News

古代の巨大噴火の痕跡が明らかに

インドの西ガーツ山脈では、6600万年前のデカントラップでの火山噴火により堆積した火成岩が見られる。 Credit: DINODIA PHOTOS/GETTY

巨大火山が古代の地球に溶岩を吐き出した回数は、地質学者たちがこれまで考えていたよりはるかに多かったようだ。地質学的記録の分析により、これまで最大級と考えられていた噴火に匹敵する規模の噴火が、過去30億年間に少なくとも10回は発生していることが明らかになった。

地球の歴史の中で何度か起きた甚大な変化のいくつかは、巨大噴火と関連付けられている。2億5200万年前に発生した最大級の大量絶滅も、巨大火山の噴火によりシベリア全域が溶岩と有毒ガスで覆われたことが原因だったと考えられている。

研究チームを率いたカールトン大学(カナダ・オンタリオ州オタワ)とトムスク州立大学(ロシア)の地質学者Richard Ernstは、「地球の歴史をさかのぼっていくと、巨大噴火としか言いようのない噴火が何度も起きているのです」と言う。

巨大噴火が発生した時期と場所が明らかになれば、鉱床の在りかを特定したり、過去に存在した超大陸の姿を再現したり、地殻の誕生を解明したりするなど、地質学者にとって有用な手掛かりが得られる可能性がある。さらに、他の惑星における同様の火山活動を調べることで、初期の地球の地史に関する手掛かりが得られると考えられる。

Ernstは2017年3月に、今回の研究に出資した産業コンソーシアムに対して研究成果の報告を行った(「地球最大規模の噴火」参照)。年内には、このデータを世界地質図委員会(フランス・パリ)を通じて公開する予定である。これについて、タスマニア大学(オーストラリア・ホバート)の海洋地球物理学者Mike Coffinは、「次の10年の流れを決定付けるデータベースになるでしょう」と言う。

地球最大規模の噴火
世界各地の巨大火山の噴火に関する地質学的記録が得られたことで、20億年以上前に地球環境を激変させるような巨大噴火が何度も起きていたことが分かってきた。 Credit: SOURCE: RICHARD ERNST

動かぬ証拠

意外かもしれないが、古代の噴火の痕跡は、すぐに見えるところにある。火口から流れ出した溶岩は、浸食によりとっくの昔になくなってしまっているが、地下のマグマが地表の火口まで通ってきた火道はまだ残っているからだ。

Ernstらは、世界各地の火道の痕跡を徹底的に調査した。古代の火道の痕跡は、浸食によりなくなってしまった火山の火口の周囲に放射状に広がる古い溶岩(岩脈群)として見られることが多い。地質学者たちは岩脈群の地図を作成し、ウラン・鉛年代測定法を用いて、それぞれの岩脈の年代を特定した。判明した年代を比較することで、同じ1回の巨大噴火に由来する岩脈を互いに関連付けることができる。この調査により、多くの大規模火山活動の証拠が発見された。

新たに特定された大規模噴火は、Ernstのデータベースに登録される。「シベリアの巨大噴火に匹敵する規模の噴火を、これまでに10~15も発見しました。私たちが全く知らなかったものや、ほんの少し調査しただけで本当の規模が分かっていなかったものばかりです」とErnst。

例えば、彼らが新たに突き止めたものの中に、13億2000万年前にオーストラリアで発生した噴火があり、これは中国北部の噴火とつながっていることが分かった。カディ・アイヤード大学(モロッコ・マラケシュ)の地質学者Nasrrddine Youbiは、「異なる大陸にある岩脈群を互いに関連付けることで、時間の経過とともに地殻の位置関係がどのように変わってきたかを知ることができます」と言う。

こうした噴火では数百万年の間に100万km3以上の溶岩が噴出することがあり、「巨大火成岩岩石区(large igneous province:LIP)」と呼ばれる地形を形成する。ちなみに、1980年のセントヘレンズ山(米国ワシントン州)の噴火で噴出した溶岩の量は、わずか10km3だ。

巨大噴火は膨大な量のガスも放出し、地質学的には一瞬といってよいほどの短期間に、気温と海洋の化学的性質を激変させる。2017年2月に発表されたモデル研究によると、シベリアの巨大噴火の最盛期には世界の気温が7℃も上昇した可能性が示唆されている(F. Stordal et al. Palaeogeogr. Palaeo-climatol. Palaeoecol. 471, 96-107; 2017)。やがて、噴火によりまき散らされた硫黄粒子が地球全体の温度を下げると同時に酸性雨を降らせたことで、海洋生物種の96%以上が絶滅した。

しかし、オスロ大学(ノルウェー)の火山学者Morgan Jonesは、古い時代になるほど、LIPが地球環境に及ぼした影響は曖昧になると指摘する。年代の不確実性は大きくなり、個々の噴火を環境への具体的な影響と関係付けることが困難になる。「そこが私たちの理解の限界なのです」。

平均すると、LIPは約2000万年に1つのペースで形成される。最も新しいものは、今日の米国北西部にあたる地域で1700万年前の噴火によって形成されたコロンビア川台地だ。

ニューヨーク州立大学バッファロー校(米国)の火山学者Tracy Greggは、地球上でもっと多くのLIPが発見されれば、近隣の惑星に関する地史の全体像を把握するのに役立つはずだと考えている。彼女とErnstは、2017年3月に米国テキサス州で開催された月・惑星科学国際会議で、太陽系のLIPに関する特別セッションの司会を務めた。

Greggによると、金星、火星、水星、月には巨大噴火の痕跡が見られるという。月では38億年も前にLIPを形成するような火山活動が始まっているし、火星でも35億年前に始まったようだ。しかし、月や火星には表面の活動を保つプレート・テクトニクスがないため、やがて噴火は終息した。

「他の惑星は、地球が失ってしまった初期の惑星進化に関する情報をとどめています」とGregg。「こうした惑星を調べることで、地球の初期の歴史を垣間見ることができるのです」。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170609

原文

Earth’s lost history of planet-altering eruptions revealed
  • Nature (2017-03-16) | DOI: 10.1038/543295a
  • Alexandra Witze