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地球の材料

エンスタタイトコンドライトであるSahara 97096。

地球全体の化学的組成は半世紀以上前から、地球の材料になった可能性のある宇宙にある物質(隕石として収集される)と地球の試料とを比較することにより推定されてきた。今回、シカゴ大学(米国イリノイ州)地球物理科学科のNicolas Dauphasは、さまざまなタイプの隕石に特有の同位体組成を使い、地球の主材料となった隕石はどのタイプの隕石だったか、さらに、地球に加わる隕石の構成が地球が出来上がるまでの間に時間とともにどう変化したかを見いだし、Nature 2017年1月26日号521ページに報告した1。ミュンスター大学惑星学研究所(ドイツ)のMario Fischer-GöddeとThorsten Kleineは、最も最後に地球に加わった材料(地球の質量の0.5%相当)は、地球の形成に大きく寄与したと長く考えられてきたタイプの隕石ではなかったことを示し、同号525ページに報告した2。Fischer-Göddeらの研究結果は、地球が揮発性元素と水をどのようにして獲得したのかに関する私たちの理解に変更を迫るものだ。

1970年代に、地球の酸素同位体組成は、大半の隕石とは異なることが分かった3。地球と同様の酸素同位体存在度を持つ唯一の隕石は、エンスタタイトコンドライトと呼ばれるもので、ケイ素に富み、高度に還元的だ(含まれる鉄の大部分は酸化物ではなく、金属か硫化物の形態にある)。この類似は、地球の組成は主にエンスタタイトコンドライトに由来している、とするいくつかの地球形成モデルの動機になった4,5。しかし、エンスタタイトコンドライトと地球の岩では元素組成が異なるため、大半の研究者は、炭素質コンドライトと呼ばれる、より酸化的で揮発性物質に富む隕石が地球の主材料であるとするモデルを使い続けた6,7

その後、同位体存在度を決定する精度が向上した結果、地球の岩と隕石を見分けるのに多くの元素が使えることが明らかになった8。2011年、こうした同位体存在度の違いに関する1つの研究が、地球は、大半のモデルの主要な成分であった炭素質コンドライトだけではなく、複数のタイプの隕石の混合物からできたことを示唆した9。Dauphasは今回、このアプローチをさらに進め、1つの方法論を開発した。この方法では、さまざまなグループの隕石と地球の岩との同位体存在度の違いを使い、地球に集積した物質の組成を、地球の形成過程を通じて追跡できる。

図1 地球の形成過程
地球の金属鉄中心核がケイ酸塩マントルから分離したとき、ケイ酸塩に溶けるよりも金属に溶けやすい元素は核に移動した。核形成が終わった後、これらの元素は隕石の集積によってマントルに再び追加された。Dauphasは、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)(核への親和性が増す順)について検討した1。彼は、これらの元素の地球と隕石の同位体存在度の違いを使い、地球は、現在の約60%の質量に達する時期までは、複数のタイプの隕石の混合物(約半分がエンスタタイトコンドライトなどのエンスタタイト隕石)から形成され、その後はほぼ完全にエンスタタイト隕石から形成されたことを示した。Fischer-GöddeとKleineは、高精度のルテニウム同位体測定を行い、集積した物質の最後の0.5%はエンスタタイトコンドライトに最も近いことを確かめた2。 Credit: Nicolas Dauphas

地球の歴史の中で最も重要な化学的分化イベントは、金属鉄の中心核とケイ酸塩のマントルの分離だ。核が形成されたとき、ケイ酸塩に溶けるよりも金属に溶けやすい元素は、選択的にマントルから取り除かれた。一部の元素(イリジウム、白金、パラジウム、ルテニウムなど)は金属に溶けやすいので、核形成の間にマントルからほぼ取り除かれたはずだ。しかし、観測されたマントル中のこれらの元素の存在度の相対比は、始原的隕石でのこれらの元素の存在度の相対比とほぼ同じだ。さらに、マントルが核と化学平衡にあるならば、マントル中のこれらの元素の存在度は、隕石でのこれらの元素の存在度と比較して100万分の1に減っている10はずだが、実際には約350分の1に減っているにすぎない11

この事実に対する1つの説明は、これらの元素は、核形成が終わった後に隕石の集積(地球の質量の約0.5%に相当)によってマントルに再び追加された、というものだ12。Dauphasは、それが事実であれば、マントル中のルテニウムの同位体組成は、地球を形成した物質の最後の0.5%のみを反映していると指摘する。一方、金属に完全に不溶性の元素のマントルでの同位体組成は、地球を形成した全ての材料の平均的な同位体組成を反映する。

Dauphasはこのアプローチを使い、マントル中のチタン、クロム、ニッケル、モリブデン(核への親和性が増す順)の同位体組成はそれぞれ、地球に集積した物質の最後の95%、85%、39%、12%を反映していると推定した。そして彼は、地球と隕石のこれらの元素の同位体存在度の違いを使い、モデル計算により、地球を形成した物質の多くがエンスタタイト隕石(エンスタタイトコンドライトの他、オーブライトという隕石も属するタイプ)だったことを見いだした。つまり地球は、現在の約60%の質量に達する時期までは、複数のタイプの隕石の混合物(約半分がエンスタタイト隕石)から形成され、残りの時期はほぼ完全にエンスタタイト隕石から形成されたという。一方、Fischer-GöddeとKleineが報告した高精度のルテニウム同位体測定も、地球に集積した物質の最後の0.5%は、同位体的にエンスタタイトコンドライトに最も近いことを示し、Dauphasの結論を支持した。

この結論の気になる側面は、エンスタタイトコンドライトの化学組成は、地球表面の岩の化学組成と非常に異なっていることだ。だから、もしも地球が主にエンスタタイトコンドライトからできているならば、地球の深い内部の化学組成は、その外側の層とかなり異なっているに違いない5。この説明は可能ではあるが、他の多くの証拠と調和させるのは簡単ではない。Dauphasが提案する代わりの説明は、エンスタタイトコンドライトは、地球を形成した過程の残り物で、その組成は惑星形成過程によって変化したのかもしれない、というものだ。これは非常に興味深い提案だが、このシナリオがもたらすものについてはもっと多くの研究が必要だ。

地球に集積した物質の最後の0.5%がCIコンドライトと呼ばれる、揮発性物質に富んだ特別のタイプの炭素質コンドライトだったら、地球の海に存在する量の水がこのとき地球に追加されたはずだ10。しかし、Fischer-GöddeとKleineの測定は、この最後に集積した物質は比較的「乾いた」エンスタタイトコンドライトから成り立っていたことを示している。つまり、水は、地球の歴史の最後になって地球に追加されたのではなく、炭素質コンドライトや彗星などの揮発性物質に富んだ物質の蓄積により、地球の成長を通じて徐々に供給されたということだ。

今回の2つの研究で示された結果は、これまでに収集された隕石群は、地球の材料の特別によい例ではないというやっかいな結論をもたらす。これは、地球全体の組成の見積もりを難しくする。しかし、今回の新たな同位体データとそのデータを解釈する新たなアプローチが、地球がどのようにして形成されたかについて、より深い理解への次の一歩をもたらしてくれた。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170431

原文

Earth’s building blocks
  • Nature (2017-01-26) | DOI: 10.1038/541468a
  • Richard W. Carlson
  • Richard W. Carlsonはワシントン・カーネギー研究所(米国ワシントンD.C.)に所属。

参考文献

  1. Dauphas, N. Nature 541, 521–524 (2017).
  2. Fischer-Gödde, M. & Kleine, T. Nature 541, 525–527 (2017).
  3. Clayton, R. N., Onuma, N. & Mayeda, T. K. Earth Planet. Sci. Lett. 30, 10–18 (1976).
  4. Herndon, J. M. Proc. R. Soc. A 368, 495–500 (1979).
  5. Javoy, M. et al. Earth Planet. Sci. Lett. 293, 259–268 (2010).
  6. McDonough, W. F. & Sun, S. Chem. Geol. 120, 223–253 (1995).
  7. Palme, H. & O'Neill, H. St C. in The Mantle and the Core (ed. Carlson, R. W.) 1–39 (Elsevier, 2014).
  8. Qin, L. & Carlson, R. W. Geochem. J. 50, 43–65 (2016).
  9. Warren, P. H. Earth Planet. Sci. Lett. 311, 93–100 (2011).
  10. Borisov, A. & Palme, H. Geochim. Cosmochim. Acta 61, 4349–4357 (1997).
  11. Wänke, H., Driebus, G. & Jagoutz, E. in Archaean Geochemistry (eds Kröner, A., Hanson, G. N. & Goodwin, A. M.) 1–24 (Springer, 1984).
  12. Walker, R. J. Chem. Erde 69, 101–125 (2009).