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英国で影響力増す「イノベートUK」

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171012

原文:Nature (2017-07-27) | doi: 10.1038/547390a | Budding UK innovation agency gains cash — and clout

Elizabeth Gibney

企業への助成に重点を置く、英国政府の研究資金助成機関「イノベートUK」が、その影響力を急速に増している。

カタパルトセンターの1つが英国北部に設けた風力タービン実証試験施設。 | 拡大する

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イノベーション(技術革新)を目指して主に企業に研究費を助成している、英国政府の研究資金助成機関「イノベートUK」(Innovate UK)が、英国の科学技術研究において影響力を増している。イノベートUKの助成額はこの10年間で急速に増加している。英国政府は2016年秋、政府の研究開発費支出を2020/21年度までの4年間で計47億ポンド(約6600億円)も増額することを発表したが、その配分でも存在感を見せることになりそうだ。英国の研究費の流れは変化しつつある。

イノベートUKは、正式名は「技術戦略委員会」(Technology Strategy Board)という。ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)傘下の独立機関で、本部は同国スウィンドンにあり、職員は約300人だ。2007年7月に発足した当初は、企業経営者と公務員で構成される、政府の小さな諮問委員会だった。しかし、その後、この組織は性格を変え、予算は年間約8億ポンド(約1100億円)と発足時の約4倍になった(「増える助成額」参照)。2016/17年度末時点で、援助している研究プロジェクトの数は約2400にのぼる。なお、イノベートUKの助成を受けるには、助成される側も同程度の額の資金を用意することが求められる。

増える助成額
英国の研究資金助成機関「イノベート UK」の助成額は増えている。 | 拡大する

SOURCE: INNOVATE UK

イノベートUKは、大学よりも企業への助成に重点を置いている。イノベートUKの研究資金を最も多く受け取っているのは自動車メーカーのロールスロイス社で、2007年以降で計約3億ポンド(約420億円)を得ている。イノベートUKの成功例で最もよく引き合いに出されるのは、SwiftKey社への初期の資金助成だ。SwiftKey社は、スマートフォンなど向けのテキスト予測入力ソフトウエアを開発し、2016年、報道によると2億5000万ドル(約280億円)でマイクロソフト社に買収された。イノベートUKは、中小企業への助成により一層力を入れるようになっているという。

大学に分配される研究資金はイノベートUKが提供する研究資金の約20%にすぎないが、イノベートUKの研究資金を何度も獲得している大学もある。例えば、工学と製造技術研究に強いシェフィールド大学は、これまでに1億5000万ポンド(約210億円)を受け取っている。

増す存在感

イノベートUKの代表Ruth McKernanは、「イノベートUKの助成額はすぐにさらに増える見込みです」と話す。

英国政府は、計47億ポンドの研究開発費の増額の一環として「産業戦略チャレンジ基金」(ISCF)を新設した。ISCFは、英国経済に貢献する可能性のある重要な技術に取り組む研究者を援助するもので、すでに10億ポンド(約1400億円)を割り当てることが約束されている。英国の大学での科学研究への主たる資金助成団体は、7つある研究審議会だが、イノベートUKは、これらの研究審議会とともにISCFを共同で運営する責任を負うことになった。当面、ISCFの助成のかなりの部分がイノベートUKを通じて行われる見込みだ。「ISCFという制度を最初に提案したのはイノベートUKのチームで、米国防総省高等研究計画局(DARPA)の活動を研究した結果です」とMcKernanは話す。

英国の研究資金の流れは変化しつつあり、イノベートUKと研究審議会の関係は強まっている。2018年4月からは、両者は「UKリサーチ・アンド・イノベーション」(UKRI)と呼ばれる、新しい中心組織の一部になる。「ISCFの創設は、これまでのイノベートUKと研究審議会のあり方からの脱却を意味します。これは、両者がともに取り組む課題を設定したということです」とMcKernanは話す。

ISCFの10億ポンドには、電池の開発に助成する2億4600万ポンド(約340億円)などが含まれている。英国政府は2017年7月、この助成の一環として電池研究の新たな研究センターを設立するため、予算4500万ポンド(約63億円)でセンターのプランのコンペを行うと発表した。

マンチェスタービジネススクールの科学政策研究者Kieron Flanaganは、「英国政府は、英国のEU離脱の悪影響を懸念している研究者たちを、研究開発費の増額、特にISCFで安心させようとしています。ISCFは、学術研究界にとってもあまりに大きくて無視できなくなるだろうと思います」と話す。

技術革新のカタパルト

トロント大学(カナダ)の技術革新政策の研究者Dan Breznitzは、「イノベートUKの名前は、英国外でも科学者と企業人にはなじみはあります。しかし、それが何をしているかを知っている人はほとんどいません。一方、イノベートUKが設立した『カタパルトセンター』は、もっと広く知られています」と話す。カタパルトセンターは、大学での研究と民間の技術開発を橋渡しする機器や資源を提供する組織で、研究分野の異なる10のセンターが設置されている。ドイツのフラウンホーファー研究所群などをモデルにしている。

最大のカタパルトセンターは、ロンドンにある「細胞・遺伝子治療カタパルト」で、イノベートUKから1億5000万ポンドを得ている。エディンバラ大学で再生医学に取り組むStuart Forbesは、「このカタパルトはこの分野の英国の研究者たちを活気づかせました」と話す。彼は、肝硬変の新たな細胞治療の第二相試験を実現するに当たり、カタパルトのアドバイスに助けられたという。カタパルトセンターの多くは設立後、5年を迎えていて、業務の最初の公式の評価が2017年9月に発表される見込みだ。

一方、イノベートUKの影響力が大きくなるとともに、その中核となる使命がぼやける危険性がある、とBreznitzは指摘する。「この機関は、その独自性をつかもうと苦心し、これまでに何度か組織を再編してきました。もしもイノベートUKが今、DARPAのように重要課題を解決することが使命と考える一方で、同時に、中小企業に研究補助金を与える、米国の中小企業技術革新研究プログラムのようにも振る舞おうとするなら、苦労することになるでしょう」と彼は話す。

イノベートUKは、英国の科学研究の経済的な利益を重視する志向も強めるかもしれない。McKernanは「イノベートUKは、研究費投資の成功の評価に、雇用創出や投資によって得られた利益などの経済的な基準を使っています」と話す。

研究審議会は、UKRIの下で、こうしたイノベートUKのやり方を取り入れていくかもしれない、とMcKernanは考えている。「私は、UKRIを横断する、はるかに強力な分析家集団が生まれると考えています。それは、先駆的な研究やトランスレーショナル(橋渡し)研究や応用研究からどうすれば投資の利益が得られるかを理解し、より強い出力を得るためにはレバーをどう操作したらいいかを理解している人たちです」と彼女は話す。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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