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ニュートリノで核監視

素粒子物理学の実験手法を、不法な核開発計画と戦うために利用できるかもしれない。最近、原子炉内で兵器級の核燃料が使われているかどうかを数カ月で判別できる反ニュートリノ検出器の作製方法が、プレプリントサーバーのarXiv.orgに公開された。そうした検出方法の必要性はますます差し迫っている。北朝鮮がミサイル技術を、イランは核兵器開発計画の能力を高めており、査察が重要課題になっているのだ。米国務長官Rex Tillersonはこの3月、北朝鮮の核の野望をくじくには外交圧力だけでは失敗に終わったと述べ、「別のアプローチ」を求めた。

ウォッチマン

原子炉内でプルトニウムなどの放射性元素の原子核がより軽い元素に分裂する際に、副産物として反ニュートリノが生じる。ベータ崩壊と呼ばれる核反応では、陽電子とニュートリノまたは電子と反ニュートリノが放出される。この反ニュートリノは原子炉の存在を物語る証拠となる。多量の反ニュートリノを安定した割合で発するのは核燃料中の放射性元素だけだからだ。

反ニュートリノに基づく核監視は「ウォッチマン」という米国主導のプロジェクトの推進力だ[プロジェクト名のWATCHMANはWATer CHerenkov Monitor for ANtineutrinos(反ニュートリノ向け水チェレンコフ・モニター)から]。ウォッチマンの装置はガドリニウムを添加した数千トンの水を入れたタンクからなり、不法な原子炉からの反ニュートリノを、理論的には最長で1000km離れた所から検出できる。厳重に警備された施設の近くに査察官が巨大な水タンクを建設するのを許すよう用心深い国に外交手続きに基づいて依頼しても実現は難しいため、そうした検出距離は重宝だ。

反ニュートリノが陽子(巨大タンク内の水分子の水素原子核)にぶつかると、その陽子は中性子と陽電子に変化する。この陽電子の動きは非常に高速なので、「チェレンコフ放射」という光を発する。荷電粒子が物質中を光の速度よりも速く移動するときに生じる光で、超音速ジェット機が生む衝撃波の光版といえる。何者も真空中の光速より速くは移動できないが、水やガラス、空気など媒質中では光速が遅くなるため、それを上回るスピードで移動する粒子があり得る。

こうして、反ニュートリノがもとになって生じた陽電子はウォッチマンのタンク内で閃光を生じる。一方、水中のガドリニウムは中性子を吸収し、その過程で第二の閃光が生じる。この特徴的な二重閃光によって、原子炉の存在と方位が明らかになる。

核燃料タイプを判別する小型装置

ウォッチマンは原子炉が稼働中かどうかと原子炉の場所を特定できるが、高濃縮プルトニウムとウランの混合比など核燃料の詳細は分からない。ロスアラモス国立研究所(米国ニューメキシコ州)のポスドク研究員で新提案の論文を共著したPatrick Jaffkeは、原子炉近くに設置可能な小型版装置によって反ニュートリノの活性を解析して核燃料のタイプを判別する方法を提案している。この設計では、陽電子が発したチェレンコフ光のスペクトルと形状を計測し、陽電子のエネルギーからもともとの反ニュートリノのエネルギーを割り出す。検出された陽電子のエネルギー分布をグラフ化することで、原子炉の炉心にある特定の燃料タイプから放出された反ニュートリノの総量を推定できるだろう。

反ニュートリノが陽子に衝突する確率を高めて装置のサイズを桁違いに縮小するため、Jaffkeは水の代わりにプラスチックなど陽子がぎっしり詰まった炭化水素を使うことを提案している。これなら原子炉から数十m以内に設置できる可能性がある。

そうした検出器は小型になるものの、背景ノイズの問題は依然として残るだろう。例えばニュートリノ反応によるものに似た中性子が宇宙線によって生じてガドリニウムと反応する場合がある。だが、検出器を原子炉のかなり近く、地下5~10mに設置すればこの問題を解決できる可能性があると、2016年にウォッチマンのノイズ問題の解析を主導したローレンスリバモア国立研究所(米国カリフォルニア州リバモア)のSteven Dazeleyは言う。装置周辺に遮蔽を追加するのも有効だろう。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170608a