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海洋生態系の詳細な3D地図が完成

生態学的海洋単位(EMU)地図を見ると、アイルランド沖の海水の状態の違いが分かる。 Credit: KEITH VANGRAAFEILAND & SEAN BREYER/ESRI

海洋学者たちは、七面鳥の丸焼きの残りを切り分けるように、世界の海を細かく分割した。極地方の深層の非常に冷たい水塊から黒海の酸素欠乏状態の水塊まで、世界の海水塊を37のカテゴリーに分類する3D地図が公開されたのだ。

3D地図では、温度、塩分濃度、溶存酸素濃度、栄養分濃度が同程度の海域がグループにまとめられている。地図が公開されてからまだ数カ月しか経っていないため、研究者たちはその利用法を模索している段階だ。地図の開発に携わった国際チームは、自然保護活動家や官僚などが、海洋の生物地理学を理解し、どの海域を保全するべきか決定する際に役立ててくれることを期待している。地図はまた、将来の海洋の変化を分析するための詳細な基準データとしても役立つだろう。

海域ごとの違いを分類する試みはこれまでに何度も行われていて、大規模な海洋生態系の各種のリストや、海洋生物の炭素消費速度によって定義されるロングハースト生物地理学的海洋区分(Longhurst biogeographical province)などがある。しかし、これらは海面や沿岸部の生態系に限定されていることが多い。今回の生態学的海洋単位(ecological marine unit;EMU)は、全世界の海を三次元的に捉えた、これまでで最も詳細な地図だ。

3D地図の開発に協力した地理情報システム会社Esri(米国カリフォルニア州レッドランズ)の主任科学者Dawn Wrightは、「海面と海底の間にあるものが、しばしば完全に抜け落ちているのです。私たちのプロジェクトでは、それを提供したいのです」と話す。

Esri社は2016年9月にEMUのデータのポータルサイトを立ち上げ、それ以来、さまざまな会議でこの概念を紹介してきた。Wrightも、2016年12月16日にカリフォルニア州サンフランシスコで開催された米国地球物理学連合の会合で説明を行った。

EMUは、海洋動物がその生息地で生きられる理由を解明するのに役立つ。この地図を見ると、熱帯太平洋の東部では、酸素が豊富な水塊と酸素が欠乏した水塊の間に複雑な相互作用があることが分かる。ある場所では低酸素ゾーンの境界が海面に近い所にあり、別の場所では他よりも深い所にある。デューク大学(米国ノースカロライナ州ダラム)の海洋生態学者Patrick Halpinは、この違いが、経済的に重要なマグロ漁場の位置に影響を及ぼしていると指摘する。「これを三次元的に見るのは非常に興味深いです。こういう地図は他にないので、ありがたいですね」。

生態学的に重要な海域や生物学的に重要な海域に永続的な海洋保全活動を集中させるため、現在、そうした海域を保護区として指定しようという国連の動きがある。EMUはその際の指針になるだろうと、Halpinは言う。当局がEMUの分布を参照すれば、そうした海域の境界を特定したり、全ての生物地理学多様性をカバーできるだけの海域を指定できたかを確認したりするのに役立つだろう。

南アフリカ国立生物多様性研究所(ケープタウン)は、2019年に自国の生物多様性の評価を更新することになっているが、同研究所の空間分析コーディネーターHeather Terraponによると、外海と深海の生息地についてはEMUのデータを利用することを検討しているという。環境情報管理センターGRID-Arendal(ノルウェー・アーレンダル)の海洋地質学者Peter Harrisは、独自にデータを収集する資金がない国も、EMUの無料のデータや図表を利用すれば海洋資源の管理ができると言う。

EMU作成は、実はあるプロジェクトの第二段階で、研究チームはすでに同様の地図の陸上版を作成している。米国地質調査所(ヴァージニア州レストン)の生態学者Roger Sayreは、地球観測に関する政府間会合(Group on Earth Observations;GEO)から、地球の生態系を分類する研究チームを率いることを依頼された。Esri社の研究者を含む研究チームは、地質学的情報と植生情報を組み合わせて約4000の「生態学的土地単位(ecological land unit;ELU)」を作った。例えば、温暖で湿潤な平原で、変成岩の上にあり、そのほとんどが落葉樹林で覆われている土地が、1つのELUとなる。

研究チームは次に、陸から海に目を向けた。Wrightと共にEMUプロジェクトを率いるSayreは「生態系地図の世界制覇というわけです」と言う。

彼らは、米国海洋大気庁(NOAA;メリーランド州シルバースプリング)が作成している世界海洋アトラスの5200万のデータポイントから始めた。このデータポイントには、3D地図のグリッドとなる27kmごとの化学的パラメーターや物理的パラメーターの情報も含まれている。研究チームは海底の形状などのデータを追加し、統計的手法を用いて、その結果をカテゴリー分けしていった。

こうして得られたEMU地図から、深層にある非常に低温の低酸素水塊が世界の海の約4分の1を占めていることが分かった。他の水塊はずっと小さく、紅海の上層の水塊や、北半球のいくつかの川の河口にある低塩分濃度の水塊などが確認された。

現在のEMU地図は、過去50年分のデータの平均値を利用している。サウスフロリダ大学セントピーターズバーグ校(米国)の生物海洋学者Frank Muller-Kargerは、衛星画像を利用して毎週作成される沿岸の地図の変化とEMUの比較を行っているが、より短い期間(例えば季節ごと)の状況を見ることができれば、より有用で詳細な情報を提供できるだろうと言う。数十年分の変化をモニターするには、EMUのチームは少なくとも5年おきに地図を計算し直す必要がある。

EMUの開発者たちは、今後、システムの反復により、そうした問題を解決できるだろうと考えている。彼らの今の目標は、沿岸部と淡水の生態系について新たなカテゴリーを作って、ELUとEMUを拡張することだ。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170409

原文

3D ocean map tracks ecosystems in unprecedented detail
  • Nature (1970-01-01) | DOI: 10.1038/541010a
  • Alexandra Witze