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T細胞の標的認識パターンを予測

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171034

原文:Nature (2017-07-06) | doi: 10.1038/nature23091 | The patterns of T-cell target recognition

Sai T. Reddy

T細胞受容体(TCR)は、通常は体内に存在しないペプチド分子に結合して免疫応答を開始できる。TCRが結合するペプチドを予測することは難しいとされてきたが、今回、TCRの標的抗原の予測に向けた筋道が見えてきた。

ウイルスや細菌に感染した細胞(下側)の主要組織適合遺伝子複合体分子(MHC;オレンジ)が抗原(緑)を提示。T細胞受容体(上側の紫)がそれを認識すると、免疫応答が開始する。 | 拡大する

JUAN GAERTNER/SPL/Getty

免疫系のT細胞はT細胞受容体(TCR)と呼ばれるタンパク質複合体を発現している。抗原として知られるペプチド断片は、通常は、病原体など体内に存在しないタンパク質に由来し、TCRが抗原に結合すると免疫応答が開始する。TCRによる標的の認識は感染症やがんに対する免疫学的防御に不可欠であることが多い。しかし、TCRのアミノ酸配列のみを基盤としてTCRの抗原特異性を決定あるいは予測することは非常に困難である。このほど、TCRとTCRの抗原特異性の関係を調べた2つの研究チームがそれぞれ、Nature 2017年7月6日号に論文を発表した。89ページには聖ジュード小児研究病院(米国テネシー州メンフィス)のPradyot Dashら1の研究成果が、94ページにはスタンフォード大学医学系大学院(米国カリフォルニア州)のJacob Glanvilleら2の研究成果が掲載されている。

TCR配列の可変領域は遺伝子断片の大規模なコレクションにコードされている。これらの遺伝子断片は、T細胞が発生する際に再編成されて、体内の各T細胞が独自のTCRを持つようになる。ある個人が持つTCRの全体はTCRレパートリーと呼ばれ、その数は膨大で、約1018種類(地球上の砂粒の数の予測値と同程度)のTCRが存在すると推定されている3。このような非常に大きな多様性を持つことで、免疫系は、病原性を有すると考えられるさまざまな脅威を認識し、応答できるのである。しかし、TCRの配列のみからTCRの抗原特異性を決定することは難しい。TCRの多様性が膨大であることに加え、多数のTCRが同一の抗原に結合できる4と考えられるからだ。

ハイスループットDNA塩基配列解読の進歩5により、これまでよりもはるかに詳細にTCRレパートリーを調べることができるようになっている。単一細胞塩基配列解読技術はこのような進歩の1つで、これによりTCRの天然の可変部(抗原特異性を示す領域)についての情報がもたらされた6,7。可変部は、α鎖とβ鎖が組み合わさったヘテロ二量体で、これらの2つの鎖の組み合わせにより、細胞の表面に提示された抗原に結合するTCRの構造が決定される。TCRが抗原を認識する際には、抗原は主要組織適合遺伝子複合体(MHC)ファミリーのタンパク質との複合体として提示されている。このようなMHCタンパク質とぺプチドとの複合体は、遺伝的に改変された細胞を用いて作り出すことができ、特定の抗原に特異的に結合するT細胞の探索に用いることができる8

DashらもGlanvilleらも、特定の抗原に結合するT細胞を単離するために、インフルエンザあるいは結核などの一般的な疾患に関連する抗原とMHCタンパク質の複合体(MHCタンパク質–抗原ペプチド複合体)を蛍光標識して、それに結合するT細胞を検出するという手法を採った。これらのT細胞のTCR遺伝子のハイスループット単一細胞DNA塩基配列解読を行うことで、抗原特異的TCR配列の大規模なデータベースを作成することができた。次に、これらタンパク質のアミノ酸配列の詳細な解析を行い、抗原特異性と相関する配列モチーフのパターンを突き止めた(図1)。

図1 T細胞受容体の結合パターン
T細胞受容体(TCR)として知られるタンパク質複合体は、T細胞の表面に存在していて、体内の免疫応答において重要な役割を担っている。抗原として知られるペプチド断片は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)ファミリーのタンパク質と複合体を形成する。通常は体内に存在しない抗原にTCRが結合すると、防御免疫応答の開始を引き起こすことができる。しかし、TCRが結合する抗原を予測するのは難しい。そこでDashら1およびGlanvilleら2は、TCR配列とTCRの抗原結合の特異性の関係を調べた。両研究チームは、マウスおよびヒトの既知の抗原に結合できたT細胞を単離し、その細胞の表面に存在するTCRを発現する遺伝子のDNA配列を解析することで、抗原に対応するTCRのアミノ酸配列を決定した。対象とする抗原との結合に関連するTCR配列モチーフは、他の配列よりも濃縮されていることを見いだし、抗原特異的な配列モチーフを突き止めることができたのだ。さらにこの情報を用いて、抗原特異的なTCR配列を基盤として、特定のT細胞が特定の抗原に結合するかどうかを予測することもできた。 | 拡大する

以前の構造解析から9、TCRの可変部内にある小さな領域、特に「相補性決定領域(CDR)」として知られる領域が、MHC–ペプチド複合体と直接相互作用する主な部位であることが明らかになっている。Dashらは、TCR配列の共通するアミノ酸を基盤として、どの2つのTCR配列の類似性をも捉える、距離測定法として知られる指標を開発した。この指標を用いてCDR間の類似性を計算し、マウスおよびヒトのT細胞の多くの試料に存在するTCRについて、抗原特異的で、類似性が高く、クラスター化したTCRグループを突き止めた。これらのTCRクラスターの統計解析から、対象とした抗原に結合しなかったTCRレパートリーと比較した際に、抗原特異的なTCRグループのCDRには、短い配列モチーフの中に特異的に濃縮(enrich)された短い配列モチーフが存在することが明らかになった。Glanvilleらは、ウイルスあるいは細菌の感染に関連する特異的抗原に結合するヒトTCRのみに注目して同様の解析を行った。Glanvilleらの研究からも、CDRの中に濃縮された配列モチーフが存在すること、またこの配列は特定の抗原に結合しないヒトTCRレパートリーには観察されないことが分かった。

次に、両研究チームは、突き止めた濃縮された配列モチーフを用いて、TCR配列を基盤として抗原特異性を予測する分類系を開発した。Dashらが開発した系では、抗原特異性が明らかでないどのようなTCRについても、最も高い配列類似性を持つ抗原特異的TCRのクラスターを探し出すことで、特異性を予測することができる。この手法により、ヒトおよびマウスのTCRの抗原結合の特異性を正確に割り付けられることを実証した。10種類の抗原を検討した際には、約80%の抗原特異性を明らかにすることができた。

Dashは、自身の予測法の限界を規定するために、検討した抗原のうちの4つについて、さらにそれらに結合するマウスT細胞のTCRレパートリーを調べて、独立したデータセットを作成した。次に、この新しいデータセットの各TCRを、これまでに開発した配列類似性分類法を用いて抗原グループに割り付けた。すると、この方法によるTCRの抗原結合特異性の予測は、調べた4つの抗原のうちの3つで90%の正確性を示した。特筆すべきは、このように正確に割り付けられたTCRの85%は、これまでのデータセットでは観察されていない新規のものであったことだ。つまりこの分類系は、これまでに遭遇していないTCRの抗原特異性も予測できることを示している。

Glanvilleらが開発した抗原予測系も、TCRを抗原特異的結合グループに割り付けることができた。Glanvilleらは、この系にヒトの独立したTCRレパートリーセットを用いることで、TCRを正確に抗原結合グループに割り付けることができることを示し、また、これまでに検討した抗原に結合すると考えられるTCR配列をさらに明らかにしている。その上、これまでの解析で明らかになった「結核菌の抗原に特異性を示す」TCRレパートリーで濃縮の認められた配列モチーフを用いて、検討した生物学的試料には見られなかった10種類の合成TCRからなる、結核菌抗原に特異的に結合すると予測されるTCRセットを設計した。実際に、これらのTCRを発現するよう遺伝的に改変したT細胞を用いてin vitroで解析を行うと、10種類の合成TCRのうちの8種類が抗原に特異的に結合することが分かった。さらにT細胞の活性化レベルを評価すると、合成TCRのうちの2種類が、自然に生じた抗原特異的TCRよりも高い活性を示した。

これら2つのチームの研究から得られた成果は、TCRを基盤とする新しいタイプの臨床診断ツールの開発に利用できる可能性がある10,11。例えば、ある人が持つレパートリーの抗原特異的TCRの数が多いほど、免疫学的防御能が高いという相関が見られるかどうかが分かるかもしれない。しかし、DashらやGlanvilleらが用いた手法には制約があり、TCRの抗原結合特異性の予測に用いることができる配列パターンを特定するためには、抗原となるMHC–ペプチド複合体についての情報がすでにあること、また、そのような複合体が利用できることが求められる。

がん治療を含む一部の臨床的状況では、ある人に存在する腫瘍特異的T細胞応答の程度を知ることは有益だと考えられる。しかし、腫瘍細胞には非常に多数の遺伝的変異が存在する12ことを考えると、T細胞が標的としている腫瘍抗原をあらかじめ知ることは難しい。従って、抗原特異的T細胞を単離する必要がなく、TCRの抗原特異性グループを特定できる方法は、非常に価値があると考えられる。ある特定の抗原を投与されたマウスで、濃縮の認められるTCR配列モチーフを決定できる13ことが報告されており、この手法は「抗原特異的T細胞を単離する」という問題を克服する実行可能な手法となり得ることが示されている。

Glanvilleらは、抗原特異性を持つ合成TCRを設計できることを実証したが、天然のTCR配列を基盤として、複数個体のTCR配列を混ぜるという比較的単純な手法を用いた。将来的には、計算生物学と構造モデル化14を統合したより進歩した方法が、T細胞療法15のための、特異性が高く強力なTCRの設計に用いられる可能性がある。

(翻訳:三谷祐貴子)

Sai T. Reddyは、チューリヒ工科大学(スイス・バーゼル)に所属。

参考文献

  1. Dash, P. et al. Nature 547, 89–93 (2017).
  2. Glanville, J. et al. Nature 547, 94–98 (2017).
  3. Murphy, K., Travers, P., Walport, M. & Janeway, C. Janeway’s Immunobiology 8th edn (Garland Science, 2012).
  4. Sewell, A. K. Nature Rev. Immunol. 12, 669–677 (2012).
  5. Friedensohn, S., Khan, T. A. & Reddy, S. T. Trends Biotechnol. 35, 203–214 (2017).
  6. Dash, P. et al. J. Clin. Invest. 121, 288–295 (2011).
  7. Han, A., Glanville, J., Hansmann, L. & Davis, M. M. Nature Biotechnol. 32, 684–692 (2014).
  8. Altman, J. D. et al. Science 274, 94–96 (1996).
  9. Garcia, K. C. & Adams, E. J. Cell 122, 333–336 (2005).
  10. Emerson, R. O. et al. Nature Genet. 49, 659–665 (2017).
  11. Attaf, M., Huseby, E. & Sewell, A. K. Cell Mol. Immunol. 12, 391–399 (2015).
  12. Liu, X. S. & Mardis, E. R. Cell 168, 600–612 (2017).
  13. Sun, Y. et al. Front. Immunol. 8, 430 (2017).
  14. Pierce, B. G. et al. PLoS Comput. Biol. 10, e1003478 (2014).
  15. Sadelain, M., Rivière, I. & Riddell, S. Nature 545, 423–431 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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