News

世界に広がる英国発の男女共同参画推進事業

大学がアテネ・スワンによる審査を自主的に行い始めた理由の1つは、このプログラムの格付け取得が政府の研究助成金交付の要件になっていたことにある。リバプール大学では、2013年にアテネ・スワンの銅賞を受けてから2016年に銀賞を受けるまでの期間に、教授のポストに昇進する女性の割合が28%から50%に増加した。 Credit: Colin Weston/VisitBritain/Getty

科学における男女共同参画に関して英国の大学を格付けするプログラムが、世界中に広がろうとしている。過去2年間に、この格付け制度に手を加えたものがオーストラリアとアイルランドで開始されており、米国でも小規模な予備研究が2017年10月から始まっている。

英国のこのプログラムは「アテネ・スワン」(Athena SWAN;Scientific Womenʼs Academic Network)と呼ばれる。2005年に10の大学で始まり、以来、140以上の英国の学術機関に広がっている。アテネ・スワンによる審査は大学が自主的に実施しているもので、各大学から提出された自己評価に基づき、非営利組織である平等チャレンジユニット(ECU;Equality Challenge Unit)が女性スタッフの雇用、昇進、継続的在籍について各大学の包摂性と公平性を審査する。

SEA Change(STEM Equity Achievement Change)と呼ばれる米国のプロジェクトでは、STEM(科学、技術、工学、数学)分野における男女の平等に加えて、人種、民族性、性的指向、障害、社会経済的な状態、および他の社会的に無視されてきた集団に関する包摂性を評価することになるだろうと、Shirley Malcomは言う。彼女は、このプロジェクトを監督する米国科学振興協会(AAAS;ワシントンD.C.)で教育と人的資源のプログラムを指揮している。米国の取り組みでは、学生と大学職員両方の経験を評価することになる。「多くの介入プログラムを行ってきましたが、目立った変化は見られていません。現状を変えるために、私たちはこの戦略を検討しているのです」とMalcomは説明する。

まだ名前は明かされていないが、8~9カ所くらいの米国の施設が予備計画に参加し、モデルとしてアテネ・スワンが使用される予定だ。12~18カ月にわたって、各部門、あるいは各施設全体で、平等に関するデータを集めて、問題領域を特定する。次に、計画と目標を設定する。例えば、学生の多様性を増やす、賃金格差を減らす、キャンパス内で支援を促進する風潮を作り上げる、などだ。AAASの委員会は、提出された調査結果を評価し、それに従って銅賞、銀賞、金賞を発表する。

英国のほとんどの高等教育機関は、現在、アテネ・スワンの格付けを少なくとも1つ取得している。アテネ・スワンの対象は、英国ではSTEMM(STEM+医学)から拡大されて、芸術、人文科学、および社会科学も含むようになっている。また、アイルランドとオーストラリアにもすでに広がっていて、それらの地域では、最初の40の参加施設が2018年前半に自分たちの格付けを知ることになるだろう。インドと日本でも同様の制度の開始を求める声がある。

交付金が誘因に

英国でこのアテネ・スワンが急速に広がった主な理由は、この制度が資金援助とつながっていたことだった。2011年に、英国政府の最高医療責任者のSally Daviesは、政府の生物医学研究予算8億1600万ポンド(約1200億円)から交付金を受けるには、銀賞を保持していることを要件とした。しかし、アテネ・スワンはその交付金を争う施設だけにとどまらず、大きく広がった。「精神的圧力」によって動機付けられたという面も確かにあったが、今後の交付金決定ではこのような格付けが重視されるかもしれないと一部の職員が考えたからでもある、とケンブリッジ大学(英国)の物理学者Athene Donaldは述べる。英国研究会議などの主要な資金提供機関は、施設に認定を受けることを勧めてはいるものの、それを要件にはしていない。

米国で成功するかどうかは、交付金を受けるための前提条件として格付けの証明を要求する米国立科学財団(NSF;バージニア州アーリントン)などの主要な資金提供者にかかっているかもしれないと、ノルウェー政府の「研究におけるジェンダーバランスおよび多様性(ダイバーシティ)に関する委員会」のトップ、Curt Riceは言う。

英国のプログラムに対する評価は肯定的だった。2016年に行われた英国の大学教員の調査では、アテネ・スワンのことを知っていた回答者の約90%は、この組織の取り組みが職場環境に肯定的な影響を与えていると感じていた。いくつかの施設は、とりわけ素晴らしい成功を収めた。リバプール大学(英国)では、2013年に銅賞を受けてから2016年に銀賞を受けるまでの期間に、教授のポストに昇進する女性の割合が28%から50%に増加した。他の参加大学でも同様の進歩が見られた。

米国には公立、私立の施設が何千もあるので、予備研究は米国高等教育システムに適合させなければならないだろうと、Malcomは言う。彼女はまた、多様性のあらゆる局面について施設に責任を負わせるのは不可能だろうが、まずは、すでに集められたデータを調べることから始めるのがいいだろうと考えている。「多様性のこうした他の局面を見ることなく、ジェンダーの問題に対処することはできないと感じます」。AAASは20万ドル(約2200万円)の予備計画を全米の大学に広げることを望んでいるが、より多くの資金が必要になるだろう。

米国黒人物理学者協会会長のRenee Hortonは、SEA Changeには成功の可能性があると言う。しかし彼女は、米国には根深い偏見がしばしば意識されないままはびこっていて、それが不平等の原因となっており、そのために大学の自己評価が難しくなっているかもしれないと警告する。つまりこれは、AAASによる監督が不可欠であることを意味する。「多様性と包摂性に問題を抱えている施設は、原因となる要素をいくつか持っている可能性が高いですが、彼らにはそれらを特定することができないのです」と彼女は言う。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2017.171217

原文

UK gender-equality scheme spreads across the world
  • Nature (2017-09-14) | DOI: 10.1038/549143a
  • Elizabeth Gibney