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ホウセキカナヘビの背中のデジタル迷彩柄が生まれる仕組み

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170602

原文:Nature (2017-04-12) | doi: 10.1038/nature.2017.21817 | How lizards get their spots

Sarah McQuate

ホウセキカナヘビの背中の模様の形成の仕組みは、動物の体の模様を記述する一般的な規則には当てはまらないと考えられてきた。このたび、このトカゲでは、鱗の1枚1枚が隣接する鱗との間で色を調節していて、こうした仕組みは「セルオートマトン」という数学モデルに当てはまることが分かった。

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Michel C. Milinkovitch

ホウセキカナヘビ(Timon lepidus)というトカゲの成体の背中には、黒と緑色の渦巻き模様がある。皮膚模様がある動物は珍しくないが、ホウセキカナヘビは、その背中に広がる迷路のような模様を、多くの動物とは異なる方法で発達させることが突き止められた。

ジュネーブ大学(スイス)の生物物理学者Michel Milinkovitchらは今回、ホウセキカナヘビが幼体から成体になるまで4年間にわたって観察し、このトカゲの背中にある鱗の一部は、隣接する鱗の色を検知して色を変えることを見いだした。さらに、これらの鱗の1つ1つが意思決定単位であることを示し、Nature 2017年4月13日号173ページに報告した1

トカゲを含む多くの動物に縞模様や斑点模様ができる仕組みは、チューリング方程式と呼ばれる一連の数学法則によって記述できることが知られている。この法則が作り出す「チューリング・パターン」は、連続した模様として動物の全身に広がり、他の生物学的特徴(例えばトカゲの鱗)とは独立に決定される。しかし、成体のホウセキカナヘビの背中には、個々の鱗と連動した離散的なパターンがある。このトカゲの鱗は透明なケラチンからできていて、その下にある皮膚の色が透けて見えるのだが、鱗の1枚1枚が色の単位となっていてその色は黒か緑のどちらかなのだ。

「彼らの論文のおもしろさは、この点にあります」と、ゲノム調節センター(スペイン・バルセロナ)のシステム生物学者James Sharpe(彼は、今回の研究には関わっていない)は言う。「生物は柔軟で、ぐちゃぐちゃしているものですが、ホウセキカナヘビの皮膚模様はデジタルで、離散的なのです」。

自己決定

Milinkovitchらは、この現象を調べるため、3匹の雄のホウセキカナヘビについて生後2週のときから3~4歳になるまで背中の高解像度写真の撮影を続け、それぞれのトカゲの背中を覆う約5000枚の六角形の鱗について、色の変化を追跡した。

トカゲが成長するにつれ、背中の模様は、茶色に白の斑点から、緑色と黒の渦巻き模様へと変化していった。約5000枚のうち約1500枚の鱗の色が変化した。緑色の鱗が4枚の黒い鱗と2枚の緑色の鱗に囲まれ、黒い鱗が3枚の黒い鱗と3枚の緑色の鱗に囲まれるようになった(図1)。周囲を気にするような鱗のふるまいを見たMilinkovitchは、「セルオートマトン」という計算モデルによる過程を連想した。

図1 ホウセキカナヘビの背中の模様の経時変化
(上)成長するにつれて、背中の模様は、茶色に白の斑点から、緑色と黒の渦巻き模様へと変化する。
(下)個々の鱗の拡大図。矢印は、鱗の色が変化した箇所。個々の鱗が意思決定単位であり、周囲の情報をもとに自身の色を決定していく様子が見て取れる。 | 拡大する

参考文献1から改変

セルオートマトンとは、計算を行う自己複製単位であり、計算科学の分野で最初に考案された。Milinkovitchがこの計算モデルをホウセキカナヘビの鱗に当てはめたところ、このトカゲの個々の鱗は、周囲の情報(何枚が黒で、何枚が緑色か)を集約してその色をどうするか決定することが分かった。

「この点に気づいたことに満足してしまう可能性もありました」とMilinkovitch。けれども彼は、ホウセキカナヘビの模様が、他のほとんどの動物の模様が従うチューリング・パターンに従わない理由を知りたいと考えた。

点と点を結ぶ

その答えを探すため、研究チームはホウセキカナヘビの皮膚細胞に注目した。トカゲや魚の皮膚には、さまざまな色を作り出す各種の細胞がある。例えば、ゼブラフィッシュの皮膚細胞は、細胞間の相互作用によってチューリング・パターンを作り出すことが分かっている。

Milinkovitchのチームは、ゼブラフィッシュの研究データから導き出した方程式に基づいて色素細胞同士の相互作用のモデルを作り、その結果をホウセキカナヘビの皮膚の模様と比較した。研究者らは、ホウセキカナヘビの皮膚は鱗の下では厚く、皮膚細胞同士が相互作用しやすくなっているのに対し、鱗と鱗の境目の皮膚は薄く、細胞同士が相互作用しにくくなっていることを見いだした。つまり、鱗と鱗の間に薄い部分があることで、色の広がる範囲がそれぞれの鱗の内部に限定されると考えられるのだ(図2)。この結果は、動物の皮膚の凹凸によって、連続的なチューリング・パターンが分断されていることを示唆している。

図2 ホウセキカナヘビの鱗の断面図
左は黒い鱗、右は緑色の鱗の断面図で、鱗と鱗の境目の皮膚は薄くなっている。矢印は虹色素胞という色素細胞で、黒い鱗の表面にのみ存在する。スケールバーは50µm。 | 拡大する

参考文献1から改変

Milinkovitchによると、貝殻などに見られる大きなチューリング・パターンが、セルオートマトンによって作り出されることはすでに示されているという。けれどもその逆、すなわち、小さなチューリング・パターンが大きなセルオートマトンに組み込まれるのが観察されたのは、今回が初めてだ。

メルボルン大学(オーストラリア)の進化生物学者Devi Stuart-Foxは、動物における皮膚模様の発達は、性質に基づいて記述されることが多いと説明する。ホウセキカナヘビの模様は、彼らが環境に溶け込むのに役立っているのかもしれない。「けれども、生物学的過程を記述できる一般的な数学法則の存在を示すことができれば、そこで起きていることの理解の助けになる概念的な枠組みを提供することができます」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Manukyan, L. et al. Nature 544, 173–179 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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