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わずかなアンモニアを巡る微生物たちの戦い

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171233

原文:Nature (2017-09-14) | doi: 10.1038/549162a | A fight for scraps of ammonia

Marcel M . M . Kuypers

アンモニアから亜硝酸への酸化と、亜硝酸から硝酸への酸化の両方を行うことができる細菌の純粋培養に、初めて成功した。意外にもこの細菌は、アンモニアから亜硝酸への酸化のみを行う多くの培養微生物よりも、アンモニアの乏しい環境によく適応しているようだ。

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Dorling Kindersley/Getty

「硝化」とは、アンモニアから亜硝酸へ、亜硝酸から硝酸へという2段階の酸化を含んだ過程であり、重要な生物地球化学的過程である窒素循環の中心的な要素だ。限られた量のアンモニアを巡る競争は、硝化を行う細菌やアーキアが複雑な群集を形成する大きな要因となっている。この競争は、アンモニア濃度が低い環境(マイクロモル未満)では、これまでアンモニア酸化アーキア(AOA)はアンモニア酸化細菌(AOB)に対して優勢であると考えられてきた1,2。しかし、ウィーン大学(オーストリア)のKerim Dimitri Kitsら3は、硝化の両段階を行うことができる(つまりアンモニアから硝酸を生成する)細菌、ニトロスピラ・イノピナタ(Nitrospira inopinata)という珍しい細菌4–6の純粋培養に初めて成功し、この細菌が、多くの培養AOA種よりも低アンモニア条件によく適応していることを明らかにした。この成果は、Nature 2017年9月14日号269ページに掲載された。

アンモニアは有機窒素の分解で生成する物質で、多くの環境にはほとんど存在しないが、自然界にはアンモニア酸化生物が大量に存在する。一見、2つの所見は両立し難いように見える。しかし、アンモニアが見かけ上ほとんど存在しないという事実は、ごくわずかな量のアンモニアでも拾い上げる「高いアンモニア親和性を持つアンモニア酸化生物」の能力に帰することができる。例えば、海洋に生息するAOAは、細胞装置(アンモニアモノオキシゲナーゼという重要なアンモニア酸化酵素を含む)を極めて低い基質濃度(10 nM未満)に適合させることで、ほとんど検出不可能な量のアンモニアで増殖する1,7,8。陸上のAOAも、海洋の近縁生物と同様に高いアンモニア親和性を持ち、そのことによって低アンモニア濃度下でAOBを凌駕することができるのだと考えられていた2,9,10。しかし、こうしたアーキアを純粋培養してアンモニア親和性を測定した例はなかった。

Kitsらは、かつてニトロスピラ・イノピナタが見いだされた混合培養系4から、この細菌の純粋培養株を分離した。そして、この種、および土壌や温泉から分離された4株の陸上AOA純粋培養株に関して、硝化の速度論を明らかにした(図1)。その結果、陸上AOA培養株のアンモニア親和性は予想外に低く(約0.4~6µM;通常、親和性は反応速度が最大速度の半分となる基質濃度として表現される)、培養AOBと同等であることが分かった。対照的に、ニトロスピラ・イノピナタは、ほとんどのAOAおよび他の全ての培養AOBと比較して、アンモニア親和性が高かった(約60nM)。

図1 アンモニア酸化微生物の基質特異性
硝化では、アンモニアが亜硝酸を経て硝酸へ酸化される。アンモニア酸化アーキア(AOA)とアンモニア酸化細菌(AOB)は、酵素アンモニアモノオキシゲナーゼ(Amo;図中にはない)を利用して、その過程の第1段階を触媒する。これに対し、細菌ニトロスピラ・イノピナタ(Nitrospira inopinata)は、アンモニアから硝酸までの完全なアンモニア酸化を触媒する。図はアンモニア親和性が高いもの(左)から低いもの(右)の順に並べてあり、海洋AOAはアンモニア親和性が高い。ニトロスピラ・イノピナタのアンモニア親和性が意外にも陸上AOAを上回ることをKitsらは示した3。AOBの親和性は、他のどの群と比較してもはるかに低い。ニトロスピラ・イノピナタは、遺伝子の水平伝播と呼ばれる過程により、その高親和性amo遺伝子を、ベータプロテオバクテリアAOB(β-AOB)から獲得したか、もしくはβ-AOBへ渡したと考えられており、その後で異なるアンモニア親和性を進化させた可能性がある。 | 拡大する

その一方でニトロスピラ・イノピナタは、ニトロスピラ属の亜硝酸のみを酸化する種に近縁であるにもかかわらず、亜硝酸親和性が低い(約500µM)ことを、研究チームは発見した。亜硝酸濃度が概して低い多くの環境でニトロスピラ・イノピナタが純粋な亜硝酸酸化生物として増殖しないのは、おそらくその親和性の低さによるものだろう。ニトロスピラ・イノピナタは、アンモニア酸化生物としての役割に合った環境で増殖すると、細胞内に亜硝酸が蓄積され、亜硝酸親和性の低さという一見不利な特性が克服される。

次にKitsらは、酸化アンモニア分子当たりのニトロスピラ・イノピナタの増殖収率が培養AOAや培養AOBを上回ることを明らかにした。このことは、「増殖収率は、片方だけの酸化段階を経るよりも、完全硝化を行う生化学経路(エネルギー通貨であるATP分子を多く生成する)を経た場合の方が高まる、という理論的予測11を裏付けている。Kitsらは、ニトロスピラ・イノピナタの増殖収率の高さには、効率的な炭酸固定経路(二酸化炭素を細胞のバイオマスへ同化する)も寄与している可能性を示唆する。

総合すると、研究チームのデータは、硝化における完全アンモニア酸化細菌の潜在的役割について、我々の見方を変化させるものだ。完全アンモニア酸化細菌は世界の片隅に生息する珍しい生物ではなく、世界の生物圏のほとんどを特徴付ける低アンモニア濃度環境によく適応していることが分かったからだ。

高いアンモニア親和性と増殖収率は共に、ニトロスピラ・イノピナタと、硝化の両段階を行うそれ以外の完全アンモニア酸化性(comammox)のニトロスピラ種が、アンモニアの乏しい地下水や飲料水処理設備、一部の土壌に多く存在する理由を説明できると考えられる12。しかし、森林土壌や海洋など、他のアンモニア欠乏環境はAOAやAOBが優占している1,12,13。完全アンモニア酸化細菌のアンモニア親和性がAOAやAOBを上回るならば、なぜそうなっているのだろうか。そうした環境のアンモニア酸化生物の親和性と増殖収率は、実際には近縁の培養株から得られた従来の記録よりも高いのかもしれない。あるいは、アンモニア親和性と増殖収率以外の要因がアンモニア酸化生物群集の構成を決定付けている可能性もある。

好気的アンモニア酸化は古い形質で、その起源はおそらく20億年以上前までさかのぼると考えられる。従って、アンモニア酸化を行う細菌とアーキアどちらにも、進化する時間はたくさんあった。アンモニア酸化生物のアンモニア親和性は、高親和性のアンモニアモノオキシゲナーゼをコードする遺伝子の種間水平伝播によって急上昇する可能性があり、高アンモニア親和性のような単一の形質が環境中で任意のアンモニア酸化生物群の優占につながるとは考えにくい。

遺伝子の水平伝播が実際に起こることは、完全アンモニア酸化性のニトロスピラ種のアンモニア酸化経路がベータプロテオバクテリアAOB(β-AOB)へ渡ったか、あるいはβ-AOBから獲得されたかのどちらかであることを示唆したゲノム解析で明らかにされている4,14。ただし、培養β-AOBのアンモニア親和性はニトロスピラ・イノピナタに及ばず、一見この所見は謎めいていると思われる。しかし、アンモニア親和性の高い未培養β-AOBが存在する可能性はあり、それぞれの種の酵素が遺伝子の水平伝播の後で異なる親和性を進化させた可能性もある。

海洋でのAOBに対するAOAの明らかな優勢は、高アンモニア親和性に加えて、複数の要因の組み合わせによるものと考えられる。具体的には、アンモニアではなく有機窒素を効率的に利用する能力、アンモニア酸化以外の触媒過程の重要な補因子としての(細菌が利用する存在量の少ない鉄に代わる)銅の利用、そしてAOAの小ささ(細胞バイオマスの倍増に要するアンモニアが少なくて済むことを意味する)などが考えられる。

これまでに完全アンモニア酸化細菌の量が調べられた生態系はわずかだが、今回の研究は、この種の微生物が低アンモニア環境で特に多いと考えられることを示している。他の生態系の硝化プロセスに対する完全アンモニア酸化細菌の寄与を明らかにすることは急務だ。この種の細菌が一部のアンモニア欠乏環境で大量に存在する理由は、アンモニア親和性の高さだけではなく、アンモニア以外の基質で増殖する能力や、エネルギー要求量の低さなどの要因による可能性もあると考えられる。

こういった変数は、アンモニア酸化微生物群集の形成で一般的な役割を担っているのかもしれない。その中のどれが最も重要なのかを明らかにするには、AOA、AOB、そして完全アンモニア酸化細菌の生理学的特性に関する洞察の充実と、こうした興味深い生物の生態と進化に関する理解の深まりが必要と考えられる。

(翻訳:小林盛方)

Marcel M . M . Kuypersは、マックス・プランク海洋微生物学研究所生物地球化学部門(ドイツ・ブレーメン)に所属。

参考文献

  1. Martens-Habbena, W., Berube, P. M., Urakawa, H., de la Torre, J. R. & Stahl, D. A. Nature 461, 976–979 (2009).
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  14. Palomo, A. et al. bioRxiv Preprint at https://doi.org/10.1101/138586 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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