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概日時計の機構解明にノーベル医学・生理学賞

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171211

原文:Nature (2017-10-05) | doi: 10.1038/nature.2017.22736 | Medicine Nobel awarded for work on circadian clocks

Heidi Ledford & Ewen Callaway

細胞の概日リズムを生み出す分子機構を解明した3氏が2017年のノーベル医学・生理学賞を共同受賞した。

ノーベル医学・生理学賞を共同受賞した3氏。左からマイケル・ロスバッシュ、ジェフリー・ホール、マイケル・ヤング。 | 拡大する

NORA TAM/SCMP

2017年のノーベル医学・生理学賞は、生体に備わる概日時計の機構解明に大きく貢献した、ブランダイス大学(米国マサチューセッツ州ウォルサム)のジェフリー・ホール(Jeffrey Hall)およびマイケル・ロスバッシュ(Michael Rosbash)と、ロックフェラー大学(米国ニューヨーク)のマイケル・ヤング(Michael Young)の3氏に贈られる。3氏は賞金900万スウェーデンクローナ(約1億2000万円)を等分した額を受け取る。

この3氏は1980年代初頭に、ショウジョウバエで夜になると作られて翌日の日中に分解されるタンパク質をコードする遺伝子periodを単離し、特性を明らかにした。その後、3氏や他の研究者らの研究により、period遺伝子(とそこにコードされるPERというタンパク質)の分子レベルでの調節機構が解き明かされ、概日時計を構成する他の要素も特定された。全ての多細胞生物には、約24時間のリズムを生み出す概日時計が備わっており、ヒトで概日時計を構成する遺伝子群は睡眠障害や他の病態と関連付けられている。

ホール、ロスバッシュおよびヤングの3氏は過去5年間にすでに共同でいくつかの賞を授与されている。こうした経緯から、ノーベル賞受賞も近いのではないかと期待されていたと、現在サウサンプトン大学(英国)で概日時計を研究するHerman Wijnenは話す。かつてヤングの研究室で博士研究員を務めていたWijnenは、「この3氏の受賞は研究界でも当然のことと受け止められています」と話す。

しかしヤング本人によれば、受賞の知らせを受けて仰天し、靴を探して履くという普段の動作さえも怪しくなるありさまだったという。「靴に歩み寄って手に取ったところで、靴下が必要だと気付きました。それどころか、まずズボンをはく必要があると気付いたんです」と彼は記者会見で話している。ロスバッシュも知らせを聞いてびっくりしていたと、ノーベル委員会の事務局長Thomas Perlmannは話す。「私が最初にマイケル・ロスバッシュに受賞を知らせたとき、彼は絶句し、それから『ご冗談でしょう』と答えたんですよ」とPerlmann。

概日時計解明のルーツは、物理学者で分子生物学者のシーモア・ベンザー(Seymour Benzer)と、当時彼の研究室の学生であった遺伝学者のロナルド・コノプカ(Ronald Konopka)が、異常な羽化リズムの変異ショウジョウバエを見つけて行った遺伝子スクリーニングにまでさかのぼる(ただしベンザーは2007年、コノプカは2015年に亡くなっている)。Wijnenの話によれば、その頃はまだ、動物の行動に遺伝的な基盤も関わっているとする考え方には賛否両論あったのだという。それから何年か後に、ヤングの率いるチームとホールとロスバッシュの2人が率いるチームとが、羽化リズムに関わる問題の遺伝子の単離とクローン化に成功した。「これによって状況が一変しました。それ以降、概日時計システムがどれほど保存されているか、また概念的にどのように機能しているかが明らかになってきたのです」とWijnen。

両チームは当初、羽化リズムに関わる遺伝子を最初に突き止めようと激しく競い合っていたのだと、1970年代後半にホールと共に研究した行動遺伝学者Charalambos Kyriacouは話す。ところが「年齢を重ねるにつれて角が取れ、彼らは今では良き仲間同士です」とKyriacou。

その後、PERタンパク質の量が夜間にピークになり、日中に低下する様子が明らかになった。そして徐々に、「PERの蓄積がそれをコードする遺伝子の発現を抑制するシグナルとして働く」というモデルが組み立てられていった。こうした「負のフィードバックループ」は概日リズム研究で主流のテーマの1つとなっており、最近でも新しいループや概日時計タンパク質がさらに見つかっている。

テキサス大学サウスウェスタン医療センター(米国ダラス)のJoseph Takahashiをはじめとする研究者らは、概日時計の研究対象をショウジョウバエから哺乳類へと広げ、概日時計システムが種を越えて広く保存されていることを明らかにした。その後、概日時計は精神や身体の健康のさまざまな側面と結び付けられている。「我々は自身を不適切な光に曝しています。時差のある場所に出掛けたり、深夜や早朝シフトで働いたりもする。そういったことは全て、我々の健康にマイナスの影響を及ぼしているのです」とWijnenは話す。

Takahashiは、今回のノーベル賞授賞をきっかけに、概日リズムがどのように実験に影響を及ぼす可能性があるかを研究者が検討するようになってほしいと話す。この問題は彼が主張しても無視されがちなのだ。

概日時計とヒトの健康との結び付きは広範囲にわたるので、医学部でも時間生物学をもっと取り上げる必要があるだろうと、ルートヴィッヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(ドイツ)の医療心理学学科長であるMartha Merrowは話す。彼女によれば、時間生物学を、それ自体で1つの専門分野とするか、もしくは内分泌学かリウマチ学など他の分野の医学研修に組み込めるのではないかという。

(翻訳:船田晶子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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