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系外惑星大気にオゾン層に似た層を発見

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171134

原文:Nature (2017-08-03) | doi: 10.1038/548038b | Ozone-like layer in an exoplanet atmosphere

Kevin Heng

系外惑星の大気の性質が盛んに議論されている。ホットジュピターと呼ばれる系外惑星の熱スペクトルから、組成は不明だが、地球のオゾン層に似た層の存在が明らかになった。

巨大な系外ガス惑星WASP-121b​に水の輝線が見つかったことから、成層圏を持つと考えられる。 | 拡大する

Engine House VFX, At-Bristol Science Centre, University of Exeter

系外惑星科学のこれからの研究最前線は、リモートセンシング技術による大気の化学的特性の解明だ1。リモートセンシングとは、遠くの対象物を観測機器などを用いて探査する手法である。恒星間航行が実現されていない現状では、系外惑星に生命が存在するか、存在可能かを探る唯一の手段はリモートセンシングと考えられる2。ホットジュピターは、木星ほどの大きさで公転周期が短く(概して数日)、表面温度が非常に高温な系外惑星の一種である。そうした特徴からホットジュピターは、より小型で大気温の低い系外惑星の探査方法を研究している天文学者にとって、観測技術と理論的手法を磨く良い出発点となる。このたびエクセター大学(英国)のThomas M. Evansらは、WASP-121bというホットジュピターの熱スペクトルから水を検出したことを、Nature 2017年8月3日号58ページで報告した3。今回の発見から、WASP-121bでは、地球の大気と同様に大気温が高度とともに上昇する「温度逆転」現象が起こっており、その大気にオゾン層に似た層を含んでいることが示唆された。

Evansらの発見を理解するためには、地球との比較による類推(アナロジー)が有効である(図1)。地球の下層大気は、対流圏と成層圏という異なる2つの領域に分けられる。対流圏の上に位置する成層圏はオゾンを含んでいる。オゾンは、存在度は比較的低いが、太陽からの紫外線放射を極めてよく吸収する。この吸収によって、成層圏では高度とともに温度が上昇し、温度逆転が起こる。これに対して、対流圏では高度とともに温度が低下し、対流圏界面(対流圏と成層圏の間の境界領域)と成層圏界面(成層圏とその上の中間圏の間の境界領域)の温度はほぼ一定となる。成層圏が比較的穏やかなのに対し、対流圏では活発な対流が起こっている。

図1 大気の温度逆転
地球の下層大気は、対流圏と成層圏という2つの異なる領域に分けられる。成層圏は、太陽からの紫外線放射を吸収するオゾン層を含んでいる。この吸収によって、成層圏の温度が上昇し、大気温が高度とともに上昇する「温度逆転」が起こる。これに対して、対流圏では高度とともに温度が低下し、対流圏界面(対流圏と成層圏の間の境界領域)と成層圏界面(成層圏とその上の中間圏の間の境界領域)では温度が一定になる。Evansら3は、系外惑星WASP-121bの大気は、地球と同様に温度逆転が起こることを報告し、地球のオゾン層に似た層を含んでいることを示唆している。 | 拡大する

当初、天体物理学者たちは地球との比較・類推から、ホットジュピターを温度を基準にして2つに分類し、温度逆転は温度の高いホットジュピターでは起こるが、温度の低いホットジュピターでは起こらないという説を提唱していた。この説は、ホットジュピターの大気中では、酸化チタン(TiO)と酸化バナジウム(VO)が太陽系外版のオゾンのような働きをするという理由に基づいている4。この説の妥当性は、物理学とアナロジーの両方に関連している。TiOとVOはいずれも、可視光から近赤外までの波長領域の放射を極めてよく吸収する5。そして、太陽よりも小さい恒星や褐色矮星(系外惑星になるには質量が大き過ぎるが、本格的な核融合を維持する恒星になるには質量が小さ過ぎる天体)のスペクトルでは、TiOとVOがよく検出される6

しかし、こうしたアナロジーには限界がある。「成層圏」という用語は、ホットジュピターにはそぐわない。ホットジュピターは恒星によって赤道から両極までさまざまに激しく熱せられているため、上層大気をかき乱す激しい風が発生している7。また、褐色矮星とホットジュピターの生い立ち(形成機構や進化の歴史など)が共通しているかはまだ確認されていない。さらに、TiOやVOを検出したという主張は全て、かなり低いスペクトル分解能で行われた研究に基づいており、尤度しきい値の程度も異なっていて8-11、温度逆転に関する論文において広範な議論の的となっている12-19

Evansらは今回、系外惑星の水検出用として標準的な主力機器となっているハッブル宇宙望遠鏡搭載の広視野カメラ3(WFC3)を用いて、1.1~1.6µmの波長範囲をカバーするWASP-121bの熱スペクトルを得た。スペクトル分解能は、個々の分子スペクトル線を分解するには不十分であったが、分子のバンドヘッド(重なり合った多数の未分解線に起因するスペクトル的特徴)の形状を明らかにできた。

Evansらは、約1.2µmと約1.4µmの波長においてバンドヘッドを観測した。特に興味深いのは、水に関係する1.4µmのバンドヘッドで、谷ではなく緩やかなピークを形成していたことだ。Evansらは、このバンドヘッドを水の吸収線ではなく輝線に起因するものと解釈した。高度とともに温度が低下する大気中では、水が吸収線として観測される。一方、水が輝線として観測されるためには、温度逆転の存在、ひいては上層大気の温度上昇をもたらす恒星放射の強い吸収体が必要である。1.2µmのバンドヘッドはVOの存在とは矛盾しないが、VO分子が確実に検出されたとは言い切れない。また、記録されたWFC3スペクトルでは、TiOの有無は不明だ。

スペクトル的特徴が吸収線ではなく輝線だと主張するためには、リファレンス(参照)データを用いる必要がある。そこでEvansらは、WFC3スペクトルを、大気リトリーバルと呼ばれる手法を用いて解析した。この手法は、スペクトルから大気にどのような化学種が含まれ、分布しているかを求めるものである。この手法では、分子の存在度は解析における自由パラメーターであるため、化学的にもっともらしくない存在度が許される。そして著者たちは、リファレンスとして、このWFC3スペクトルとおおむね同じ波長範囲にわたって測定された2つの褐色矮星のスペクトルデータを用いた。これらの褐色矮星のスペクトルには、天体大気中の高温水蒸気に関係する1.4µm付近に深い吸収線があり、それらとの比較からWASP-121bの1.4µmのバンドヘッドが輝線であることが示された。大気リトリーバルが放射、化学、大気運動を自己矛盾なく扱っているわけではないため、Evansらの研究には限界があるが、この技術の専門家たちをうまくかわすには今のところ申し分ない。

ホットジュピターでTiOとVOが検出されたとの報告が増え続けているので、これらの分子の存在は他の手法で検証可能かもしれない。ホットジュピターの化学は、炭素と酸素の比によって細かく調節されている20。水が少なくメタンが多い他、炭素が豊富な大気には、一酸化炭素も多く含まれている。一酸化炭素は、利用可能な酸素原子をほとんど捕捉し、残ったわずかな酸素がTiOとVOを形成する。従って、TiOとVOが太陽系外版のオゾンといえるなら、温度逆転を起こすのは炭素の少ない高温大気のみであるはずだ。スペクトルの測定と化学的特性の推測が行われた十分な大きさのホットジュピターサンプルがあれば、これは反証可能な仮説となる。さらに、温度逆転は、非平衡な化学過程に対抗し、大気を化学平衡に向けて駆動する可能性がある。この仮説は、最先端技術で解析された質の高いスペクトルを用いれば、検証可能かもしれない。

(翻訳:藤野正美)

Kevin Hengは、ベルン大学宇宙ハビタビリティー研究センター(スイス)に所属。

参考文献

  1. Deming, L. D. & Seager, S. J. Geophys. Res. 122, 53–75 (2017).
  2. Seager, S. Proc. Natl Acad. Sci. USA 111, 12634–12640 (2014).
  3. Evans, T. M. et al. Nature 548, 58–61 (2017).
  4. Fortney, J. J., Lodders, K., Marley, M. S. & Freedman, R. S. Astrophys. J. 678, 1419–1435 (2008).
  5. Sharp, C. M. & Burrows, A. Astrophys. J. Suppl. 168, 140–166 (2007).
  6. Kirkpatrick, J. D. Annu. Rev. Astron. Astrophys. 43, 195–245 (2005).
  7. Showman, A. P. & Guillot, T. Astron. Astrophys. 385, 166–180 (2002).
  8. Désert, J.-M. et al. Astron. Astrophys. 492, 585–592 (2008).
  9. Haynes, K., Mandell, A. M., Madhusudhan, N., Deming, D. & Knutson, H. Astrophys. J. 806, 146 (2015).
  10. Evans, T. M. et al. Astrophys. J. 822, L4 (2016).
  11. Mancini, L. et al. Mon. Not. R. Astron. Soc. 461, 1053–1061 (2016).
  12. Burrows, A., Hubeny, I., Budaj, J., Knutson, H. A. & Charbonneau, D. Astrophys. J. 668, L171–L174 (2007).
  13. Harrington, J., Luszcz, S., Seager, S., Deming, D. & Richardson, L. J. Nature 447, 691–693 (2007).
  14. Knutson, H. A., Charbonneau, D., Allen, L. E., Burrows, A. & Megeath, S. T. Astrophys. J. 673, 526–531 (2008).
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  16. Madhusudhan, N. & Seager, S. Astrophys. J. 707, 24–39 (2009).
  17. Stevenson, K. B. et al. Astrophys. J. 754, 136 (2012).
  18. Line, M. R., Knutson, H., Wolf, A. S. & Yung, Y. L. Astrophys. J. 783, 70 (2014).
  19. Diamond-Lowe, H., Stevenson, K. B., Bean, J. L., Line, M. R. & Fortney, J. J. Astrophys. J. 796, 66 (2014).
  20. Madhusudhan, N. Astrophys. J. 758, 36 (2012).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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