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エルニーニョ現象で熱帯の森林が二酸化炭素の放出源に

2015年12月の海面水温。強力なエルニーニョ現象が発生し、太平洋の中部から東部にかけて海面水温が高くなっていることが分かる。 Credit: NASA/GSFC/GMAO/R. Kovach

2014年夏から2016年春にかけての強いエルニーニョ現象の影響により、ピーク時(2015年5月〜2016年4月)の1年間に熱帯の陸地の生物圏(森林など)から放出された二酸化炭素量は、ラニーニャ現象が起きていた2011年と比較して33億トン(炭素換算)増えていたことが、米国の観測衛星の測定と分析で分かった。2015年の1年間でみても2011年に比べて25億トンの増加だった。研究チームは、熱帯地域の生物圏は全体で、2011年は二酸化炭素を吸収していたが、2015年は放出に変わった、とみている。

科学者グループが2016年11月に発表したレポート「地球炭素収支20161」によると、化石燃料の燃焼と産業活動で排出される二酸化炭素は、2006~2015年の平均で年間93億トン(炭素換算)。一方、地球の陸地全体は平均で年間31億トンを吸収している。大気中の二酸化炭素の増加量は平均では年に45億トンだが、2015年は年間63億トンに上昇していた。

今回の観測結果は、米航空宇宙局(NASA)が2014年7月に打ち上げた観測衛星OCO-2(Orbiting Carbon Observatory-2)で得られたもので、NASAジェット推進研究所(カリフォルニア州パサデナ)の炭素循環・生態系研究者Junjie Liuらが2017年10月13日にScienceで報告した2。研究チームは、吸収と放出の絶対量は明らかにしていない。

OCO-2は、地表で反射して戻ってくる太陽光を観測し、大気中の二酸化炭素による太陽光の吸収から二酸化炭素量を測定する(Nature ダイジェスト 2014年9月号「地球の呼吸を探る、NASAの炭素観測衛星OCO-2」参照)。日本の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」などの観測結果も分析に使われた。

分析の対象地域はアジア、南米、アフリカの熱帯地域。生物圏は、樹木などの植生、土壌からの寄与、動物など、陸地の全ての生物を含む。分析値は、生物の呼吸、光合成、バイオマスの燃焼(火災)を含んでいる。

分析結果によると、2015年の二酸化炭素放出量は3地域でいずれも同じくらい増加したが、その理由は異なっていた。①東南アジアでは高温と干ばつが相まって野火の発生数が増加し、甚大さも増した。②アマゾンの熱帯雨林では干ばつが植物の成長を妨げ、熱帯雨林が吸収する二酸化炭素量を減らした。③アフリカでは、降水量は通常程度で気温が高かったため、枯れた樹木の分解などによる放出が増えた。

気象庁によると、このエルニーニョ現象期間中の監視海域海面水温は、基準値に対しプラス3度に達し、1949年以降で3番目の記録だった。現象発生期間も1949年以降で最長だった。

3つの熱帯地域生物圏の二酸化炭素放出増加量(2015年と2011年の差、GtC:ギガトン=10億トン)と原因。茶色は高温、黄色は少雨の地域。 Credit: NASA/JPL-Caltech

Liuらの論文は「二酸化炭素放出量のエルニーニョ現象への応答は地域によって異なり、考えられていたよりも複雑であることが分かった。また、エルニーニョ現象時の気候は、熱帯地域での高温や干ばつなど、地球温暖化がもたらす気候に近いとされている。今回の結果は、化石燃料の燃焼で放出される二酸化炭素を熱帯地域の生物圏が吸収する効果は、将来弱まる可能性があることを示している」としている。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2017.171111

原文

Massive El Niño sent greenhouse-gas emissions soaring
  • Nature (2017-08-17) | DOI: 10.1038/nature.2017.22440
  • Gabriel Popkin

参考文献

  1. Le Quéré, C. et al., Earth Syst. Sci. Data 8, 605–649 (2016).
  2. Liu, J. et al., Science 358, eaam5690 (2017).