、『ここに役立ちそうな技術がありますよ。周辺には、習得すべきことが考えていた以上にありますよ』と言っています」と、ダナ・ファーバーがん研究所(米国マサチューセッツ州ボストン)の免疫学者で腫瘍学者のNick Hainingは言う。

論文の1つは、チューリッヒ大学(スイス)のシステム生物学者Bernd Bodenmillerが率いる研究チームによるもので、腎がんの1種である淡明細胞型腎細胞がんにおいて、T細胞とマクロファージという2種類の免疫細胞の地図を作製した。両細胞とも、発現するタンパク質に依存的に、腫瘍に対する免疫攻撃を高めたり、抑制したりできる。

Bodenmillerらは、患者73人の腫瘍試料と健康な組織5試料を調べ、マクロファージの特徴を明らかにするために29種類のタンパク質の発現を、T細胞の特徴を明らかにするために23種類のタンパク質の発現を評価した。その結果、両細胞の特定の組み合わせが見られる患者は、がんが急速にプログレッション(悪性度の高いがんに進行)する傾向があることが分かった。

他方の論文は、マウント・サイナイ医科大学アイカーン医学系大学院(米国ニューヨーク)の腫瘍学者Miriam Meradが率いる研究チームによる報告で、初期段階の肺腺がん腫瘍と正常な肺組織、血液のそれぞれについて、免疫細胞地図を作製して比較した。その結果、初期段階の腫瘍であっても、その周辺に存在する免疫細胞を既に変化させ始めていることが分かった。「この結果は、がんの初期段階においても、免疫系を標的とする治療を行うべきであることを意味します」とMeradは言う。

どちらの研究も、これら自体ががん治療に変化をもたらすことはないだろう。だがHainingは、両研究を腫瘍のゲノム塩基配列を報告した最初の論文群になぞらえる。こうした取り組みはその後、国際的な共同研究や数千もの塩基配列の解明につながった。「このような研究が、がんの生物学的性質の理解に必要なのです」と、Hainingは言う。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170813

原文

Cell maps reveal fresh details on how the immune system fights cancer
  • Nature (2017-05-11) | DOI: 10.1038/nature.2017.21931
  • Heidi Ledford

参考文献

  1. Lavin, Y. et al. Cell 169, 750–765 (2017).
  2. Chevrier, S. et al. Cell 169, 736–749 (2017).