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EUの衛星航法システム「ガリレオ」が始動

2011年からこれまでに18機のガリレオ衛星が軌道に投入されている。 Credit: STEPHANE CORVAJA – ESA

膨れ上がるコストと数年に及ぶ遅延に苦しんできた欧州の全地球衛星航法システム「ガリレオ」がついに始動した。2016年12月15日、スマートフォンや自動車に搭載された受信機に向けて最初の信号を送信したのである。

ガリレオが最初に提案されたのは1999年で、現在18機の航法衛星(測位衛星)から構成されており、地球上の旅行者に正確な現在地を教えてくれる。欧州はこれまで米国のGPSとロシアのGLONASSに依存していたが、そんな時代がようやく終わるのだ。ニューブランズウィック大学(カナダ・フレデリクトン)の衛星航法システムの専門家Richard Langleyは、ガリレオの稼働は科学にとっても大きな意味がある、と指摘する。科学者らが特に期待しているのは、複数の航法衛星ネットワークからの信号を結び付けて、これまでにない種類の大気科学研究や地球科学研究を可能にすることだ。

ガリレオを構成する30機の衛星がそろうのは2020年になる予定で、その頃には35機の衛星からなる中国の北斗という全地球衛星航法システムも運用が始まっている予定である。日本とインドも地域衛星航法システムを構築中だ。ドイツ航空宇宙センター(DLR;オーバープファッフェンホーフェン)の物理学者Oliver Montenbruckは、地球を周回する全地球衛星航法システムの衛星の合計は、現在の約90から今後10年で少なくとも130まで増加すると推定している。同時に、既存の航法衛星も近代化される。

10年後の地球の大気には、現在よりもっと多様な周波数の、もっと多くの種類の電波信号が飛び交うことになる。それぞれの信号は、航法衛星が信号を送信した時刻と、そのときの位置に関する情報を載せている。衛星航法受信機は、複数の衛星から受信したデータを使って、自分の位置を特定する。つまり、私たちの頭上を飛び交う衛星の数が増えるほど、信号は失われにくくなり、より正確に位置が分かるようになる、とLangleyは言う。地球上の水や氷の移動に伴う地殻の変形をモニターするのに衛星航法受信機を利用しているルクセンブルク大学の地球科学者Tonie Van Damも、「人工衛星の数が増えれば、それだけ精度が高まるのです」と言う。

Credit: ESA-J.Huart

地球の空を飛び交う電波がますます増えていくことは、天気予報や気候研究にも役立つ。科学者は、地球の大気中で航法衛星の信号が屈折する現象を利用して、気温、気圧、大気密度、水蒸気量を測定している。また航法衛星からの信号は、大気の上層にある電離層の電子密度の測定にも利用できる。さらには、宇宙天気(太陽フレアなど、宇宙空間の荷電粒子による宇宙環境の変動)の追跡や、津波や地震の監視にも利用されていると、地球物理学研究所(フランス・パリ)の地球物理学者Philippe Lognonnéは説明する。地球上で津波や地震が発生すると、空気が大きく乱れて音波や大気重力波が発生し、これらが上空に伝わって電離圏に到達し、電子に擾乱が起こる。ガリレオや北斗がフル稼働するようになれば、津波の高さをより正確に推定できるようになるはずだ、とLognonné。

GFZドイツ地球科学研究センター(ポツダム)の科学者Jens Wickertによると、複数の衛星航法システムを利用して海上の風速と海面の波立ちの測定精度を上げることを計画している科学者らもいるという。今日の遠隔観測による海洋地図は、航空機や人工衛星のレーダーから海に電波を発射し、その反射波を測定したデータに基づいておおまかに構築された後、他の観測装置による測定データと統合することで作成されている。現時点で最高の海洋地図の空間分解能は約80kmで、10日ごとに更新されている。Wickertは、衛星航法システムからの信号を軌道上で受信することで海洋地図を改良したいと考えている。彼は欧州宇宙機関(ESA)のGEROS-ISSという実験チームを率いて、2019年に国際宇宙ステーション(ISS)に受信機を搭載することを目指している。この実験では、海に反射された衛星航法システムからの信号をISSで測定する。ガリレオ、北斗、GPS、GLONASSからのデータを組み合わせることで、4日ごと、またはそれより短い間隔で更新可能な、数kmという小さな空間スケールの海洋地図を作成できるだろう。渦をはじめとする多くの海洋現象がこのスケールで発生するため、新しい地図は天気や気候変動のモデルの改良に役立つはずだ。

宇宙に多くの受信機があれば、分解能をさらに向上させることができる。そのための第一歩として、独自の海面反射研究ミッションを進めるNASAは、2016年12月15日にCYGNSS(Cyclone Global Navigation Satellite System)を打ち上げた。CYGNSSは8機の超小型衛星からなり、それぞれがGPS衛星からの信号を受信する4機の受信機を搭載していて、数時間ごとに、わずか数kmという前例のない高分解能で、暴風の目における風速と海面の波立ちを測定することになっている。CYGNSSの主任研究者で、遠隔探査の専門家であるミシガン大学(米国アナーバー)のChris Rufは、最初のミッションではGPSのデータのみを利用すると述べているが、今後、ガリレオと北斗からのデータも統合していきたいと考えている。

現在、200以上の政府機関、大学、研究センターが連合して、異なる衛星航法システムからの信号を組み合わせる方法について多くの研究を行っている。この取り組みを率いるMontenbruckは、科学者が衛星航法システムを最大限に活用できるようになるのは、ガリレオと北斗がフル稼働してから5年以上経ってからになるだろうと釘を刺す。「私たちが今日GPSを活用することができるのは、30年に及ぶ経験の中で、きれいとはいえない詳細な点まで完全に理解し、特性を明らかにしてきたからなのです。ガリレオと北斗は、今後、この作業をしなければなりません」

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170316

原文

Europe's Galileo satellites herald new era for Earth science
  • Nature (2016-12-22) | DOI: 10.1038/nature.2016.21183
  • Declan Butler