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南極大陸の棚氷に巨大亀裂

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170511

原文:Nature (2017-02-23) | doi: 10.1038/nature.2017.21507 | Giant crack in Antarctic ice shelf spotlights advances in glaciology

Jeff Tollefson

南極大陸の4番目に大きな棚氷「ラルセンC」に、長さ175kmの亀裂が発生している。近く、東京都の2倍を超える面積の氷山を分離しそうだ。

ラルセンCにできた巨大な亀裂。幅は90m以上で、棚氷の底まで貫通している。NASAの調査で2016年11月に撮影された。ラルセンCは南極半島東側にある棚氷で、面積は約5万km2、厚さは約350mある。 | 拡大する

NASA

南極大陸の4番目に大きな棚氷「ラルセンC」に、長さ175km(2017年1月19日現在)の巨大な亀裂が発生している。亀裂を監視してきた科学者たちは、数週間から数カ月以内に亀裂が海に達し、東京都の2倍余りの面積に相当する約5000km2の巨大氷山をウェッデル海に分離する可能性がある、と指摘する。今後、ラルセンC全体の崩壊につながる可能性があり、地球温暖化との関連や海面上昇が早まることが懸念される。

棚氷は、陸上の氷河が海上に流れ出し、巨大な氷板となって海に浮いているものだ。ラルセンCは、南極半島の東側にある棚氷の1つで、全体の面積は約5万km2(九州本島の約1.4倍)、厚さは約350mある。亀裂は、英国の研究チームなどにより2014年から追跡され、2017年1月1日から同月19日までの間に10km拡大した。亀裂の幅は2016年11月の観測で90m以上あり、棚氷を底まで貫通している。

南極半島は、世界中でも特に気温上昇が著しい場所の1つで、2000年までの50年間で約2.8度の上昇が観測された。南極半島では棚氷の崩壊が進んでいて、ラルセンCの北にあった、ラルセンA棚氷は1995年に、ラルセンB棚氷は2002年に崩壊した。

研究者たちは今、ラルセンCが今後どうなるかを解明するため、ラルセンAとラルセンBの歴史を再検討している(「ラルセン棚氷の状況」参照)。現在拡大している亀裂は、ラルセンCが長期的な衰えを見せ始め、最終的には完全に崩壊することが避けられないことを示す兆候だと、多くの研究者が恐れている。ラルセンCが完全に崩壊するならば、氷山を分離した後、崩壊までにどれぐらいの時間が残っているのかは分かっていない。

ラルセン棚氷の状況
南極半島のラルセン棚氷は、1990年代後半から劇的に変化してきた。ラルセンAは1995年に、ラルセンBは2002年に崩壊した。現在、ラルセンC に大きな亀裂が拡大している。 | 拡大する

SOURCE: NASA EARTH OBSERVATORY/JESSIE ALLAN/US GEOLOGICAL SURVEY

カリフォルニア大学アーバイン校(米国)の雪氷学者Eric Rignotは、「衛星画像はラルセンCが1980年代から縮小し続けていることを、レーダー測定結果はラルセンCの氷が薄くなりつつあることを示しています」と話す。研究者たちは、ラルセンCの表面上に氷が解けた水で池が生じていることも観測している1。ラルセンBでは、こうした池が氷に穴をうがち、亀裂を拡大させて崩壊を早めたとみられている。

ラルセンCは、好都合な海底形状によって、急速な崩壊からある程度は守られている。ラルセンCを囲む2つの水中の隆起が摩擦力を及ぼし、海への氷の流れを遅くしているのだ。

「それでも、状況はラルセンBの衰退と極めてよく似ています」と、英国のスウォンジー大学の雪氷学者Adrian Luckmanは指摘する。彼は、今回のラルセンCの亀裂を監視してきた研究チームのリーダーである。ラルセンBでは、1995年に大きな氷山分離イベントがあった。その後、ラルセンBは徐々に縮小し、氷山分離の7年後に完全に崩壊した。「ラルセンCが、差し迫った分離イベントの後、どれだけすぐに崩壊するかは分かりません。しかし、同様のパターンをたどる可能性があります」と彼は話す。

ラルセンCの状況の意味を理解するには、ラルセンBの崩壊で得られたことを知る必要がある。米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(カリフォルニア州パサデナ)の雪氷学者Ala Khazendarは「ラルセンBの崩壊は、最後の氷河期以降で最大の棚氷崩壊で、棚氷の役割の解明における転換点になりました。氷床内部から海への氷の動きを棚氷がどのように調整しているかを説明する役目をしたのです」と話す。

陸上の氷河が海へと流れていくことは避けられないが、棚氷はコルク栓のように働き、氷河の流れを遅くする、とみられている。棚氷は、氷河を支えるのにどの程度寄与しているのか。研究者たちは、ラルセンBの崩壊までの数十年にわたって議論してきた。

ラルセンBの崩壊後に観測された人工衛星データにより、議論はおおむね収束した2,3。Rignotによると、ラルセンAとラルセンBが崩壊した後、この2つの棚氷につながっていた氷河が海に流れる速度は最大で8倍まで上昇したという。「一部の氷河は速度を少し落としましたが、それでも以前よりも5倍速く流れています」とRignotは指摘する。Khazendarらは、ラルセンBへ流れる2つの氷河は、その崩壊前から加速し始めていたことを見いだした。ラルセンBが衰えたことが原因とみられた。

ラルセンBの崩壊後、氷床のシミュレーションモデル開発者らは、氷河の流れを駆動する力をより正確に反映し、コルク栓効果を定量化するようにモデルを改良してきた。彼らは、ラルセン棚氷の限られた観測結果をより広く応用できるという自信を深めている。

棚氷の崩壊は、南極大陸を遠く離れても影響する。棚氷は海に浮かんでいるので、氷山が分離・融解しても地球の海面水位への影響はわずかだ。しかし、ラルセンCに流れ込む氷河は、地球全体の海面を5~10cm程度上昇させるだけの水を含んでいると見積もられている。この水は、棚氷がなくなればより速く海に流れ込むとみられる。地球の海面は、1年に約3mmのペースで上昇していて、最近の研究によると、その3分の1は、南極大陸とグリーンランドの氷の喪失が原因であると見積もられている4

今のところ、研究者たちは心配しながら、ラルセンCの拡大していく亀裂を監視している。スバールバル大学センター(ノルウェー)の雪氷学者Chris Borstadは、ラルセンCの「縫合帯」に特に興味を持っている。縫合帯は、陸から海上に流れ出た幾筋もの氷河の氷が互いにくっつき合う領域だ。氷河から流れ出た氷は、縫合帯で下(海)側から凍った氷によって結合されていることが多く、縫合帯の氷は比較的柔らかい。

「数十本のかなり大きな亀裂がラルセンCの縫合帯の1つへ走っていて、そこで止まっています」とBorstadは指摘する。拡大している亀裂は、そうした亀裂の1つだが、2014年になぜか縫合帯を突破し、それ以来ずっと拡大し続けてきた。なぜ亀裂が柔らかい氷を突破することができたのか、また、他の亀裂も今後数年間で同じように突破するのかどうかは明らかではない。

Borstadは、「縫合帯には、亀裂を止めるのにとても効果的な何かがあるようです。それが何なのかはまだ分かりませんが、棚氷の崩壊現象を解明するカギかもしれません。そのカギを見つけるために、私たちは現場に行って調べる必要があります」と話す。

(翻訳:新庄直樹)

参考文献

  1. Luckman, A. et al. Antarct. Sci. 6, 625–635 (2014).
  2. Rignot, E. et al. Geophys. Res. Lett. 31, L18401 (2004).
  3. Scambos, T. A., Bohlander, J. A., Shuman, C. A. &a,p; Skvarca, P. Geophys. Res. Lett. 31, L18402 (2004).
  4. Forsberg, R., Sørensen, L. S. & Simonsen, S. B. Surv. Geophys. 38, 89–104 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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