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ハチは仲間のプレーでサッカーを覚える

一匹のインストラクター役のハチが別のハチに、ボールをどうすると報酬がもらえるかを見せている。

サッカーでゴールを決めたハチには甘いご褒美がある。他の個体がボールを扱うのを目撃したハチは、それだけで、またたく間に昆虫版のサッカーをマスターするという。小さな送粉者に高度な学習能力があることを示唆する論文が、Science 2017年2月24日号に掲載された1

この実験ではまず、複数のマルハナバチに仲間のハチがボールをゴールへ運び、報酬として大量の砂糖水をもらう様子を見せた。観察していたハチは、すぐに同じプレーを行うことができた。ハチたちは、その報酬をさらに小さな労力で手に入れる方法まで見つけた。論文の共著者であるロンドン大学クイーンメアリー校(英国)の行動生態学者Olli Loukolaは、「ハチはただやみくもにまねをしているわけではありません。改善もしています」と話す。

ハチに社会性のあることはよく知られた事実だが、今回ハチとしての仕事を離れた作業を学習できる能力が確認された。 Credit: Stefanie Amm/EyeEm/Getty

これまでの研究で、昆虫には高度な認知的作業を行う能力があることが示されていた。しかし、昆虫が本来の仕事(今回であればハチとしての仕事)とはかけ離れた作業でもうまくやれるようになることが示されたのは今回が初めてだと、著者らは言う。訓練の長い積み重ねではなく、仲間を観察することによってハチが複雑な技能を習得した、という事実も新しい発見だった。

Loukolaらは、セイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)のグループを訓練し、木製のボールを台の中央へ移動させると砂糖水がもらえることを覚えさせた。まず、訓練済みのハチが砂糖水をもらう様子を試験集団のハチに観察させるというプロセスを3回繰り返した。その後、試験集団のハチにボールを操作させたところ、ハチはほぼ毎回ゴールを決めることができた。事前の観察なしのコントロール集団では約30%しかゴールを決められなかったことを考え合わせると、試験集団のハチは、訓練済みのハチを観察して社会的手掛かりを読み取っていたことが示唆される。

社会的学習

ハチが習得したこの能力を向上させるため、研究チームは、インストラクター役のハチにボールを3個提示した。2個はその場に貼り付けられていて動かないが、ゴールから最も離れた1個のみ自由に転がすことができる。まず、インストラクター役のハチが苦労してその1個をゴールへと運ぶ様子を試験集団のハチに観察させた。その後、この試験集団に自由に転がるボール3個を提示した。するとハチは、インストラクターをまねて最も遠いボールを動かすよりも、もっと楽な方法を見つけ出した。ゴールに最も近いボールを動かしたのだ。

マッコーリー大学(オーストラリア・シドニー)の神経行動学者Ken Chengは、この結果に感心している。「確かに『ゴールエミュレーション』とでも呼ぶべきもののようです」とChengは話す。つまり、機械的な模倣ではなく、目標を目指す行動だ。そうであれば、「かなり高度なものです」。

レーゲンスブルク大学(ドイツ)のTomer Czaczkesは、「社会的学習のおかげ」という解釈に懐疑的だ。試験集団のハチは、ボールと目標が「興味深い」ものだということを学習し、「台の中央にいちばん近いボールに触れたら動いたのでそれを運んだだけ」ではないか、とCzaczkesは見ている。

論文の共著者であるロンドン大学クイーンメアリー校の認知神経行動学者Clint Perryは、仲間のハチから教わった集団が、手本のハチがいなかった集団(ボールを磁石で動かして見せた集団と、全く何も見せなかった集団)よりも好成績を収めたことを指摘する。「社会的情報が大いに役立っています」とPerry。

「脳が小さいからといって単純だとは限らない、という考えが強く支持されます。ハチのような小さな脳も、我々の想定を超えていろいろなことができるのです」とPerryは語る。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170504

原文

Bees learn football from their buddies
  • Nature (2017-02-23) | DOI: 10.1038/nature.2017.21540
  • Traci Watson

参考文献

  1. Loukola, O. J., Perry, C. J., Coscos, L. & Chitka, L. Science 355, 833–836 (2017).