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トポロジカル物質の未来

ごくありふれた物質の中に、奇妙なトポロジー効果が隠れているかもしれない。こうした効果を見つけることで、新粒子の発見や超高速トランジスターの実現、ひいては量子コンピューティングの開発に弾みをつける可能性がある。

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NIK SPENCER/NATURE

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171015

原文:Nature (2017-07-20) | doi: 10.1038/547272a | The strange topology that is reshaping physics

Davide Castelvecchi

ペンシルベニア大学(米国フィラデルフィア)の理論物理学者Charles Kaneは、自分がトポロジスト(位相幾何学者)と付き合うことになるとは思いもしなかった。固体材料に関する具体的な問題を研究することが多い彼は、「私は数学者のような考え方はしません」と言う。Kaneのような物理学者は少なくない。一般に、物理学者はトポロジー(図形とその空間内での配置に関する数学的な研究)にはほとんど関心がなかったが、近年、多くの物理学者が、Kaneのようにこの分野に集まってきている。

物理学者はこの10年で、ある種の絶縁体で表面の単原子層に沿って電流が流れる仕組みなど、材料物理学の問題に関して「トポロジー」がユニークな洞察をもたらす場合があることに気付いた。

トポロジーの概念で理解できる「トポロジー効果」のいくつかは1980年代に発見されていたが、トポロジー効果が予想よりはるかに多くの物質で見られ、思っていた以上に奇妙であることが分かってきたのは、ほんの数年前のことだった。トポロジカル物質は「以前から研究者の目の前にあったのですが、それを調べようとは誰も思わなかったのです」とKane。

今や、トポロジー物理学は文字どおり爆発的に成長している。固体物理学の論文で、タイトルに「トポロジー」という言葉が入っていないものを目にすることは、めっきり少なくなったように思われる。そして実験家は、これまで以上に忙しくなりそうだ。Nature 2017年7月20日号298ページに発表された論文1では、トポロジー効果を示す可能性のある物質の「地図」が報告されたのだ。この地図は、ワイルフェルミオンや量子スピン液体など、物質の奇妙な状態を探しに行ける場所が、これまで考えられていた以上に多く存在することを物理学者たちに教えている。

科学者たちは、トポロジカル物質が将来的には、より高速で効率の良いコンピューターチップや、夢の量子コンピューターに応用されることを期待している。トポロジカル物質はすでに、未発見のエキゾチックな素粒子や物理法則に関する予想を検証するためのバーチャル実験室として利用されている。多くの研究者は、トポロジー物理学がもたらす真の見返りは、物質そのものに関する理解の深まりだと言っている。プリンストン大学(米国ニュージャージー州)の物理学者Zahid Hasanは、「おそらく、トポロジー物理学における創発現象は、身近なところにあふれています。ひとかけらの岩石の中にもあるでしょう」と言う。創発現象とは、多数の独立の要素の相互作用によって、個々の要素からは予想できなかった性質が現れることである。

素粒子の最も基礎的な特性のいくつかは、本質的にトポロジカルだ。例として、電子のスピンを考えてみよう。電子のスピンには上向きと下向きの2種類がある。1個の電子のスピンを上向きから下向きにし、再び上向きにすると、360°回転したから電子は元の状態に戻ると思われるかもしれない。しかし実際にはそうはならない。

量子物理学の奇妙な世界では、電子は、素粒子に関する情報(電子が特定のスピン状態にある確率など)を含んだ波動関数としても表される。直観に反して、360°の回転は波動関数の位相をずらし、波の山は谷になり、谷は山になる。電子とその波動関数を最初の状態に戻すには、もう一度360°回転する必要がある。

数学者が大好きな「メビウスの帯」でも、同じことが起こる。1本のリボンを1回ひねって両端を貼り合わせたメビウスの帯は、トポロジーにおいて重要な、不思議な図形だ。この帯の上をアリが1周すると、出発点の裏側に来る。出発点に戻るためには、もう1周しなければならない。

アリが置かれた状況は、電子の波動関数に起こることに似ているだけでなく、量子波からなる抽象的な幾何学空間の中で実際に生じている。それはちょうど、1つ1つの電子に微小なメビウスの帯が含まれていて、それらが少々面白いトポロジーを持っているようなものだ。クォークやニュートリノなど、この性質を持つ粒子は全て「フェルミ粒子(フェルミオン)」と呼ばれ、光子など、そうでない粒子は「ボース粒子(ボソン)」と呼ばれる。

ほとんどの物理学者は、トポロジカルな意味について思い悩むことなくスピンなどの量子的概念を研究している。しかし、1980年代に、ワシントン大学(米国シアトル)のDavid Thoulessなどの理論家が、当時発見されたばかりの量子ホール効果という驚くべき現象の原因はトポロジーにあるのかもしれないと考え始めた。量子ホール効果とは、電子を閉じ込めた2次元平面にかける磁場を強くしていくときに、ホール抵抗が階段状に増えていく現象だ。ここで重要なのは、温度のゆらぎや結晶中の不純物があってもホール抵抗は変わらないことである。Hasanによると、このようなロバスト(頑健)性は当時は知られていなかったものだという。ロバスト性はトポロジカル状態のカギとなる属性の1つであり、今日の物理学者たちはこれを利用したいと考えている、と彼は話す。

ねじれた物理学

1982年、Thoulessらは量子ホール効果の背景にあるトポロジーを明らかにした2。この発見は、Thoulessが2016年にノーベル物理学賞を共同受賞した理由となる研究へとつながった。電子のスピンと同様、このトポロジーは抽象空間に存在しているが、基礎にある形はメビウスの帯ではなくドーナツの表面だ。磁場を大きくしたり小さくしたりすると、ハリケーンの目の周りの風向きのように、表面で渦が形成されたり消滅したりする(「渦とトポロジカル物質」参照)。

渦とトポロジカル物質
気流や水流などの多くの物理現象は、表面上の矢印のパターンとして表すことができ、そのふるまいには、表面のトポロジーによって決まる部分がある。ボールの表面の毛をくしでとかすと必然的に両極に「つむじ」ができるように、球の表面のパターンには常にいくつかの渦がある。これに対して、ドーナツでは渦が生じないことがある。 | 拡大する

SOURCE: HTTP://GO.NATURE.COM/2MUZD4B

渦には、中心点の周りを何周しているかを記述する「巻き数」という性質がある。巻き数は、図形の変形により変化しないトポロジカル不変量だ。ドーナツ型の周りに磁場をかけるときに短時間で生成したり消滅したりする渦の巻き数の合計は常に一定である。その合計は、中国生まれの米国の数学者Shiing-Shen Chern(陳省身)にちなんで「チャーン数」と呼ばれている。トポロジストは1940年代からチャーン数を知っていた。

最も驚くべき発見は、その先にあった。2000年代中ごろまで、量子ホール効果やその他のトポロジー効果は、強磁場の存在下でしか見られなかった。しかし、Kaneらのチーム3と別の研究チーム4が、重元素からなるある種の絶縁体が電子と原子核の内部相互作用を通じて独自に磁場を提供できることに、それぞれ気付いたのだ。これにより、物質表面の電子は「トポロジカルに保護」されたロバストな状態となり、ほとんど抵抗なく移動できるようになる。2008年までにHasanの研究チームが、ビスマスアンチモン合金の結晶においてこの効果が生じることを実証し5、「トポロジカル絶縁体」と命名した。「そこから面白いことになってきました」と彼は言う。

数学者が切望するフィールズ賞を受賞した唯一の物理学者であるプリンストン高等研究所(米国ニュージャージー州)の理論家Edward Wittenは、この発見は物理学界を大いに揺るがしたと回想する。トポロジカル状態は、エキゾチックな例外であるどころか、自然界の未知の効果を見いだす可能性に満ちていることが明らかになった、と彼は言う。「パラダイムが変わったのです」。

中でも意外だったのは、トポロジカル状態がしばしば、全く異なる問題(例えば、重力と量子物理学の折り合いをどうつけるか)を解決するために考案された理論によって説明できることだった。Wittenの「位相的場の量子論」などの概念は、その後、純粋数学のブレークスルーにつながり、今では、物理学の予想外の場所に戻ってこようとしている。「理論が見事に1周してきたのです」と、同じくフィールズ賞の受賞者で、現在はケンブリッジ大学(英国)でこうした理論に取り組んでいるMichael Atiyahは言う。

奇妙な準粒子

トポロジカル物質のもう1つの面白さは、電子や他の粒子が、時に、集団で単一の素粒子のようにふるまう状態をとることだ。これらの「準粒子」状態は、既知のどんな素粒子にもないような特性を示すことがある(Nature 2017年7月20日号324ページ参照)6。そうした粒子は、物理学者がまだ発見できていない粒子を模倣することさえできた。

2015年には、最も発見が待たれていた準粒子のいくつかが発見された。その1つは、1920年代に数学者のHerman Weylによって予想されたワイルフェルミオンという質量のないフェルミ粒子だ。ワイルフェルミオン以前に発見されたフェルミ粒子は、いずれも多かれ少なかれ質量を持っていた。しかしHasanは、ヒ素化タンタル(TaAs)の結晶中のトポロジー効果は、ワイルフェルミオンのようにふるまう「質量のない準粒子」を作り出すはずだと計算した。準粒子では、質量がないということは、エネルギーにかかわらず同じ速度で移動することを意味する。2015年、Hasanの研究チーム7と、中国科学院(北京)のHongming Weng(翁紅明)が率いるチーム8が、実験によりこのことを確認した。研究者たちは、こうした物質が将来、超高速トランジスターなどに応用されることを期待している。結晶中を移動する電子は通常、不純物に衝突すると散乱されて進みにくくなるが、Hasanのヒ素化タンタル結晶中ではトポロジー効果により、電子が邪魔されることなく移動できるようになる。

同じ年に、マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の物理学者Marin Soljačičらは、固体結晶中ではなく電磁波中で、ワイルフェルミオンによく似たものを観察した9。彼らはまず、プラスチック板を重ねたものに慎重に穴を開けてジャイロイド構造(らせん階段がいくつも絡まり合っているように見える3次元パターン。冒頭の画像参照)を作った。それからジャイロイドにマイクロ波を照射して、質量のないボース粒子である光子がHasanの物質中でワイルフェルミオンのようにふるまうことを確認した。トポロジカルフォトニクスと呼ばれるこの新興分野で特に期待されているのは、結晶を利用して、光が一方向にしか進まないような光ファイバーを作ることだ。これは、光が結晶中の欠陥に跳ね返されるのを防ぎ、長距離伝達の効率を劇的に高めることができる。

奇妙さの点でSoljačičの準粒子を上回る準粒子は「エニオン(anyon)」しかないだろう。通常、個々の粒子はフェルミ粒子かボース粒子のどちらかである。しかし、原子1個分の厚みしかない2次元物質中にのみ存在する準粒子のエニオンは違う。その違いは、2個の同じ粒子の場所を交換するときに観察することができる。ボース粒子では、位置を交換しても集合的な波動関数には影響はなく、フェルミ粒子では、1個の電子が360°回転したときと同じように、波動関数の位相が180°ずれる。これに対してエニオンでは、波動関数の位相は、エニオンの種類によって決まる角度で変化する。その上、理論からは、交換されたエニオンの位置を元に戻しても波動関数は元に戻らない場合もあることが示唆されている。

だから、研究者がエニオンをいくつか作って並べ、位置を交換することができれば、その量子状態はどのように交換されたかを「覚えて」いると考えられる。物理学者は、エニオンの2次元的な空間運動と時間を表す第3の次元を足し合わせることで、このプロセスを視覚化する。それが、数本のひもを組み合わせて作る、美しい組みひもだ。原理的に、組みひもの状態は、量子コンピューターの情報の単位である量子ビット(キュービット)をコード化するのに利用できる。そのトポロジーは、量子情報を貯蔵するあらゆる技術の悩みの種となっている外部ノイズから量子ビットを保護してくれる(Nature ダイジェスト 2015年3月号「量子コンピューターが現実になる日」参照)。

量子コンピューターの開発を目指すマイクロソフト社(米国ワシントン州レドモンド)は、2005年、Michael Freedmanの量子組みひも研究に巨額の投資を行った。Freedmanは4次元の球のトポロジーを解明して1986年にフィールズ賞を受賞した数学者で、1990年代には量子ビットの組みひもを作るためのカギとなる概念をいくつか考案している。当初、Freedmanの研究者チームは理論的側面に集中していたが、2016年末、マイクロソフト社は学術界から数人のスター実験家を雇い入れた。その1人はデルフト工科大学(オランダ)の物理学者Leo Kouwenhovenで、エニオンなどの粒子が「どのように交換されたか」を覚えていることを、2012年に初めて実験的に確認10した人物だ。彼は、エニオンが量子ビットをコード化して簡単な量子計算ができることを証明するため、現在、デルフト工科大学の構内でマイクロソフト社の新たな研究室を開設する準備をしている。このアプローチは、他の形の量子コンピューティングより20年は遅れているが、Freedmanは、最終的にはトポロジカル量子ビットのロバスト性が勝つだろうと考えている。「新しい技術を築き上げようとするなら、しっかりした土台が必要です」と彼は言う。Hasanも同様の実験に挑戦しているが、トポロジカル量子コンピューターが実現するのは少なくとも40年は先のことだろうと考えている。「物質のトポロジカル相は、まだしばらくは大学の研究室から出られないと思います」。

トポロジーの地図

しかし、量子コンピューターの開発を加速する方法があるかもしれない。新しいトポロジカル絶縁体を探す実験家たちは、これまで、それぞれの物質中の電子が取り得るエネルギーを計算してその特性を予想するという、手間のかかるやり方をしてきた。

プリンストン大学の理論物理学者Andrei Bernevigが率いる研究チームは2017年、近道を見つけたことを報告した。彼らは、物質の結晶構造中に存在し得る全230種類の対称性を検討して、トポロジカル物質の地図を作った。続いて、全てのエネルギー準位を事前に計算することなく、これらの対称性のうちのどれが原理的にトポロジカル状態を取り得るかを体系的に予想した。彼らは、全ての物質の10~30%、おそらく数万種類の化合物がトポロジー効果を示す可能性があると考えている1。しかし、これまでに発見されているトポロジカル物質はほんの数百種類だ。「私たちが知っているトポロジカル物質は、存在する可能性のあるトポロジカル物質のごく一部にすぎず、もっとたくさん見つかる可能性があることが分かりました」とBernevig。

研究チームにはバスク大学(スペイン・ビルバオ)に所属する結晶の数学の専門家が3人含まれていて、材料科学者は近いうちに、ビルバオ結晶学サーバー(Bilbao Crystallographic Server)を利用して特定の結晶性物質がトポロジカルである可能性の有無を調べられるようになる。清華大学(中国・北京)の物理学者Wei Li(李渭)は、新しいトポロジカル絶縁体を探す上で、Bernevigの手法の方が効率が良いことは明らかだと言う。「今後、新しい材料がどんどん出てくることでしょう」。

マックス・プランク固体化学物理学研究所(ドイツ・ドレスデン)の材料科学者で、Bernevigらの論文の共著者であるClaudia Felserは、「ある物質が何らかのトポロジカル状態を持っていることが分かっても、直ちにその特性を予測できるわけではありません」とくぎを刺す。これらの特性は、やはり物質ごとに計算や測定を行う必要がある、と彼女は言う。

Bernevigの地図を含め、これまで研究されてきたトポロジカル物質のほとんどは、物質内部の電子がお互いの静電反発力をほとんど感じていなかったため、比較的理解しやすかった。理論家にとっての次なる大きな挑戦は、電子がお互いに強く押し合う「強相関」トポロジカル物質を理解することだ。理論家がこれを解明することができれば、「私たちが想像することもできないような、各種の新しい物理現象を発見することができるでしょう」とHasanは言う。

この分野の核心にあるのは数学と物理学の相互作用だ、とKaneは言う。「信じられないほど美しいのに現実に存在しているという点が、私を研究に駆り立てるのです」。

(翻訳:三枝小夜子)

Davide Castelvecchiは、ロンドン在住のNature記者。

参考文献

  1. Bradlyn, B. et al. Nature 547, 298–305 (2017).
  2. Thouless, D. J., Kohmoto, M., Nightingale, M. P. & den Nijs, M. Phys. Rev. Lett. 49, 405–408 (1982).

  3. Fu, L., Kane, C. L. & Mele, E. J. Phys. Rev. Lett. 98, 106803 (2007).
  4. Moore, J. E. & Balents, L.Phys. Rev. B 75, 121306 (R) (2007).
  5. Hsieh, D. et al. Nature 452, 970–974 (2008).
  6. Gooth, J. et al. Nature 547, 324–327 (2017).
  7. Xu,S.-Y. et al. Science 349, 613–617 (2015).
  8. Lv, B. Q. et al. Phys. Rev. X 5, 031013 (2015).
  9. Lu, L. et al. Science 349, 622–624 (2015).
  10. Mourik, V. et al. Science 336, 1003–1007 (2012).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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