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人類の北米への到達は通説より10万年も早かった?

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170702

原文:Nature (2017-04-26) | doi: 10.1038/nature.2017.21886 | Controversial study claims humans reached Americas 100,000 years earlier than thought

Ewen Callaway

米国カリフォルニア州の遺跡から出土したマストドンの折れた骨と割れた石の調査から、新世界に最初に到達したヒト族はホモ・サピエンスではなかった可能性が出てきた。

米国カリフォルニア州で発見された「叩き石」は、古代人類が作った可能性があり、年代測定により約13万年前のものと特定された。 | 拡大する

Tom Deméré, San Diego Natural History Museum

古代人類が北米に定住した時期は通説より10万年以上も早く、今から約13万年前のことだったと提唱する大胆な論文が、このほどNatureに掲載され1、激しい議論が起きている。主張の根拠とされているのは、米国カリフォルニア州で発見されたマストドン(Mammut americanum;ゾウに似た絶滅哺乳類)の折れた骨と割れた石だ。研究チームは、これらを破壊したのは人類だと主張している。

彼らの主張が正しいなら、米大陸に人類が最初に定住した時期と方法、さらにはその人類の種についても、根底から考え直さなければならないことになる。ほとんどの科学者は、最初に北米に到達した人類はホモ・サピエンスであり、人類の北米到達からはまだ2万年も経過していないとする説を支持している。これに対して今回の研究は、ホモ・サピエンスより前に、ネアンデルタール人やデニソワ人などの別のヒト族がアジアから北米にやって来て、そこで栄えた可能性があるとしている。

サウサンプトン大学(英国)の旧石器時代考古学者のJohn McNabbは、「驚くべき発見です。もし本当ならこれまでの研究の土台を根底から覆すものであり、研究の流れを大きく変えることになります」と言う。「この論文には多くの反応があるでしょう。ただ、そのほとんどが否定的なものになると思います」。彼は今回の研究には参加していない。

今回の研究は、1992年にサンディエゴ(米国カリフォルニア州)郊外で行われていた道路補修の際に発見された古代の動物の骨の破片に基づいている。この化石を含む遺跡は当時、ここで行われていた道路補修工事の作業中に見つかった。この発見を受けて工事は中断され、サンディエゴ自然史博物館の古生物学者Tom Deméréが率いるチームが5カ月間の発掘調査を行ったのである。発掘チームは、マストドンの歯や牙や骨とともに、割れた大きな石や磨耗した大きな石を発見した。これらの出土品は、流水に運ばれてきて堆積した沈泥(砂より小さく粘土より粗い粒子)の中に埋もれていたが、Deméréは、この場所の水流で運ばれてくるには石が大き過ぎると感じた。

「どうしてこのような状態になったのか、説明を何通りか考えてみました。しかしどの説明でも、人類が関与したという考えに行きついてしまうのです」と彼は言う。1990年代にこの遺跡の年代を特定しようとしたとき、出土した象牙は約30万年前のものであるという結果が出た。Deméréはこの結果に懐疑的だった。彼の同僚が用いた手法は問題が多かったし、そんな時代に人類がカリフォルニアに住んでいたとは考えにくかったからだ。

通説に異議を唱える

米大陸への入植については、科学者たちは1つの合意に達している。過去10年間の考古学研究と、現代および古代のDNAの研究から、アジアから来た人類は、約2万年前にベーリング陸橋(氷河時代の海面低下により出現したアラスカとシベリアをつなぐ陸路)を渡ってアラスカに到達し、約1万5000~1万4000年前に南米大陸の南端に到達したというものだ2

これに対し、人類が米大陸に到達した時期はもっと早かったと主張する考古学者たちが少数ながらいる。彼らは、石器のように見える石とヒトの手で破壊されたように見える動物の骨が出土する遺跡に注目してきた。Deméréの論文の共著者であるアメリカ旧石器時代研究センター(Center for American Paleolithic Research;米国サウスダコタ州ホットスプリングス)の考古学者Kathleen Holenと夫のSteven Holenは、米国中西部のいくつかの遺跡は、古くは4万年前に米大陸に人類が住んでいた証拠だとする論文を発表している3。けれども多くの科学者は、こうした主張に懐疑的な目を向けていた。

サンディエゴのマストドンについて耳にしたHolen夫妻は、2008年にDeméréのもとを訪れ、箱に入った骨を実際に目にする。Kathleen Holenは、「非常に古い骨でしたが、私たちが見たことのある骨と同じパターンの折れ方をしていました」と話す。マストドンの骨は、大きい台石の上に乗せられ、叩き石を打ちつけて折られたようだった。Deméréらは、遺跡から出土した石は、マストドンの骨から骨髄を取り出すためか、繊細な骨角器を作るために使われたと主張する。また、骨に明らかな切断痕がないため、マストドンは肉を食べるために殺されたり解体されたりしたわけではないと思われる。

Deméréらは今回、改良された年代測定法を用いて、遺跡の年代を改めて決定しようと試みた。マストドンの骨には炭素を含有するコラーゲンタンパク質が残っていなかったため、放射性炭素年代測定法を用いることはできなかった。また、光ルミネセンス年代測定法は不正確すぎた。しかし、骨に含まれる放射性元素のウランとトリウムの相対濃度を測定する第3の手法により、この化石が13万年前のものであることが示された。Steven Holenは、「同僚の多くはこの結果を疑問に思うでしょう。そのことは覚悟しています。ヒト族が北米に到達した年代について、ほとんどの考古学者が考えていた数字よりはるかに古い数字が出たのですから。私自身、まさかと思いました」と言う。

サウサンプトン大学の考古科学者でウラン年代測定法の専門家であるAlistair Pikeは、Deméréらが用いた年代測定法は、地下水に含まれるウランの骨への染み込み方について単純化したモデルを用いており、明らかな問題点は見当たらないと言う。

ハーバード大学医学系大学院(米国)の集団遺伝学者で、古代のDNAの研究をしているPontus Skoglundは、化石から古代のDNAを抽出し、他のマストドンとの進化的関係を決定することができれば、この遺跡の年代を決定するのに役立つかもしれないと指摘する。彼は、「この発見が本当なら、人類が世界中に分散していった過程についての私たちの理解は大きく変わることになるでしょう」と言う。

眉をひそめる人々

一方、南メソジスト大学(米国テキサス州ダラス)の考古学者David Meltzerは、研究チームは、人類が石や骨を破壊したと主張する前に、これらが自然の力によって破壊された可能性をしっかり除外しなければならないと指摘する。「人類が新世界に到達した年代を一気に10万年以上もさかのぼらせようとするなら、もっと説得力のある考古学的証拠を提示する必要があります」とMeltzer。

McNabbは、破壊のパターンがより詳細に解析されることを期待している。アフリカでは、人類が動物を解体していたことが分かっているもっと古い時代の遺跡から、成形された石器が見つかっている。McNabbは、カリフォルニアの遺跡では、叩き石と台石以外に人類の存在を示すこうした痕跡が何も見つかっていないことについて「興味深い」と言う。

Natureに掲載されたDeméréらの論文の査読をしたエルサレム・ヘブライ大学(イスラエル)の考古学者Erella Hoversは、電子メールで最初に原稿を受け取ったときには眉をひそめたという。「『何だこれは。本気なのか?』という印象でしたね」。けれどもその後の改訂の際に、厳密な年代測定が行われ、現生のゾウの骨を大きな石で叩くとマストドンの骨と同様の損傷パターンができることも実証されたため、今では、ヒト族がカリフォルニアの遺跡を作ったと確信しているという。彼はこの研究に関するNews & Views記事も執筆した。

Hoversは、「驚くべき発見ですが、問題は山積みです。当時、この場所に何らかの人類がいたということ以外、何も分かっていないのですから」と話す。

最初のアメリカ人は誰?

マストドンの骨を石で割ったのが人類または古代の近縁種であるなら、複数の候補が考えられる。Deméréと共著者らは、現代の非アフリカ系人類の祖先がアフリカを出てからまだ10万年もたっていないが、アフリカを出た人類は、より早い時期に北米に到達していた可能性があると主張する。彼らはその根拠として、ホモ・サピエンスのものによく似た10万年前の人類の歯が中国で発見されていること(Nature ダイジェスト 2015年12月号「中国で出土した歯が示す、初期人類の旅」)と、南米先住民の一部が、より早い時期に米大陸に移住してきたと思われる人類の祖先の遺伝的痕跡を持っていることを挙げる。

大英自然史博物館(英国ロンドン)の古人類学者Chris Stringerは、最初に北米にやって来た人類は、少なくとも10万年前にはシベリア南部に住んでいたことが分かっているデニソワ人やネアンデルタール人ではないかと考えている。しかし、どちらの人類も、シベリアからアラスカへの北極海の過酷な船旅に耐えられたと考える証拠はない。「多くの研究者は、この1万5000年以内に米大陸にやって来た現生人類が米大陸の最初の入植者だと考えています。アメリカの他の遺跡から同様の証拠が出てこないかぎり、そのモデルを捨てて、もっと古い時代に人類が米大陸に到達していたと信じることはできません」とStringer。

Deméréは、「もちろん、さらなる証拠探しを始めるつもりです」と言う。彼は今、自分たちのチームが数年前に発掘したカリフォルニア州の別の遺跡に目をつけている。

Steven Holenは、他の科学者にもその調査に参加してもらいたいと願っている。「野外調査を行う際には、出土品を注意深く見る必要があります」と彼は言う。「最初から『あり得ない』と決めつけてはならないのです」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Holen, S. R. et al. Nature 544, 479–483 (2017).
  2. Skoglund, P. & Reich, D. Curr. Opin. Genet. Dev. 41, 27–35 (2016).
  3. Holen, S. R. Quat. Int. 142–143, 30–43 (2006).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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