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カッシーニによる土星探査が最終章へ

土星の環が形成された時期とその起源については、惑星科学者の間で論争がある。 Credit: NASA/JPL-CALTECH/SPACE SCIENCE INSTITUTE

13年間にわたり土星とその衛星を探査してきたNASAの探査機カッシーニが、数カ月後に迫ったミッション終了を前に、最後の活発な科学探査を開始した。

カッシーニは2017年4月22日に土星の最大の衛星タイタンのすぐ近くをかすめるように飛行して軌道を変えた。最後のタイタン・フライバイ(接近通過)である。そして同26日には、土星とその環の間を通り抜けた。幅2400kmのこの隙間は、人類がこれまで土星に送り込んできた探査機が一度も入ったことのない、未知の領域だ。カッシーニは、この狭い隙間を22回通り抜けた後、9月15日に土星の大気に突入して一生を終える。

カッシーニは20年も前に打ち上げられた古い探査機だが、前例のないこの旅により、新鮮な発見をもたらしてくれるだろう。ジェット推進研究所(JPL;米国カリフォルニア州パサデナ)のカッシーニのプロジェクト科学者Linda Spilkerは、「これはもう、全く新しいミッションと言ってよいものです」と説明する。「今後の研究の基礎となる科学的測定を新たに行うのです」。

予定されている観測としては、土星の環の粒子や上層大気を初めて直接調査することや、土星の磁場や重力場を最高の精度で測定して、土星の自転速度や環が形成された時期などの長年の疑問に答えを出すことの他、内側の環を詳細に観察することなどがある。

カッシーニの最終章は、127回目になるタイタンへの最後の接近通過から始まった。カッシーニは、タイタンのメタンの湖を最後にもう一度調べて、その表面をかき乱す波や泡などの現象を探した。ジョンズホプキンズ大学(米国メリーランド州ボルティモア)の惑星科学者Sarah Hörstは、これまでの接近通過では時間の経過に伴う湖の変化を明らかにしてきたが、今回の接近通過は季節変化を探す最後の機会になったと言う。

タイタンに接近したカッシーニは、その重力を利用して「グランドフィナーレ」軌道に入った(「カッシーニ、最後のフロンティアへ」参照)。今後は、おわん型のメインアンテナを前に向けて盾の代わりにすることになる。土星の雲頂と最も内側の環の間では、環の粒子が時速11万kmという猛スピードで飛び交っており、間を通り抜けるには環の粒子の直撃を避ける必要があるからだ。

「カッシーニ、最後のフロンティアへ」PDF

SOURCE: NASA/JPL-CALTECH/SSI

2016年11月以来、カッシーニは土星の赤道面に対する角度を大きくすることで、新しい視点から土星の外側の環を観測してきた。ミッションの画像チームを率いるカリフォルニア大学バークレー校(米国)の惑星科学者Carolyn Porcoは、土星の環の内側を通る軌道に入ったカッシーニが、また新たな詳細を明らかにしてくれることを期待している。

高解像度写真には、土星の外側の環のいくつかで、さざ波を立てて進むプロペラ型の謎めいた隙間が捉えられている。これらは、目に見えない小衛星が作り出したものではないかと考えられている。NASAのエイムズ研究センター(米国カリフォルニア州モフェットフィールド)の惑星科学者Jeffrey Cuzziは、「土星の環は、私たちの目の前で姿を変えていきます」と言う。

カッシーニの遠隔探査装置は、土星の環の太陽光に照らされている側も、照らされていない側も、これまでにない詳細さで観察することを可能にする。これにより、環を形成する粒子の化学組成が場所によってどのように変わってくるかを明らかにすることができる。この情報は、ほぼ純粋な氷からなる土星の環にどのような化合物が混ざっているかを解明しようとする研究者にとって、非常に重要だ。

土星をめぐる最大の謎は、土星の環がいつ、どのようにして形成されたのか、である。この謎も解き明かされるかもしれない。5月から7月まで、カッシーニは土星の重力場の詳細な測定を行う。ミッション科学者たちは、土星とその環の間を飛行するカッシーニの運動を追跡することで、環の質量の計算精度を一桁上げたいと考えている。環の質量が比較的大きいなら、古い時代、おそらく数十億年前に、大きな衛星が引き裂かれてできたものと考えられる。また環の質量が小さければ、もっと新しい時代に、おそらく通りすがりの彗星が砕けてできたものと考えられる。

土星という巨大惑星自体の基礎的測定も行う。カッシーニの磁力計は、グランドフィナーレ軌道の土星に近い所で磁場を測定する。JPLの惑星科学者Marcia Burtonによると、この場所の磁場は、これまで測定してきた場所の磁場の約10倍も強く、より複雑で、科学的に興味深いという。

これらのデータは、土星の磁場を作り出している金属水素コアの深さや土星の自転速度などの長年の疑問を解明するための手掛かりとなるはずだ。1980年代にNASAの探査機ボイジャーが行った観測では、土星の自転周期は11時間未満とされた(Nature ダイジェスト 2015年6月号「巨大ガス惑星の謎解きへ、いざ」参照)。けれども、南半球と北半球の測定値には食い違いがあり、もっと複雑であることを示唆している。「グランドフィナーレ軌道からの観測により、土星の磁場に関する私たちの理解は大きく前進するはずです」とBurton。

9月15日、燃料タンクがほぼ空になったところで、ミッションコントローラーはカッシーニを土星に向かわせるが、カッシーニは土星の大気を構成するガスの測定データを地球に送信し続ける。「最後の瞬間まで、画期的な科学探査を続けるのです」とHörstは語る。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170716

原文

Saturn spacecraft begins science swan-song
  • Nature (2017-04-13) | DOI: 10.1038/544149a
  • Alexandra Witze