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血液がん治療に新手法の可能性

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170207b

アミノ酸「バリン」が造血幹細胞に及ぼす影響に着目

白血病など「血液がん」を治療するのに、特別の食事制限が利用される日がくるかもしれない。「バリン」という必須アミノ酸が造血幹細胞の生成に重要な役割を果たしていることが発見されたのだ。血液がんの治療で化学療法や放射線照射に代わる方法につながる可能性があるという。

バリンは、生命活動に不可欠だが人体では作り出せない必須アミノ酸の1つで、肉や乳製品、豆類など、タンパク質に富む食品に含まれている。バリンは代謝と組織修復に関与しているが、今回、造血幹細胞の形成にも重要らしいことが明らかになった。東京大学とスタンフォード大学(米国)の研究チームは、ヒト造血幹細胞はバリンを欠いた培地では増殖できず、バリンを2〜4週間にわたって摂取させずにおいたマウスでは、新たな赤血球と白血球の生成が停止することを見いだし、Scienceに報告。

研究を率いた東京大学の中内啓光らはこれらの結果から、血液がん患者に骨髄移植を施す前に食事からバリンを取り除いておけば、化学療法や放射線照射をしなくて済むかもしれないと考えた。これらは、がんの原因である患者の造血幹細胞を破壊する処置だが、それ自体がリスクを伴う。

中内らはバリンを制限したマウスを用いたその後の実験で、化学療法や放射線照射なしに骨髄移植をうまく実行できることを示した。ただ、半数のマウスは4週間の実験が終了して間もなく、バリン欠乏のために死亡した。

人間がバリンなしの食事にどれくらいの期間耐えられるかを見極めるにはさらなる研究が必要だと中内は言う。だが、この方法がヒトでもうまく機能した場合、妊娠中の女性や血球数が少ない例など、化学療法や放射線照射ができない患者にも骨髄移植の道が開ける可能性があると、ストワーズ医学研究所(米国ミズーリ州)の幹細胞生物学者Linheng Liはみる(Liは今回の研究には加わっていない)。もっとも、今回の方法だけでがんを直接治療するのは難しく、他の治療法と組み合わせる必要があるだろうという。

ある種の白血病患者に関しては、食事からバリンを除くことで白血病の原因になっている細胞を排除できる可能性もあると中内は言う。「簡便で害の比較的少ない方法が白血病治療に利用できるようになれば素晴らしい」。

(翻訳:日経サイエンス編集部)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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