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光学顕微鏡と電子顕微鏡で観察可能なナノ粒子プローブ

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170233

原文:Nature (2016-11-24) | doi: 10.1038/nature20478 | Improving the image of nanoparticles

Christopher S. Wood & Molly M. Stevens

蛍光ナノダイヤモンドと金ナノ粒子を組み合わせた生体適合性プローブが開発され、光学顕微鏡と電子顕微鏡の両方を使った細胞イメージングが可能になった。これにより、生物学研究に新たな進展がもたらされることだろう。

ダイアモンドは結晶中に格子欠陥や不純物を含んでおり、 紫外線や可視光、赤外線を吸収すると蛍光を発する。 | 拡大する

Patrick Landmann/Hulton Archive/Getty

ダイヤモンドは、きらめきを放つことで有名だが、ここ数年、蛍光を放つナノスケールのダイヤモンドが多くの科学者たちを引きつけている。蛍光ナノダイヤモンド(fluorescent nanodiamond;FND)と呼ばれるこの粒子は、強い蛍光を発し、細胞に対する毒性が低く、化学物質や光に対して安定なので、蛍光細胞イメージングの魅力的なプローブとなる1。しかし、FNDは電子顕微鏡では追跡することが難しいため、細胞過程の観察などで生物学的プローブとして実用するには限界がある。そうした中、ウルム大学(ドイツ)およびマックスプランク高分子研究所(ドイツ・マインツ)に所属するWeina Liuらは、FNDと金ナノ粒子を組み合わせて、蛍光イメージングにも電子顕微鏡にも使用できる「オールインワン」型のハイブリッド粒子を作製したことをNano Lettersに報告した2。このハイブリッド粒子を用いれば、1つの試料で、エンドサイトーシス(細胞が物質を取り込む膜依存性の過程)などの細胞過程を、複数の解像度で観察可能になるかもしれない。

ナノ粒子系プローブの利用は、イメージング技術の長い歴史の中で最新の進歩といえる。電子顕微鏡を使えば、光学顕微鏡で解像可能な構造よりも小さい構造を解像できる。だが、電子顕微鏡観察では、試料を固定したり凍結したりしなければならず、生物系の動的過程に関する情報が限られる。この欠点は、蛍光イメージングに基づく超解像度顕微鏡法3を用いれば克服でき、生物学的過程をその場で、しかも分子レベルで可視化できる4,5。しかし、この観察手法に必要な蛍光団(蛍光タンパク質や蛍光小分子)の発光強度や、光安定性、化学的安定性はまだ不十分だ。

研究者らは、こうした問題を克服しようと、ナノ粒子系のイメージングプローブに目を向け始めている。ナノスケールの物質は、強い蛍光発光などの現象を引き起こすことがあるので、その蛍光発光を利用すれば、分子蛍光団の欠点の一部を回避できる可能性がある。例えば、FNDは、単一窒素–空孔(NV)中心として知られる格子欠陥を含んでおり、レーザーで励起されると波長約700nmの蛍光を放つ。また、ナノ粒子を用いれば、さまざまなモードでのイメージングが可能であり、局所環境を探査する手法となる。例えば、表面増強ラマン散乱分光法6やナノスケール磁気測定7(ナノスケール分解能での磁場検出)などを利用して調べることができる。しかし、これらの機能を併せ持つ単一粒子は、ほとんど例がない。

金ナノ粒子(AuNP)は、電子顕微鏡のコントラストを高めることができるため、バイオイメージングに広く用いられている。また、さまざまなサイズのAuNPに、近接する蛍光分子の励起状態を消光(クエンチ)する特性があり、この効果は数多くの高感度バイオセンサーに利用されている8。ただ、この特性はバイオセンサーには有用だが、蛍光顕微鏡観察では短所となる。生体内でAuNPを追跡することができないのだ。ところが、Liuらのハイブリッドナノ粒子は、FNDが、同等サイズのAuNP(コントラスト剤)に近接しているにもかかわらず蛍光を放つ。AuNPとFNDの組み合わせは以前にも試みられたが9、今回の研究では、ハイブリッド粒子構造を利用することで、1つの試料中のある1点において、複数モードのイメージングやセンシングを実現できることが実証されたわけである。

図1 生体イメージング研究用のハイブリッドナノ粒子の作製
Liuら2は、蛍光ナノダイヤモンド(FND)と金ナノ粒子(AuNP)を含んだハイブリッドナノ粒子を作製した。
a. まず、AuNP(凝集防止のため有機分子で修飾)、FND、タンパク質(ヒト血清アルブミン)を混ぜ合わせることによって、タンパク質分子が表面に吸着したFND 1個に対して1個または2個のAuNPがつながったハイブリッド粒子を形成した。
b. 次に、AuNP表面の有機基とタンパク質の間と、タンパク質とFNDの間に共有結合架橋を形成することによって、ハイブリッド粒子を安定化させた。
c. 最後に、効率よく細胞に取り込まれるよう、正に帯電したポリマーでハイブリッド粒子をコーティングした。FND部の役割は、蛍光イメージング法による細胞内の粒子の追跡で、AuNP部の役割は、電子顕微鏡法による粒子のイメージングだ。 | 拡大する

参考文献2より改変

複数のナノスケール構成要素から複雑な生体適合性プローブやバイオセンサーを作り上げることは困難だ。その理由の1つに、ナノ粒子は、特に生体内では凝集体を形成しやすいことが挙げられる。それに加え、所定の数の構成要素からなる「安定な粒子構造体」を形成・精製することも難しい。これらの問題を克服するため、Liuらは、AuNPとFNDをヒト血清アルブミンというタンパク質(FNDおよびAuNPと相互作用する)とともに混ぜ合わせることによって会合させて複合体を形成した後、AuNPとタンパク質の間と、タンパク質とFNDの間に共有結合架橋を形成することによって複合体を安定化させた(図1)。次に、目的の生成物を超遠心分離によって精製した後、さらなる安定化と細胞取り込み促進の目的で、正に帯電したポリマーでコーティングした。作製したハイブリッド粒子は、FND1個につき1個または2個のAuNPを含んでおり、細胞によって容易に吸収され、細胞毒性が低いことも示された。

興味深いことに、AuNPとFNDを共有結合でつなぐことによって、FNDの蛍光が増強され、FNDの励起状態の寿命が短くなった。これらはいずれもFNDのNV中心とAuNP表面プラズモン(非局在化電子の集団振動)の結合に起因する。Liuらは、AuNPによって励起レーザーパルスが集中し、ハイブリッド粒子のレーザー励起効率が高くなったことも蛍光増強の原因の1つと考えているが、これに関する正確なメカニズムについては論じていない。

蛍光の増強は特に興味深い。ナノスケール磁気測定に基づくセンシングやイメージング7の際、FNDの信号対雑音比が改善される可能性があるからだ。FNDのNV中心は外部磁場に対して特に敏感なので、FNDを用いるナノスケール磁気測定法は、生物学分野で有用なセンシング技術候補として注目されている10。例えば、このセンシング技術で単一電子の検出が可能になれば、電子移動やフリーラジカルの再結合が関与する生物過程(呼吸など)に関する知見が得られるかもしれない11

Liuらの生体適合性ハイブリッドナノ粒子プローブの開発は、細胞機構のイメージングの進歩に向けた重要な一歩となる他、細胞内センシングの新たな可能性を開くものだ。例えばLiuらは、細胞がFND–AuNPを取り込んだことを光学顕微鏡で観察し、このナノ粒子がエンドソームと呼ばれる細胞小胞に包まれ細胞質基質へと放出される様子を透過電子顕微鏡で観察した。しかし、生体内でハイブリッドナノ粒子を使用できるかどうかは、まだ分かっていない。また、Liuらの手法を利用して、AuNPとFND以外のナノサイズ構造体(抗体、酵素、さまざまなナノ粒子など)をつなぐことができるかどうかも、分かっていない。

現在、FND関連のナノ粒子に限らず、ハイブリッドナノ粒子全般を作製できる着実かつモジュール式の方法が求められている。さまざまなイメージングプローブやバイオセンサーを広範な最適化を行わずに素早く組み立てるためだ。こうした方法が開発されれば、1つの生物試料内で、特定の場所の環境をさまざまな形で調べられるようになるだろう。また、ナノ粒子系薬物送達システムをハイブリッドプローブに組み込むことも可能になるだろう。将来、ハイブリッド粒子が治療化合物を送達するのと同時にその効果を数種の情報形式で報告する「セラノスティック」薬剤が、迅速に試作されるようになるかもしれない。

(翻訳:藤野正美)

Christopher S. Wood & Molly M. Stevensはインペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)に所属。

参考文献

  1. Yu, S.-J., Kang, M.-W., Chang, H.-C., Chen, K.-M. & Yu, Y.-C. J. Am. Chem. Soc. 127, 17604–17605 (2005).
  2. Liu, W. et al. Nano Lett. 16, 6236–6244 (2016).
  3. Fernández-Suárez, M. & Ting, A. Y. Nature Rev. Mol. Cell Biology 9, 929–943 (2008).
  4. Wegel, E. et al. Scientific Reports 6, 27290 (2016).
  5. Henriques, R., Griffiths, C., Rego, E. H. & Mhlanga, M. M. Biopolymers 95, 322–331 (2011).
  6. Howes, P. D., Rana, S. & Stevens, M. M. Chem. Soc. Rev. 43, 3835–3853 (2014).
  7. Balasubramanian, G. et al. Nature 455, 648–651 (2008).
  8. Howes, P. D., Chandrawati, R. & Stevens, M. M. Science 346, 1247390 (2014).
  9. Liu, Y. L. & Sun, K. W. Appl. Phys. Lett. 98, 153702 (2011).
  10. McGuinness, L. P. et al. Nature Nanotechnology 6, 358–363 (2011).
  11. Wu, Y., Jelezko, F., Plenio, M. B. & Weil, T. Angew. Chem. Int. Edn. 55, 6586–6598 (2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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