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免疫チェックポイント阻害剤で一部患者のがん悪化?

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170714

原文:Nature (2017-04-06) | doi: 10.1038/nature.2017.21755 | Promising cancer drugs may speed tumours in some patients

Heidi Ledford

免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれるがん治療薬で、がんが悪化する場合があることが報告された。研究者らはその理由を追究している。

免疫療法は、治療が困難な一部のがん患者に希望をもたらしたが、がんが悪化する場合もあることが報告された。 | 拡大する

KENNETH K. LAM/BALTIMORE SUN/GETTY

免疫チェックポイント阻害剤は免疫系の働きを解き放つ強力な薬剤で、一部の進行がんの患者のがんを消滅させると期待されている。しかし、最近の2つの研究から1,2、PD-1阻害剤と呼ばれるこの種の治療薬の使用により、一部の患者で逆の結果、つまりがんの広がりが加速される可能性が示唆された。現在、研究者らはその理由を明らかにしようとしている。

この2つの研究は非常に小規模であるため、医師の治療のやり方に変化をもたらすことはない。しかし、腫瘍を抑制するはずの治療薬が腫瘍を促進してしまう仕組みを調べるための、より大規模な臨床試験を求める声が高まっている。

「このようなわずかな症例数では、やや不安を覚えて立ち止まるばかりです。外部の研究者が解析に利用できる腫瘍画像を得るための、より大規模な研究が必要です」と、国立がん研究所(米国メリーランド州ベセスダ)のがん研究者Elad Sharonは指摘する。また彼は、がん研究者らが自分の専門を超えて協力するところも見たいと思っている。「私たちがなすべきことは、おそらく、免疫系を調べる他の医学分野ともっと交流することです」とSharonは言う。

免疫療法は、過去5年間にわたってがん治療に大変革をもたらしてきた。免疫療法の一部には重篤な副作用が伴うものもあるが、PD-1阻害剤の「望まない効果」は比較的軽度である。

「そのため、医師の一部は、PD-1阻害剤が患者のがん種に有効であることが確定していなくても、他の全ての治療を試したがん患者にはこの免疫療法を行っていました」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)のがん研究者で医師のRazelle Kurzrockは言う。「薬剤に反応する可能性がわずかであったとしても、反応自体がとても良い場合があります。私たちは『さあ、治療を試してみましょう』と言ってこの治療薬を使ってきました」とKurzrock。

しかしある日、同僚と情報交換をした彼女は、それぞれの担当患者の中にPD-1阻害剤での治療過程で腫瘍が異常なほど急速に増殖した人がいることに気付いた。数日後、彼女の同僚がやって来て、この2人の患者の腫瘍に同じ「希少な遺伝的変化」が見られることを報告した。がんを駆動する遺伝子MDM2あるいはMDM4に余分なコピーが存在していたのである。

Kurzrockは、免疫療法による治療後に腫瘍が急速に進行した患者について情報を集め始めた。彼女は、いくつかの病院から症例を集めた後でさえ、その結果を公表することに躊躇した。「私たちは、『この結果を掲載してくれる学術誌はあるのだろうか? 彼らは信じないかもしれない』と思いました」と、Kurzrockは言う。

ジスターブルシイ研究所(フランス・ビルジュイフ)の腫瘍学者Charles Fertéは、偶然、同じ問題に出くわした。彼は、数人の医師がPD-1を用いた治療への奇妙な反応を報告したミーティングを思い起こす。「何人かの友人や同僚が、『PD-1阻害剤で肺がん患者を治療すると、2週間で手出しできないほどに腫瘍が激増した』。

そこでFertéらは、自身の患者の腫瘍増殖について体系的な調査を始めると決めた。彼らは2016年11月に、抗PD-1治療を受けた131人のうち、9%に腫瘍増殖の加速を伴う「超プログレッシブな」疾患が見られたという結果を発表した1。この現象は65歳以上の人で、より広く見られると考えられた。

遺伝的関連

免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞により抑えられていた免疫系の働きを回復させる。 | 拡大する

STEVE GSCHMEISSNER/SPL/GETTY

Kurzrockらは、PD-1阻害剤や他の免疫チェックポイント阻害剤による治療を受けた155人についてのデータを、2017年3月28日に発表した2。このうちの6人にMDM2あるいはMDM4の余分なコピーが見られ、10人にがんに関連するEGFRと呼ばれる遺伝子の変異が見られた。年齢と急速な悪化との間には相関が全く見られなかったが、余分なMDM2あるいはMDM4の遺伝子を持つ人のうちの4人およびEGFRの変異を持つ人のうちの2人では、腫瘍のより急速な増殖が見られることに気付いた。

どちらの研究チームも、免疫療法によってがん患者の腫瘍が増悪する仕組みの解明に現在も取り組んでいる。Kurzrockは、PD-1阻害剤によって「増殖因子」と呼ばれるある腫瘍を刺激するタンパク質が放出されているのかもしれないと推測している。またSharonは、PD-1タンパク質が感染症に及ぼす影響に関する研究から手掛かりが得られないかと考えている。初期の研究から、PD-1タンパク質を阻害すると、一部のウイルスに対する免疫応答が刺激されることがあるが、結核を引き起こす結核菌への応答は抑制されることが分かっている。

今のところ、この急速な腫瘍の増殖が「免疫療法によってもたらされている」と確実に言うことができるほど十分な証拠はまだ存在しない、とSharonは言う。また彼は、Fertéの研究チームが腫瘍の増殖の研究に用いた測定方法はまだ、臨床試験での使用を前提に広く検討されていないと付け加える。「このような状況が他の免疫チェックポイント阻害剤でも同様に起こっているのなら、果たして、予期していなかっただけなのでしょうか?」と、彼は言う。

Fertéは、免疫療法についてのこれらの証拠が、現在の治療法を大きく変えることを正当化するほど強力なものとは考えていない。「私は高齢の患者には、それでもPD-1阻害剤を処方すると思います。しかし、特別に注意を払うつもりです」 と彼は言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Champiat, S. et al. Clin. Cancer Res. http://dx.doi.org/10.1158/1078-0432.CCR-16-1741 (2016).
  2. Kato, S. et al. Clin. Cancer Res. http://dx.doi.org/10.1158/1078-0432.CCR-16-3133 (2017).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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