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ガの眼に学んだ表示画面

夏の夜、辺り一面をガが飛び回っている。だが月の光を浴びているのに、ガの眼はそれを反射しない。これと同じ原理を使えば、明るい日光の下でも携帯電話の画面がくっきり見えるようになるかもしれない。

電子機器ディスプレイ向け低反射表面の開発は盛んに研究されている分野だ。いわゆる半透過型液晶ディスプレイは、状況によってバックライトと周囲光を光源として使い分けることによってぎらつきを減らす。適応型明るさ制御という別の方法は、センサーを使って画面の光を調節する。だがどちらも電池の消耗が激しく、効果も完全ではない。

これに対し、ガの眼の構造ははるかに見事な解決策を示しているとセントラルフロリダ大学(米国)のShin-Tson Wuは言う。Wuはこの昆虫にヒントを得た画面コーティングの製作技術を最近のOpticaに報告した。

小さな凹凸で反射を抑制

ある媒質から別の媒質へ光が入る際、物質の屈折率の違いによってスピードが変わって曲がる(屈折)。空気中を進んできた光が突然窓ガラスに当たったときのように屈折率の差が大きい場合には、光の大半が反射される。しかしガの眼は均一で小さな凹凸で覆われているので、入射光が徐々に屈折し、互いに干渉して打ち消し合う結果、眼は黒くなる。

Wuと国立台湾大学の共同研究者たちは、ガの眼の表面を模した鋳型を二酸化ケイ素で作り、これを用いて柔軟なシート上に凸凹のある硬い被膜を作った。ガの眼の場合は表面から盛り上がった凸凹なのに対して、この被膜の凸凹はくぼみになっているが、同様にぎらつきを抑える。実験では反射率は1%未満だった。

「この方法を普及させる上での主な問題はコストです」とサウサンプトン大学(英国)で半導体デバイス製造を研究しているStuart Bodenは言う。Wuはこの技術を実用化するための企業パートナーを見つけたいと考えている。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2017.171007a