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ネアンデルタール人の歯石DNAから生活様式が見えてきた

ネアンデルタール人は、薬草を用いたセルフメディケーションも行っていたようだ。 Credit: MAURICIO ANTON/SPL/Getty

スペイン北部のエルシドロン洞窟のネアンデルタール人たちは、ぎりぎりの生活を送っていた。しかし、約5万年前にこの世から消える前、彼らはキノコや蘚類、マツの実を食べていた。病気の治療に植物やカビを使った例もあるようだ。この詳細な描写は、ネアンデルタール人5個体の石灰化した歯石のDNAを解析した結果に基づいている。この解析結果はNature 2017年4月20日号357ページで報告された1

絶滅したヒト族種のマイクロバイオームを初めて復元したこの研究から、現生人類とネアンデルタール人がおそらくキスを交わすなど親密であったことも示唆されるという。この研究の主導者の1人であるアデレード大学(オーストラリア)の古微生物学者Laura Weyrichは、「実に、彼ら1人1人の違いが分かるくらいに、その個性と実際の姿のほぼ全容を描写することができたのです」と話す。

Weyrichらは、エルシドロン洞窟のネアンデルタール人とベルギー・スピー洞窟のネアンデルタール人とで歯石のDNAを比較した。解析の結果、スピーの住人たちがケサイ(ケブカサイとも呼ばれる毛に覆われたサイで、氷河時代に欧州とアジアに生息していた)や野生ヒツジを食べていたとみられる一方で、エルシドロンの住人たちは植物を探し回っていたことが分かった。キノコはどちらでも食べられていた。

しかし、チュービンゲン大学(ドイツ)の古生物学者Hervé Bocherensは、歯石のDNAから食事の内容や両者の食生活の違いが分かるとは考えていない。動植物DNAのデータベースには、ネアンデルタール人が食べたと考えられる絶滅種が含まれていないことが多く、また過去の研究では、どちらの集団も肉を食べていたことが示唆されている。「現時点では、彼らのその結論が確かなものと考えることはできません」とBocherensは話す。

Credit: Paleoanthropology Group MNCN-CSIC

エルシドロンのネアンデルタール人は、植物を使ったセルフメディケーションも行っていたようだ。ある個体の歯からは、ポプラの木(鎮痛薬の有効成分であるサリチル酸を含む部位がある)とアオカビ属の真菌(ペニシリンの供給源)のDNAが出てきた。Weyrichは、目に見える歯性膿瘍や、微胞子虫(Enterocytozoon bieneusi:腸管に寄生する原始的な真核生物)による胃感染症を治療しようとしていたのではないかと考えている。

メタノブレビバクター・オラーリス(Methanobrevibacter oralis)というアーキア(古細菌)の存在を示す遺伝学的証拠からは、別の洞察がもたらされた。というのも、この微生物は現生人類の口腔にも存在しているからだ。ゲノムを比較したところ、この微生物の現生系統がネアンデルタール人のものから分岐したのは、両ヒト族種の最終共通祖先の時代から数十万年後だったことが示唆された。つまり、両種は分岐後もこのアーキアをやりとりしていたことが示唆される。「種間でつばのやりとりがあるということは、キスか、少なくとも食物の共有が行われていたのです」とWeyrichは話す。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170611

原文

Neanderthal tooth plaque hints at meals — and kisses
  • Nature (2017-03-09) | DOI: 10.1038/543163a
  • Ewen Callaway

参考文献

  1. Weyrich, L. S. et al. Nature 544, 357–361 (2017).