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がんワクチン予測を競うアルゴリズムコンテスト

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170314

原文:Nature (2016-12-15) | doi: 10.1038/540328a | Algorithms compete to predict recipe for cancer vaccine

Heidi Ledford

個別化がんワクチンとして有望な候補を絞り込むのに、予測アルゴリズムが役立つかもしれない。

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ALFRED PASIEKA/SPL/Getty

予測アルゴリズムは、有効ながんワクチンを作り出すカギになり得るのだろうか? その疑問に答えるため、米国の2つの非営利団体、パーカーがん免疫療法研究所(カリフォルニア州サンフランシスコ)とがん研究所(ニューヨーク市)は、患者の腫瘍DNAから最適な個別化がんワクチン候補を予測できる複数コンピュータープログラムを競わせることで、最も優れたアルゴリズムを見つけ出そうと考えた。このアルゴリズムコンテストは、2016年12月1日に告知された。

がんワクチンの重要な問題を解決することを目的としたこの研究は、数億円規模の共同研究の一部である。がんワクチンとは、がん細胞特有の変異を持つタンパク質の断片を用いて、体にもともと備わる免疫応答を腫瘍に対して開始させることを狙った新しいがん免疫療法だ。ただし、患者のがん細胞に存在する数百個もの変異のうち、免疫系に対し「腫瘍を攻撃しろ」と指令を出せるものがどれかは分かっていない。この取り組みが成功すれば、個別化がんワクチンの開発が進み、腫瘍と戦うための毒性のない方法になると期待される。

がんワクチン開発は勢いを増している。2014年に、がん細胞特有の変異タンパク質を含むワクチンによりマウスの腫瘍が抑制されたことが報告され、この手法がヒトでも効果を発揮するかどうかを確認するための研究が精力的に行われることとなった。この考えに基づいたバイオ企業が設立され、学術的な研究機関による臨床試験の実施が進行中である。

それでも難題が残っている。良いワクチンとなるためには、がんの変異タンパク質が免疫系の兵士であるT細胞に認識されなければならない。変異タンパク質が抗原としてT細胞に提示されるためには、変異タンパク質が抗原提示細胞内で断片化されて、特定のタンパク質に結合し、その細胞の表面に運ばれる必要がある。

ワクチン研究者が習得しなければならない技は、腫瘍のDNAに存在するどの変異を用いればがんワクチンとして有効かを予想することである。コネチカット大学医学系大学院(米国コネチカット州ファーミントン)の免疫学者Pramod Srivastavaは「私たちは、塩基配列を解読して変異を見つけ出すことができますが、数十、数百、数千もある変異のどれが実際に患者をがんの増殖から守ってくれるかを知ることは非常に難しいのです」と言う。

それを達成するための手段の1つに、T細胞が変異タンパク質のどの断片を認識するかをアルゴリズムを使って予測する方法がある。例えば、タンパク質のどの部位が切断されるか解析したり、タンパク質断片を提示する分子に強く結合する断片を予測したりするのだ。

しかし、ワシントン大学(米国ミズーリ州セントルイス)のがん免疫学者Robert Schreiberは、「各研究室には、異なる『秘伝のソース』があります」と言う。しかし、そうしたアルゴリズムのほとんどは、予測精度がそれほど高いわけではない。バイオ企業のアドバクシズ社(Advaxis;米国ニュージャージー州プリンストン)の最高科学責任者Robert Petitは、アルゴリズムの正確性は通常40%未満であると推定している。

変異地図
ある黒色腫のゲノムに存在する数百の変異を地図として視覚化したもの。がん細胞特有の変異を利用すれば、正常細胞を傷つけることなく、免疫系にがん細胞を攻撃させることができるかもしれない。 | 拡大する

SOURCE: M. F. BERGER ET AL. NATURE 485, 502–506 (2012)

この問題の解決に、パーカーがん免疫療法研究所とがん研究所が着手した。すでにそのようなアルゴリズムを活用している30の研究室と共同で、各研究室の「秘伝のソース」を同一のDNAやRNAの塩基配列に適用する計画を立てたのだ。この実験に使われる塩基配列は、数百もの変異を持つ傾向のある黒色腫(「変異地図」参照)や肺がんのものであり、従って、解析で導き出された断片は有望なワクチン候補となり得る。

断片の配列が得られたら、次は、それらが良いワクチン標的の特徴を有するかどうかを確認する。候補断片を認識するT細胞が腫瘍内にいるのか、またT細胞を刺激することができるのかどうかを、他の一握りの研究室が検討するのだ。この共同研究結果は公表の予定はないが、最も予測精度の高いアルゴリズムは臨床試験のためのワクチン設計に活用されることが期待される。

アルゴリズムを用いれば、個別化ワクチンを大規模に開発する際に、重要な難問に即答できる。しかし、結局のところSrivastavaは、アルゴリズムを改良する最も良い方法は、動物実験によりT細胞が本来の状態で変異に応答する仕組みについて調べ、より多くのデータを集めることだと言う。彼の研究室や他の研究室でも、個々の腫瘍に合わせた数百もの「推定」ワクチンを作製しており、それらをマウスに投与して、どれががんと戦うことができるのかを調べている。

同様に、ジョンズホプキンス大学(米国メリーランド州ボルティモア)のがん免疫学者Drew Pardollも、アルゴリズムではT細胞応答に影響を及ぼすいくつかの要因を決して説明できない、と懸念を示している。例えば、変異が腫瘍発生・進行の早期に生じたものであった場合、免疫系はその変異を「正常」と見なすため、ワクチンには適さないかもしれない。Pardollは、この分野には、T細胞応答を最も強く引き起こす変異がどれかを研究室で迅速かつ簡単で正確に決定することのできる試験方法が必要であると主張する。「私たちは、完璧な予測をするのに必要な規則を十分に理解しているとはいえません。アルゴリズムの構築には長い時間がかかる上に、本当に改良できたかどうかを知ることが難しいのです」と、Pardollは言う。

しかし、ネオン・セラピューティクス社(Neon Therapeutics;米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の最高業務責任者Robert Angは、「研究室での迅速な試験方法がないのですから、企業にはアルゴリズムが必要です。不完全ではありますが、この手法が有効なことを示す証拠がすでに存在します。アルゴリズムの改良をさらに重ねることが非常に重要かもしれません」と言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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