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簡便で正確な脳震盪診断法

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170305

原文:Nature (2016-12-22) | doi: 10.1038/nature.2016.21227 | Brain scan hints at first simple test for concussion

Lisa Vincenz-Donnelly

小規模な研究から、音声合成装置で生成された「ダ」の音声を聞かせるだけで脳震盪(軽度の脳損傷)を判別できる可能性が示された。長期的な影響を評価する生物学的マーカーとしても利用できるかもしれない。

脳震盪の生物学的マーカーは、特にスポーツの分野で、頭部を強打した人の診断と、その回復の追跡を容易にすることが期待される。 | 拡大する

John Greim/LightRocket via Getty Images

脳における音声処理過程を評価する検査が、単純で信頼性の高い脳震盪診断法となり得ることが、小規模な研究によって示された。脳震盪のような軽度の脳損傷についてはあまり解明が進んでいないため、この評価法が有効であれば、最適な治療法の確立に役立つことが期待される。

ノースウェスタン大学(米国イリノイ州エバンストン)の神経科学者Nina Krausらは、被験者の子どもの頭部に電極を取り付けて、音声合成装置で生成した「ダ」の音を聞かせたときの神経活動を記録し、そこに現れる特徴的なシグナルを利用することで、脳震盪を起こしてから日の浅い子どもと健康な対照群とを客観的に区別できることを示した。この研究成果は2016年12月22日にScientific Reportsに発表された1

今回の研究の被験者は40人と少ないため、もっと規模を大きくしてやり直す必要がある。それでも、他の研究者たちはこの報告を歓迎している。なぜなら、脳震盪の診断はただでさえ難しく、子どもの場合は特に困難になるからだ。

ニューヨーク大学ランゴーン医療センター(米国)の神経科医Thomas Wisniewskiは「今回の研究から、脳損傷の重症度を測定するための最初の単純で客観的なバイオマーカーが提供されるかもしれません」と言う。彼によると、脳震盪の診断に利用できる明確な生物学的指標の発見を待ち望む関係者は多いという。「私たちはずっと、脳震盪を確実に診断できる検査法を求めてきました」。

毎年、何百万人もの人々が頭部を強打して入院しており、中には脳震盪を起こした人もいる。脳震盪は軽度の脳損傷だが、より深刻な損傷の前兆である可能性もある。現在、医師が脳震盪の診断を行う際には、患者によるめまいの主観的な訴えや、協調運動の評価の他、時にMRIやCTスキャンなどの大掛かりな検査も基礎にしている。しかし、こういった検査は、機材が高額である上、脳震盪と関連する画像所見については相反する報告もある。脳震盪を検出して、その重症度を測定する客観的な方法は1つもなく、定期的に実施して患者がいつ回復したかを判定できるような簡便なテストもない。後者は特に、競技への復帰を望むスポーツ選手にとっては死活問題だ。

子どもに優しい検査

上述のような脳スキャン以外にも、脳損傷後に血液中に放出される特定のタンパク質をマーカーとして利用しようとしている企業もあるが、対象は重傷の脳震盪である上、診断法としての信頼性はまだ十分に証明されていないとWisniewskiは言う。また、ルートヴィッヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(ドイツ)の大学病院の外傷外科医Christian Kammerlanderは、血液検査による診断がうまくいったとしても、実際問題として頭部を強打した幼児に血液検査を行うことを正当化するのは難しいと言う。「外傷事故後の幼児から採血しようとすると大騒ぎになるので、私たちはできるだけ避けるよう心掛けています」。

研究者たちが特に関心を寄せているのは、小児期の脳震盪による脳への長期的な影響を評価するために、それを追跡する方法を見つけることだ。しかし、子どもは大人ほど明確に症状を報告できないことが多いため、脳震盪の診断をするのは困難だ。

脳震盪を起こした人は、騒がしい環境で音声を処理するのが困難になることがある。そこでKrausは、音声に対する脳の活動を測定することによって、脳震盪の客観的な指標が得られるのではないかと考えた。彼女はアン&ロバート・H・ルーリー小児病院(米国イリノイ州シカゴ)のスポーツ医Cynthia LaBellaと共同で、音声合成装置の「ダ」と聞こえる音声を用いて、11歳から15歳までの20人の子どもについて、スポーツ事故後に臨床医から脳震盪と診断されてから4週間後の脳活動を測定し、その結果を健康な子どもの脳活動と比較した。

際立つシグナル

Krausによると、研究チームは被験者の神経活動記録の中に、脳震盪を起こした子どもの90%(20人中18人)を正しく識別し、健康な対照群の95%(20人中19人)を除外することのできる、客観的なシグナルを発見したという。脳震盪を起こした子どもの脳活動は「ダ」の音に対する反応が遅く、低く、また精度も低いという結果を示したのだ。Wisniewskiは、「被験者の人数が非常に少ないのは気になりますが、感度は非常に高いと思います」と言う。音声処理能力の障害は、最も重篤な症状を示した子どもで最も顕著であるようだった。そして、一部の子どもが診療所を再訪して、めまいの症状が出にくくなった、あるいは、集中力が戻ってきたなどの改善を報告したとき、音に対する神経の応答も改善していた。

Krausは、もっと大きな集団を対象にさらに多くの研究を行う必要があると考えている。研究チームは現在、頭部を負傷した直後とそれから数週間後のスポーツ選手の聴覚反応の検査をしている。彼らはこの研究を商業化することを望んでおり、研究室やスポーツ施設で使用できる脳震盪判定キットの製作に必要な機材のコスト削減と小型化に取り組んでいる。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Kraus, N. et al. Sci. Rep. 6, 39009 (2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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