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苦味と甘味の知覚に必要なガイダンス分子を発見

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171136

原文:Nature (2017-08-17) | doi: 10.1038/nature23537 | A bitter–sweet symphony

Jiefu Li & Liqun Luo

苦味や甘味などの味覚に関する情報は、それぞれの味覚に特異的な経路を介して、マウスの舌から脳へ伝達される。このたび、セマフォリンタンパク質がこれらの経路の配線を誘導していることが明らかになった。

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Maskot/Getty

食べ物を口に入れてすぐに「おいしい」と感じられるのは、舌から味覚の情報が脳へ伝達されるためである。味の正確な知覚は動物の生存に不可欠である。というのは、苦味を引き起こす分子は、通常、毒物であることを警告しており、甘味のある分子は栄養のある食物を示しているからだ。そのようなシグナルを忠実に伝達するために、味覚系はどのように配線をつないでいるのだろう? このほどコロンビア大学(米国ニューヨーク)のHojoon Leeら1は、マウスにおいて苦味と甘味の経路の配線を誘導するガイダンス分子としてセマフォリンファミリーの2つのタンパク質を突き止めたことを、Nature 2017年8月17日号330ページに報告した。

マウスの舌には数百もの味蕾が存在する。各味蕾には、苦味、甘味、酸味、塩味、うま味の5つの基本味質を検出できる味受容器細胞(TRC)が数十個含まれている2。多くの場合、各TRCが伝える情報は、発現する味受容体によって決定される1つの味質のみである。味受容体は、細胞表面タンパク質で、味の知覚を刺激する分子との結合により活性化される。TRCは、情報を脳に送るために、頭頸部の2つの味覚応答性ニューロンクラスター(膝神経節および岩様部神経節)のニューロンから伸びてTRCへと投射している軸索に結び付けられている。これら2つの神経節は、味覚の合図を脳へと伝える際の中継所として機能している2

ほとんどの神経節ニューロンは、TRCと同様に、1つの味質を伝えるよう調整されている3ことから、味覚情報は各味に調整された特異的経路を介して主に脳に伝えられると考えられる。例えば、甘味TRCは甘味応答性神経節ニューロンに忠実に接続され、苦味応答性神経節ニューロンには接続されないし、苦味TRCについてはこの逆が成り立つ。では、味蕾には5つの味質の1つを知覚する各TRCが混在していることを考えると、甘味神経節ニューロンの軸索はどのように接続すべき甘味TRCを見つけ出しているのか、という疑問が浮かび上がる。

Leeらはこの疑問に取り組むために、苦味と甘味のTRCの遺伝子発現プロファイルを調べ、TRCの種類によって発現に差のある分子を探索した。このような分子は軸索ガイダンス分子(軸索を目的の場所まで誘導する因子)として機能する可能性があるからだ。その結果、苦味TRCではセマフォリンであるSema3Aが、甘味TRCではSema7Aが高発現していることが突き止められ、ガイダンス分子候補として浮かび上がった(図1)。

図1 マウスにおける味覚系の配線
舌の各味蕾には数十もの味受容器細胞(TRC)が存在している。その大部分は、苦味、甘味、酸味、塩味、うま味という5つの味質の1つのみを知覚する。マウスでは、TRCは頭頸部の神経節と呼ばれるニューロンクラスターから伸びTRCへと投射している軸索に接続される。神経節は主に味質特異的に味覚情報を伝達する(味質特異的な軸索はTRCと同じ色で示す)。例えば、甘味に応答するTRCは、甘味応答性神経節ニューロンから伸びる軸索に接続される。Leeら1は、セマフォリンファミリーの2つのタンパク質がこのような配線パターンを誘導することを示した。苦味TRCによって産生されるSema3Aは、苦味神経節ニューロンとの接続を誘導する。一方、Sema7Aは、甘味経路に対しSema3Aと同様の役割を担っている。 | 拡大する

セマフォリンは、分泌型あるいは膜繋留型のタンパク質で、細胞の運動を調節し、軸索ガイダンスに関与することが知られている4。Leeらは、苦味経路の配線にSema3Aが必要であるかどうかを検討するために、活性化されると蛍光を発するように膝神経節ニューロンを遺伝的に改変したマウスを作製して用いた。これにより、どの味がニューロンの活性化を引き起こすか決定することができた。このマウスの苦味TRCからSema3Aをコードする遺伝子を欠失させると、苦味応答性ニューロンの約50%が、苦味だけでなく他の味質にも応答するように調整された。野生型マウスで2つの味に応答するよう調整されている苦味神経節ニューロンは9%であるので、これは大幅な上昇である。この結果から、Sema3Aを除去すると苦味神経節軸索の配線に混乱が引き起こされることが分かった。

そこでLeeらは、甘味TRCにSema3Aの誤発現を引き起こした。すると、味覚経路が再配線されて苦味神経節ニューロンの一部の軸索が甘味TRCに向けられ、苦味と甘味の両方の味質に応答するよう二重に調整されたニューロンの割合が上昇した。次に、苦味TRCからSema3Aを除去して、さらに甘味TRCにSema3Aの誤発現を引き起こすと、苦味神経節ニューロンの70%が1つ以上の味質に応答するよう調整された。それを裏付けるように、このような修飾を受けたマウスは苦味物質に対する忌避行動が大きく減少していた。

この結果を受け、LeeらはSema7Aについても同様の実験を行った。苦味あるいは酸味のTRCにSema7Aの誤発現を引き起こすと、苦味–甘味あるいは酸味–甘味の二重の調整を受けた神経節ニューロンの数が増加した。このことから、Sema7AはSema3Aと同様の方法で機能するが、Sema3Aが苦味経路で働くのに対し、甘味経路で働くことが示された。

Sema3Aは苦味、Sema7Aは甘味の経路を確立するガイダンス分子であることが実証された。Sema7Aは細胞膜に繋留されるが、Sema3Aは分泌型のガイダンス分子である4。だが今回Leeらは、Sema3Aは分泌型であるにもかかわらず、さまざまな種類のTRCが混在して密に集合している味蕾において、神経節ニューロンの軸索を特定のTRCに誘導する能力を持つことが示された。この知見から、分泌型ガイダンス分子が単一細胞の分解能で局所的に作用できることが明らかになり、「分泌型ガイダンス分子は遠くまで拡散して機能を発揮する」という従来の知見に異議が唱えられた。

TRCは急速に代謝回転し、その寿命は一般的に3週間未満である。対照的に、舌の神経節ニューロンの軸索は生涯にわたって存続する。従って、このような軸索は、新しい結合相手のTRCに繰り返し接続し直されなければならない。舌へ投射する軸索が持つこの能力は恒久的に維持されると考えられるが、これは他の多くの系の軸索とは対照的である。というのは一般に、他の細胞との接続は発生過程で形成される上に、この配線過程を可能にしている遺伝的プログラムはニューロン成熟後徐々に失われるのだ5,6

苦味や甘味の経路を再配線すると顕著にその出力が変化するが、このような味覚系は優れたロバスト(頑健)性も示した。Leeらが苦味TRCからSema3Aを除去して、さらに甘味TRCにSema3Aを誤発現させた場合でも、改変マウスの苦味応答性軸索ニューロンの30%は苦味を刺激する分子のみに応答するよう調整されていて、苦味物質にある程度の忌避行動を示した。これは、他の系で突き止められた配線シグナル7-9がセマフォリンと協調して機能し、この忠実性に関与する可能性を示している。例えば、細胞接着タンパク質のDscaml1やPcdhgb7は苦味TRCに選択的に発現していることが明らかになっていることからおそらく、これらのタンパク質が味蕾の配線の特異性を調節している可能性がある。

LeeらはTRCに発現する2つのシグナル伝達分子を突き止めたが、これらのシグナルに対する神経節ニューロンの軸索上に存在する受容体は解明されていない。これらのニューロンの大部分が、1種類のTRCに特異的に接続されていると考えられるので、おそらく各種類の神経節ニューロンは、対応するTRCが作り出すシグナルに合致する1つ以上の種類の受容体を発現している。これらの受容体を特定すると、味覚系の発達についての我々の理解が裏付けられると考えられる。同時に、遺伝的改変は種類特異的に神経節ニューロンの機能を調べる手段となり、従って、神経節と脳の間の味覚回路の検討が可能になると考えられる。

(翻訳:三谷祐貴子)

Jiefu Li & Liqun Luoは、スタンフォード大学(米国カリフォルニア州)に所属。

参考文献

  1. Lee, H., Macpherson, L. J., Parada, C. A., Zuker, C. S. & Ryba, N. J. P. Nature 548, 330–333 (2017).
  2. Yarmolinsky, D. A., Zuker, C. S. & Ryba, N. J. P. Cell 139, 234–244 (2009).
  3. Barretto, R. P. J. et al. Nature 517, 373–376 (2015).
  4. Kruger, R. P., Aurandt, J. & Guan, K.-L. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 6, 789–800 (2005).
  5. Zhang, K. X., Tan, L., Pellegrini, M., Zipursky, S. L. & McEwen, J. M. Cell Rep. 14, 1258–1271 (2016).
  6. Li, H. et al. Preprint at http://www.biorxiv.org/content/early/2017/06/03/145045 (2017).
  7. Kolodkin, A. L. & Tessier-Lavigne, M. Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 3, a001727 (2011).
  8. Zipursky, S. L. & Sanes, J. R. Cell 143, 343–353 (2010).
  9. Hong, W. & Luo, L. Genetics 196, 17–29 (2014).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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