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アヒル目隠し実験

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170507a

ヒナ鳥の刷り込みは左右の目で別々

2015年夏、オックスフォード大学(英国)の動物学者Antone Martinho IIIとAlex Kacelnikは、実にかわいらしい実験を始めた。アヒルのヒナに目隠しを付けて行う実験だ。左右どちらの目を使えるかが母鳥の「刷り込み」にどう影響するのかを調べるのが狙いだ。しかし、なぜ目の左右が関係するのか? 人間では当たり前のある脳領域が鳥にはない からだ。

片目を隠して刷り込み

人間の脳の左右の半球の間には「脳梁」という神経の太い束がある。脳梁は情報の橋渡しをしており、左右の半球が素早く情報を伝達し、一体として働くことを可能にしている。鳥の脳は完全には左右に分かれていないものの、この経路のメリットを得られない。このちょっと変わった神経構造が、無理からぬ実験につながった。「ロンドンのセントジェームズ公園に行ったとき、湖にアヒルのヒナが親鳥と一緒にいるのを見ました」とMartinhoは言う。「このとき、刷り込みを使って脳内の情報伝達を調べる実験を思いついたのです」。

彼らは、64匹のヒナの片目を隠した後、赤または青のアヒル成鳥の模型を見せた。すると、この色付きの偽アヒルが「母鳥」として刷り込まれ、ヒナはその後ろをついて回るようになった。だが、ここで一部のヒナの目隠しを他方の目に付け替え、それまで隠していた目で見るようにしたところ、もはや「母鳥」を認識できなくなったようで、赤のアヒルと青のアヒルに同じ親和性を示した。

これらのヒナが赤と青のいずれかを選好するようになるまでには3時間かかった。一方、片方の目で赤のアヒル、他方の目で青のアヒルを見て別々に刷り込まれていたヒナの場合、両目を見えるようしたところ、赤青どちらを選好することもなかった。この成果は昨年末のAnimal Behaviorに報告された。

脳梁なしで生きる適応

この実験結果から、鳥の脳の左右半球の間に素早いコミュニケーションは根本的に存在しないこと、そして片方の目から入った情報は片方の半球にだけ伝えられることが明らかになった。このように脳の左右に記憶を分けておくのは優れた戦略とは思えないかもしれないが、トレント大学(イタリア)の神経科学者Giorgio Vallortigara(今回の研究には加わっていない)は、脳梁がないと生きていく上で有利になる点があるかもしれないとみる。例えば、それぞれの脳半球が特定種類の記憶に特化できるようになるだろう。

鳥は普通、両目を使って見て、脳の2つの半球を調和して働かせている。「つまり、鳥は2つの不連続な情報の流れを統合して決定を下すために、とてつもない行動的適応をしているということです」とMartinhoは言う。「鳥であるということは、私たちの想像をはるかに超えています」。

(翻訳:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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