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重力波源を光で観測

重力波の源を光でも観測することに、2017年8月、天文学者たちが初めて成功した。2つの中性子星の連星の合体による重力波が初めて捉えられ、直ちに、世界中の約70カ所の天文台や宇宙望遠鏡により、光で重力波源が特定、観測された。中性子星の合体直後の様子が電磁波で詳細に観察され、金や白金などの鉄よりも重い元素がどこから来たのかという謎の解明に大きく近づいた。これらの観測の成果は同年10月16日、一斉に発表された。

この重力波(時空の歪みが伝播する波)は8月17日、米国の2カ所にある重力波観測施設「LIGO」(レーザー干渉計重力波観測所)と、イタリア北部にある重力波観測施設「Virgo」によって捉えられた。重力波が終わってから1.7秒後、米航空宇宙局(NASA)などが運用するフェルミガンマ線宇宙望遠鏡は、空のほぼ同じ部分から、弱く短いガンマ線バーストを捉えた。

重力波の分析から、その源は、地球から1億3000万光年の距離にある、それぞれ太陽質量の1.1倍から1.6倍の質量を持つ2つの中性子星の連星の合体(衝突)と推定された。重力波の観測例はすでに4例あったが、いずれもブラックホール同士の合体で、中性子星同士の合体が捉えられたのは初めてだ。ブラックホール同士の合体の場合、電磁波で観測することは難しいとみられている。

中性子星は、質量の大きな恒星が進化の末にたどりつく状態であり、太陽程度の質量を持ちながら、半径は10kmほどの超高密度の天体だ。合体の結果、重い中性子星ができたのか、ブラックホールができたのかは、まだ分かっていない。今回の観測で、ガンマ線バーストの原因の1つが明らかになり、重力波が光速で進むというアインシュタインの予言を確かめることにもなった。

ハーバード大学(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の天文学者で、対応天体の捜索を行ったEdo Bergerは、「これほど大規模で集中的な天体観測が行われたことはこれまでなかったと思います」と振り返る。この成果は5つの学術誌に30本以上の論文で報告された。

重力波源を目で見る

ペンシルベニア州立大学(米国ユニバーシティパーク)の物理学者Cody Messickが、このイベントに初めて気付いたのは8月17日午前8時41分(米国東部夏時間、世界時では午後0時41分)だった。彼は自宅にいた。「私は階段に立っていて、スマホを見て『うわあ!』と思いました」と彼は話す。LIGOは、ルイジアナ州リビングストンとワシントン州ハンフォードの2カ所に干渉計を設置している。Messickは、これらの干渉計で強い信号が検出されると自動警報を受け取る、小人数の研究者チームの一員だった。しかし、このとき通知されたのはハンフォードで得られた信号だけだった。

Messickらは、チームのリーダーである同大学のChad Hannaらとともに、その信号が、2つのコンパクトな天体(質量はそれぞれ太陽よりも少し大きい程度)が互いにらせん状に落ち込んで衝突した際に放出される重力波の波形とみられること、これまでのブラックホール同士の合体よりもはるかに長く、約100秒も続いていることを見いだした。波形は、まるで教科書に載っている例のようだった。

LIGOの研究者たちは、リビングストンのデータを調べ、同様の信号を発見した。しかし、その信号は、終わり近くに大きな誤りの信号がかぶさっていた。マサチューセッツ工科大学(MIT;米国ケンブリッジ)の物理学者で、LIGOのスポークスパーソンであるDavid Shoemakerは「この異常のために、リビングストンのリアルタイム分析ソフトウエアはこの信号を無視しました」と説明する。一方、研究者たちはもう1つの警報を受け取った。フェルミが、重力波から1.7秒後にガンマ線バーストを検出したのだ。

イタリアのVirgoは、性能向上のための改造を終えて8月1日にLIGOとの共同観測に加わったばかりだった。Virgoで得られたデータストリームも、別の誤りの信号のために一時停止させられていた。このため、欧州でも弱くはあったが信号を捉えていたことに気付くのに、さらに40分かかった。LIGO-Virgoチームは、重力波に伴う現象を従来の望遠鏡で探すために待機している約70の天文学者チームに、重力波検出を知らせた。

左は1992年に撮影されたNGC4993。右は2017年8月18日にラス・クンブレス天文台が撮影した同銀河で、目印がついた点が重力波源とみられる天体。 Credit: Nature 551, 64–66, Iair Arcavi et al.

その4時間半後、LIGO-Virgoチームは、2番目のずっと有用な情報を送った。Virgoが捉えた信号は微弱だったが、そのタイミングから重力波の源を突き止めることができた。源は、南天の約30平方度(月の見かけの面積の約150倍)の領域に特定された。

LIGO-Virgoチームからの警報で、各研究チームは、中性子星の合体で生じているはずの大爆発を最初に見つけようと急いだ。電波からX線まであらゆる波長が使われた。世界の陸地の多くでは昼間だった。各研究チームは、夜の観測に備えて戦略を練った。探すべき領域は太陽からそれほど離れていない。地上で観測可能な時間は、日没後、空のその領域が水平線下に沈むまでの2時間だった。

カリフォルニア大学サンタバーバラ校(米国)の宇宙物理学者Iair Arcaviは、「私たちはその夜、望遠鏡を複雑に振り付けをされたダンスのように操作しました」と話す。彼のチームは、世界各地にあるロボット望遠鏡のネットワーク、ラス・クンブレス天文台を使ってノンストップ観測を行った。この観測は、チリの多数の望遠鏡を起動させることから始まった。

そのイベントを最初に目で見た人間は、カリフォルニア大学サンタクルーズ校(米国)の天文学者Charles Kilpatrickだったようだ。彼は、ラス・カンパナス天文台(チリ)のスウォープ望遠鏡(口径1m)で空を走査していた研究チームの一員だった。Kilpatrickは、ライバルたちと同じように得られた画像を1つ1つ綿密に見て、空の同じ部分の以前の画像と比較していた。9番目の画像までに、うみへび座にあるNGC 4993という銀河の周辺部にはっきりした点が写っていることを彼は見つけた。重力波検出から約11時間後だった。

金の起源

元素のうち、鉄までの軽い元素は、ビッグバン時と恒星内で作られることが分かっている。鉄よりも重い元素のうち、半分は「r過程」と呼ばれる急速な元素合成反応で生成されることが分かっているが、r過程がどこで起こったかはまだ分かっていない。1つの候補が中性子星の連星の合体だった。今回の観測結果から元素生成量を見積もると、銀河系内のr過程で生成された元素の大部分は中性子星の合体で作られた可能性があるという。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校のグループは、中性子星合体現象の光スペクトルを最初に測定したグループの1つでもあった。天文学者Ryan Foleyは「最初の夜、その点は明るい青色でした。しかし、その後の数夜の間に、その天体はより赤っぽくなりました」と話す。

コロンビア大学(米国ニューヨーク)の理論宇宙物理学者Brian Metzgerは、「色の変化は、2つの中性子星の衝突で予測されていたとおりでした」と話す。2つの中性子星の衝突イベントでは、その破片(中性子といくらかの陽子の混合物)が放出されるプロセスは3つあるという。まず、2つの中性子星がらせん運動の最後で互いに近づく際、その外層から潮汐力で物質がはがされる。次に、一部の物質は衝突で絞り出される。最後に、合体後、周囲に形成された降着円盤から物質の一部がブラックホールに落ち込まずに外側へ流出する。

Metzgerのモデルによると、鉄よりも重い元素のうち比較的軽い元素は、衝突時に絞り出された物質の雲の中などで合成される。この雲は数日間、青く輝く。鉄よりも重い元素のうち、金や白金など比較的重い元素は、主に降着円盤からの流出物の雲の中で合成されるという。こうした雲は数週間、その化学組成のために赤色と赤外線で輝く。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2017.171202

原文

Colliding stars spark rush to solve cosmic mysteries
  • Nature (2017-10-19) | DOI: 10.1038/550309a
  • Davide Castelvecchi