Nature 掲載論文のエッセンスをあなたにも
Nature には1869年の創刊時から2つの目標があります。簡単に言ってしまえば、科学研究の成果とその意義を一般市民に伝えること、それから、各分野の研究者に伝えることです。一般市民向けの教育・啓蒙活動(パブリック・アウトリーチ)は、科学にとって大切です。そもそも科学研究の費用の大部分を負担しているのが一般市民なのです。そしてNature のコンテンツのかなりの部分と論文の概要をジャーナリストに事前公開することを通して、かなりの量の良質の科学研究が一般市民に伝えられています。一方、各分野の研究者にNature の科学研究全てを伝えるには、どのように提示するのが最適なのでしょうか。
科学の全分野に向けて発行される論文誌が最も重要な研究成果を出版することを目指そうとすると、必ずこの問題に直面します。我々の願いは、Nature の掲載内容全てが必ず、どこかの誰かにとって有用で興味深いものになることです。しかし、研究の進展を報じる個々の論文の読者は、その分野の研究者をはじめとするほんの一部のNature 読者でしかないことを、どんなに楽観的なNature の編集者であっても認めざるを得ません。科学が専門でない読者にとっては、Nature のどんな分野も科学なのですが、Nature の読者にとっての科学は、さまざまな専門分野と専門の研究者の集合体なのです。
Nature の読者のほとんどが、何らかの分野を専門とする研究者であり、Nature の掲載内容の大部分を読まないことは分かっています。研究者は忙しく、必読文献を読みこなすだけでも大変なことです。それに専門外の分野の研究論文になるとタイトルからして理解不能なこともあるでしょう。でも、読者の皆さんに我々と似ているところがいくらかあるのなら、科学の世界に飛び込もうと思った最初のきっかけの1つは、現在の専門分野という世界のほんの一部に対する好奇心だけではなく、科学の世界全体に対する好奇心でもあったはずです。専門分野以外の動向をよりよく理解することは、有用なだけでなく、面白いことだと思いませんか? 専門外であっても、せめてNature に掲載された「重要な事柄である」というお墨付きのものだけでも読んでみませんか。
我々はこう思っていますが、同じ考えの読者がどれだけいるのかが分かりません。そこでそれを調べるための実験を6月16日から行っています。Nature の最近号に掲載された15編の論文を再検討し、それぞれの著者に2ページの要約記事の作成を依頼しました。この要約記事は、専門性が高いことには変わりなく、一般向け雑誌に適した記事ではありませんが、研究の進歩とその重要性を伝えることを目指しています。上記論文の著者は、読者層をできるだけ広げたいと考えて、今回の試みに熱心に取り組んでくれました。ご協力に感謝いたします。読者の皆さんにもお願いがあります。こうした取り組みについてどう思われるか教えてください。論文著者による要約記事はこちらのウェブサイトからご覧いただけます。難解なことが予想される研究テーマを勇気を出して選び、サマリーを読んで、オンラインアンケートでご感想をお聞かせください。
翻訳:菊川要
Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 9
DOI: 10.1038/ndigest.2016.160937
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