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クルクミンの効果に化学者が警鐘

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170416

原文:Nature (2017-01-12) | doi: 10.1038/541144a | Deceptive curcumin offers cautionary tale for chemists

Monya Baker

香辛料抽出物クルクミンは広範な評価試験でニセの反応を示す分子であると、注意を呼びかける論文が発表された。

ターメリックは努力と資金の無駄遣いの元凶となっていると、一部の医薬化学者らが警鐘を鳴らしている。 | 拡大する

KAI WONG/ISTOCK/GETTY

黄金色の香辛料ターメリックには、世間を欺き続けた化学物質クルクミンが潜んでいる。クルクミンは、薬理活性を持つとして広くもてはやされている分子だが、薬剤スクリーニングテストでニセのシグナルを発するのだ。化学者は、不慣れな創薬研究者を誤った方向に導き得るクルクミンなどの化合物について、長年にわたって注意を呼びかけてきた。

今回、ミネソタ大学(米国ミネアポリス)の医薬化学者Michael Waltersらは、長く続いてきた混乱の流れを食い止めようと、これまでで最も包括的なクルクミン関連の批評論文を2017年1月11日にJournal of Medicinal Chemistryに発表した(K. M. Nelson et al. J. Med. Chem. 2017)。この論文でWaltersらは、「何千という研究論文が発表され、120件を超える臨床試験が行われたにもかかわらず、クルクミンに明確な治療的効果があるという証拠はない」と結論付けた。Waltersらはこの論文により、今後の無駄な研究の防止を願うとともに、化学物質が薬剤スクリーニングで「ヒット」することが多くても薬になる可能性は低いことを、先走る研究者に知らせたいと考えている。

「クルクミンの話は訓戒になっています」とWaltersは言う。一般的な薬剤スクリーニングでは、ある化学物質が病気に関係するタンパク質の結合部位に特異的に結合するかどうかが見分けられる。つまり、この過程で「ヒット」した化学物質は、創薬に向けての出発点になり得る。しかし、クルクミンなどの分子は、そうした活性が実際にはないにもかかわらず、存在するように見える。例えば、こうした分子は自然に蛍光を発するため、タンパク質結合の指標として蛍光を使う試みは失敗に終わるかもしれない。また、これらは細胞膜を破壊するため、特定の細胞膜タンパク質を標的とする薬剤を発見しようとする際に評価を誤らせてしまうかもしれない。それ以外にも、いつの間にか劣化して異なる特性を持つ別の化合物に変化する可能性や、不純物を含んでいるために独自の生物活性を示す可能性がある。

化学者は、広範な評価試験を妨害するこうした厄介な化合物をPAINS(pan-assay interference compounds)と呼んでいる。クルクミンは、最も悪質なPAINSの1つだ。「クルクミンは、スクリーニングでよく見られる妨害分子の典型です」と、国立先端トランスレーショナル科学センター(米国メリーランド州ベセスダ)でアッセイ開発・スクリーニング技術部門を指揮するJames Ingleseは言う。「この種の研究をしている多くの研究者が、クルクミンがもたらし得る全ての問題について技術的知識を持ち合わせているわけではありません」。

「クルクミン研究に多くの努力と資金が無駄遣いされてきました」と、この論文を出版したJournal of Medicinal Chemistryの共同編集長Gunda Georgは言う。それでも、クルクミンの原稿は頻繁に目にしている、と彼女は言う。クルクミンは、勃起不全、多毛症、脱毛症、がん、アルツハイマー病などの疾患の治療用に提案されてきたと、イリノイ大学シカゴ校(米国)の天然物研究者で論文共著者のGuido Pauliは話す。しかし、実績ある治療法につながっていないという。

問題の一部は、研究者が自分はどの分子を研究しているのか常に知っているわけではないことにあると、Pauliは考えている。ターメリックの抽出物には、クルクミンの他に数十種の化合物が含まれている。また、クルクミンという名称自体が、3種類のクルクミン近縁分子の簡易表現として用いられている。場合によっては、研究者が有望な生物学的効果を見いだしても、その活性が誤った分子によるものと見なしてしまう可能性がある。

誤解が誤解を生んでいるとWaltersは言う。クルクミンは、評価法に不備があったとしても、効果を持つものとして報告されている。「人々は、文献に書かれたことを正しいものとして受け入れて、仮説を立てます。問題のある評価法で導き出された結果であってもです」。また、どうも科学者たちは、文献にある化合物が疑わしいものとして扱われているかどうかという観点で文献をチェックしないようだ。実際、2009年以降少なくとも15報の論文が取り下げられ、数十の論文が修正されている。

それでも、いまだに多くの研究者がクルクミンについて楽観的だ。「クルクモイドの生物活性は本物という証拠があります」と、ロチェスター大学医療センター(米国ニューヨーク)の放射線腫瘍学者Julie Ryanは言う。クルクモイドはさまざまなタンパク質と相互作用するので、多くの薬剤とは異なる作用をすると彼女は説明する。Ryanは、皮膚炎の患者を対象とした臨床試験において600人以上の被験者に対してクルクミンの効果を調べた。顕著な効果は見られなかったが、さらなる研究に値する傾向があったと彼女は言う。化学修飾したクルクミンなら、より効果的に組織に到達するだろうと彼女は考えている。

しかし、今回のWaltersらの論文は、その薬理活性について真の答えを得ることが困難であることを示していると、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(米国)の化学生物学者Bill Zuercherは指摘する。「クルクミンやターメリック抽出物が有益な効果を示すかもしれないが、真相究明は手間を要し、不可能かもしれない」と彼は言う。

(翻訳:藤野正美)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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