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細菌でプリオン様タンパク質を発見

ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)には他の細菌においてプリオンのようにふるまうタンパク質が存在する。 Credit: BSIP/UIG/Getty

ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が有するあるタンパク質の一部を酵母や大腸菌内に移入すると、プリオンのような挙動を示すことが、ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)のAndy H. YuanとAnn HochschildによってScience 1月13日号に報告された1。プリオンは、「狂牛」病のような神経変性疾患を引き起こすことで有名な感染性因子で、その存在が初めて細菌で確認された可能性がある。

プリオンは、異なる構造に折りたたまれる可能性があるタンパク質で、正常とは違うコンホメーションに折りたたまれて異常型になると感染性を持つことがある。あるタンパク質が誤って折りたたまれて感染性のある「プリオン」になると、このタンパク質は正常型タンパク質をプリオンに変換することで、長く存続できるようになる。

プリオンは1980年代に伝達性海綿状脳症として知られる致死的な脳障害の原因として初めて発見された。それ以来、哺乳類、昆虫、線虫、植物、真菌2において、このような誤って折りたたまれたタンパク質が見つかっているが、全てのプリオンが宿主を障害するわけではないことが分かっている。

しかし、これまでプリオンが見つかっていたのは、動物、植物、真菌を含む真核生物の細胞でのみだった。

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今回Hochschildらは、酵母のプリオン形成ドメインを認識するよう訓練したソフトウエアを用いて、およそ6万の細菌のゲノムを解析することで、細菌タンパク質Rhoにプリオンドメイン候補があることを見つけ出した。Rhoは、ボツリヌス菌や大腸菌など、多くの細菌における遺伝子発現の全体的な調節因子であり、このことからもRhoが多くの遺伝子の活性を制御できることが分かる。

ボツリヌス菌由来のRhoのプリオン形成ドメイン候補を大腸菌内に移入すると、ほぼプリオンと同じふるまいを示し、変性タンパク質の塊が形成された。さらに酵母に移入すると、酵母の既知のプリオンドメインの機能に取って代わることができた。

また、正常型Rhoは大腸菌において遺伝子活性を抑制したが、プリオン様のRhoは多くの遺伝子を活性化していることも分かった。細菌遺伝学者であるHochschildとYuanは、「この結果から、プリオンにより細菌がある種の環境ストレスに適応できる可能性が考えられます」と言う。例えば、著者らは、プリオン様Rhoを発現させた大腸菌は、正常型Rhoを発現する大腸菌よりも、エタノール曝露に対し適応度が上がることを示している。

これらの知見から、約23億年前に真核生物と細菌が進化的に分岐する前からプリオンが存在していたと考えられる。「プリオンは実際には、これまでに想定されていたよりもはるかに広範囲に存在している可能性があります。他にも細菌でプリオン形成ドメインが明らかになるでしょう」とHochschildは言う。

環境に迅速に適応する細菌

プリオンは伝達される。つまりこれらの知見から、細菌はプリオンを介すことで遺伝的変異を必要とせずに形質を伝達できることが示唆される。これは「細菌が環境に迅速に応答する必要がある場合に役立つと考えられます。例えば、抗生物質に対処するときなどです」と、マサチューセッツ大学アマースト校(米国)の細菌生化学者Peter Chienは言う。

「次の段階として、ボツリヌス菌のRhoが自然宿主においてプリオンのように機能できることを確認する必要があるでしょう。しかし、ボツリヌス菌は大腸菌のように遺伝学的実験で簡単に用いることができないので、難しいかもしれません」とChienは付け加える。

コーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)の分子生物学者Jeffrey Robertsは、「細菌でプリオンの実験が可能になれば、アルツハイマー病やパーキンソン病などの疾患に関連するとされるヒトプリオンの挙動をさらに解明するのに役立つでしょう」と言う。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170307

原文

Prion-like protein spotted in bacteria for the first time
  • Nature (2017-01-12) | DOI: 10.1038/nature.2017.21293
  • Charles Q. Choi

参考文献

  1. Yuan, A. H. & Hochschild, A. Science 355, 198–201 (2017).
  2. Chakrabortee, S. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 113, 6065–6070 (2016).