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研究室でついに血液幹細胞の作製に成功

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170704

原文:Nature (2017-05-17) | doi: 10.1038/nature.2017.22000 | Lab-grown blood stem cells produced at last

Amy Maxmen

長い間試行錯誤が続いていた血液幹細胞の作製法を、2つの研究チームがマウスとヒトで完成させた。

ヒトiPS細胞から作られた造血幹細胞と造血前駆細胞。 | 拡大する

Rio Sugimura

20年にわたる研究により、成熟細胞を形質転換させて、自己複製や血液構成細胞の再生を行う始原血液細胞を作り出す方法を2つの研究チームがそれぞれ編み出し、Nature 5月25日号に報告した1,2。これらの研究は、白血病などの血液疾患の治療で骨髄移植が必要だが適合するドナーが見つからない患者に、希望をもたらすと考えられる。今回の知見が臨床に橋渡しされれば、患者は、研究室で培養された自身の健康な細胞を再び自己の体内に戻す治療を受けられるようになるだろう。

432ページに掲載された論文では、ボストン小児病院(米国マサチューセッツ州)の幹細胞生物学者George Daleyの率いる研究チームが、血液幹細胞のように機能するヒト細胞(天然の血液幹細胞と同一ではない)を作製したことを報告した1439ページの論文では、コーネル大学ウェイル医学校(米国ニューヨーク)の幹細胞生物学者Shahin Rafiiの率いる研究チームが、マウスの成熟細胞を完全な血液幹細胞に転換させたことを報告した2

マックマスター大学(カナダ・オンタリオ州ハミルトン)の幹細胞研究者Mick Bhatiaは、「血液幹細胞の作製法は、長年にわたる研究で一部解き明かされていましたが、完成していませんでした。全ての項目が確認されて、血液幹細胞が作製されたのは、今回が初めてです」と言う。彼はどちらの研究にも関わっていない。

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Guibentif C. & Göttgens B.Nature 545, 415–417(2017).

Daleyの研究チームは、研究を始めるに当たり、材料として成人由来の皮膚細胞などを選択し、まず標準的な方法を用いて、これらの細胞を人工多能性幹(iPS)細胞に再プログラム化した。iPS細胞からはさまざまな種類の細胞を作り出すことができるが、現在まで、iPS細胞を血液を作り出す細胞に転換することができずにいた。

次の段階として、Daleyの研究チームは斬新な方法を採った。転写因子(遺伝子の発現を制御するタンパク質)の遺伝子7個をiPS細胞のゲノムに挿入し、次に、これらの改変ヒト細胞から造血幹細胞を発生させるために、マウスに注入したのである。注入された細胞は、12週後には、ヒトの血液に見られるさまざまな細胞を作り出すことのできる造血前駆細胞に形質転換していて、免疫細胞も作られていた。「この前駆細胞は、造血能を持つ天然の血液幹細胞に非常によく似ています」とDaleyは言う。

「Georgeが解明したヒト造血幹細胞の作製法には、非常に説得力があります。この方法の開発を皆が待ち望んでいました」と、Bhatiaは言う。

素晴らしい成果

対照的に、Rafiiの研究チームは、iPS細胞を作り出すという中間段階を経ずに、マウスから真の血液幹細胞を作製した。Rafiiらは、成熟マウスの血管内膜から血管内皮細胞を取り出すことから始め、次に、これらの細胞のゲノムに転写因子の遺伝子4個を挿入して、ヒトの血管内の環境を模倣した培養皿内で維持した。すると、これらの細胞は血液幹細胞に転換して、増殖した。

こうして得られた血液幹細胞を、放射線照射により血液細胞や免疫細胞のほとんどを死滅させたマウスに注入すると、マウスの造血系は再構築された。この幹細胞により免疫細胞を含む血液が再生したため、マウスは研究室で1年半以上生存し、寿命を全うした。

Rafiiは、「幹細胞を作製する場合、大事なのは最も効率的な方法を用いることです。というのは、細胞集団に遺伝子を導入できる確率は低く、導入できなかった細胞は排除する必要があるからです」と指摘する。また、一部の細胞は、研究室で改変が加えられた後に変異を獲得して、ヒトに移植されると腫瘍を形成し得るリスクがある。

しかしDaleyの方法は、転換効率を高めることができるだけでなく、腫瘍の増殖を促進する可能性や、他の異常が生じる可能性を低下させることができると、Daleyや他の研究者たちは確信している。「1つの可能性として、iPS細胞に、転写因子をコードする遺伝子を恒久的に挿入するのではなく、遺伝子発現を一過性に変化させる方法があります」と、スクリプス研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)の幹細胞研究者Jeanne Loringは言う。彼女は、「iPS細胞は、採取が簡単な皮膚などの組織から作製できますが、Rafiiの方法は、血管内皮細胞から始めています。この細胞は、採取や研究室での維持がiPS細胞よりも難しいのです」と指摘する。

iPS細胞から血液幹細胞が作製できないことに苛立っていた研究者たちは、今回の成果により士気が高まった。「『iPS細胞はiPS細胞でしかない』と言って関心を示さなくなった研究者が大勢います。私はこのような批判が間違っていることを願っていました。そして今回、間違っていたことが明らかになりました」とBhatiaは言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Sugimura, R. et al. Nature 545, 432–438 (2017).
  2. Lis, R. et al. Nature 545, 439–445 (2017).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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