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地球の内核と磁場形成に新たな議論!

–– 一貫して、地球の惑星深部を対象に研究されています。

図1:地球内部の構造と磁場 Credit: 出典:科学技術振興機構『Science Window』
イラスト/マカベアキオ

太田: 私は出身も東工大なのですが、学部の卒論研究時に地球内部の物性探索を続ける廣瀬敬教授の研究室に入り、以来、再現実験による地球深部の物性研究を続けています。今では共同研究者でもある廣瀬教授は、2004年に、下部マントルのさらに最深部に存在する謎の層「D″層」の正体がポストペロフスカイトと呼ばれる新たな鉱物であること示し1、世界中の注目を集めました。

地球は厚さ約30kmの地殻の下に、約2900kmの厚さのマントルがあり、さらに2200kmの外核、1300kmの内核が続いています(図1)。深さ660〜2900kmの下部マントルは、ペロフスカイトという結晶構造のマグネシウム珪酸塩(MgSiO3)からなるというのが定説だったのですが、2700〜2900kmに位置する最深層(D″層)だけ地震波の伝わり方が異なるなど、謎も残されていました。廣瀬教授は、D″層の超高圧高温状態(125万気圧2200℃以上)を人工的に作り出す技術と装置を開発し、D″層のMgSiO3がペロフスカイトとは異なる結晶構造(ポストペロフスカイト)を持つことを突き止めました。

当時の私は、ポストペロフスカイト中の「電気の流れやすさ(電気伝導度)」を実験で計測しており、2008年にペロフスカイトよりもはるかに高い値(100s/m)であることを突き止めました2。この成果は、D層と鉄からなる核との間に生じる力のやりとり(電磁気的結合)が磁場や自転速度の変化をもたらし、一日の長さの微妙な変化を生じさせ得ることを示しています。

–– 今回は、さらに深い核の電気伝導度を計測されました。

太田: 実は核の電気伝導度についても検討はしていたのですが、2012年に本格的な実験を始めることにしました。というのは、その年のNatureなどに「コンピュータシミュレーションによる核の熱伝導率と電気伝導度についての論文」が掲載され3,4、それらの値が多くの研究グループの予測値の3倍も大きかったからです。世界的にも論争が巻き起こり、自分の手で明らかにしようと考えました。

地球の中心部は5000ケルビン(K)の超高温ですが、地表は高くても30〜40℃ほどです。このような大きな温度勾配は、熱が中心部から外に向かって逃げていることを示しています。もし、核の熱伝導率や電気伝導度が分かれば、熱や電気の流れ方を推定できます。安定した磁場がいつできたのか、また、内部が冷えて磁場やプレートの動きがなくなるのはどのくらい先なのか、といったことも計算できるようになります。

–– どのようにして実測したのでしょうか?

ポストペロフスカイト研究でも使った「ダイヤモンドアンビルセル」という超高圧発生装置を利用しました(図2)。手のひらに乗るほどの大きさです。セルの内部は、先のとがった2つのダイヤモンドを先端部で向かい合わせ、計測したい試料を挟み込めるようになっています。ダイヤモンドの先端部を小さくすればするほど高い圧力を作り出せ、地球中心部と同じ360万気圧も作り出せます。

図2:ダイヤモンドアンビルセル装置
ダイヤモンドを用いた小型の高圧装置(図A)で、ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられている(図B)。2つのダイヤモンドで挟み込むことで高圧を発生させる。先端のサイズを小さくすることで、地球中心部に相当する圧力(約360万気圧)も作り出せる。

図3:SPring-8を用いて得られた計測データ
純鉄の電気抵抗率(電気伝導度の逆数)の温度依存性。
a 75〜212万気圧までの純鉄の電気抵抗率データ。
b〜f それぞれ80, 106, 115, 140, 157万気圧における純鉄の電気抵抗率の温度依存性。点線はブロッホ–グリューナイゼン則から予測される電気抵抗率。実線は実験データをSaturationモデルと呼ばれる物理モデルでフィッティングした結果。

今回は、この装置に「電気抵抗を測るための微細な回路」を組み込みました。超高圧力下で微小電流を流し、電圧を計測できるようにしたのです。さらに、試料にレーザーを照射することで、超高温環境を作り出せるようにもしました。このような準備をした上で、装置と試料の鉄を播磨にある大型放射光施設(SPring-8)に持ち込み、最高157万気圧、4500Kでの鉄の電気伝導度(電気抵抗率の逆数)と結晶構造を計測することに成功しました5(図3)。

–– どちらの値が正しかったのでしょう?

太田: 得られた電気伝導度から計算されるコアの熱伝導率は約90W/(m・K)(ワット毎メートル毎ケルビン)と、これまでの値の約3倍になりました。つまり、従来の予測値は誤りで、シミュレーションで新たに示された値が正しかったことになります。金属の熱伝導率は電気伝導度に比例するので(ヴィーデマン・フランツ則)、熱伝導率・電気伝導度共に、これまでの3倍高い値ということになったのです。

これらの値から地球内部の鉄が冷えて固体の内核ができた時期を計算したところ、約7億年となりました。地球は「大きな磁石」に例えることができ、磁気が働く空間が磁場となります。安定した磁場の形成には、外核内の液体鉄が活発に対流する必要があるのですが、そのためには固体の内核が必要だとされています。つまり、「内核の誕生=安定した磁場の誕生」となり、安定した磁場も約7億年前に形成されたことになります。

この「7億年」という値は、ちょっとした議論を巻き起こすことになりました。古い鉱物が記録した地磁気(地球磁場)を調べる古地磁気学によると、地球には約42億年前から磁場があり、約13億年前にその強度が増したとされているからです6,7

–– 7億年だとしたら、どのような知見が得られるでしょうか?

太田: 私たち生き物が陸上で生息できるようになった一因には、安定した磁場の形成もあったと思われます。最初の植物が陸上に進出したのは約4億5000万年前で、昆虫の約4億年前、動物の約3億6000万年前と続きます。よって、磁場の形成が7億年前だとすれば、生物の陸上進出との整合性はあると思います。

ただし、「7億年」は確定ではありません。実は、私たちの論文が掲載されたNature 6月2日号には、別の研究チームよる熱伝導率についての論文も掲載されています。その値は、前述のシミュレーション値や今回の私たちの計算値の3分の1、つまり従来の値でした8。この研究チームも外核に相当する超高圧高温環境を作って熱伝導率を実測したので、信憑性は高いと思います。彼らの値を用いると、内核形成は約30億年前となり、かなり古いということになります。

もしかしたら、正しいとして用いてきたヴィーデマン・フランツ則が超高圧高温下では破綻しており、比例定数を関数に置き換えないといけないのかもしれません。近いうちに電気伝導度とともに熱伝導率も同時計測しようと計画しています。

–– 今回の論文はすんなり受理されたのでしょうか?

太田: 査読者とは1年ほどやりとりをし、実験数を増やしたりしましたが、比較的順調だったと思います。「鉄にレーザーを当てると表面から温度が上がっていくので、鉄試料内部の温度はデータよりも低い可能性がある」と指摘され、実測値のより高い正確性を求められたのです。そこで私たちは、数値計算によって試料内部の温度分布を計算し、試料表面と内部でほとんど温度に違いがないことを示し、実験の確かさをアピールしました。

–– 今後の研究はどのような方向に?

太田: まずは、「7億年」の議論を決着させたいと考えています。一方で、木星や土星といったガス惑星、天王星や海王星といった氷の惑星などの内部で何が起きているのか、その物性を再現するための手法開発や解析も進めています。人類は地球深部には絶対行けません。この「誰一人到達できない」という点に大きなロマンを抱いて研究を続けたいと考えています。

–– ありがとうございました。

聞き手は西村尚子(サイエンスライター)。

Author Profile

太田 健二(おおた・けんじ)

東京工業大学理学院地球惑星科学系 講師
2010年、東京工業大学理工学研究科地球惑星科学専攻・博士課程修了。博士(理学)。大阪大学極限量子科学研究センターにて日本学術振興会特別研究員(SPD)として研究に従事した後、2013年より現職。研究の主要なテーマは、惑星形成物質の物性を明らかにすることで、地球などの惑星深部に相当する高温高圧力条件を実験室で再現し、その条件下で惑星内部の物質の物性を測定している。

太田 健二氏

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2016.160923

参考文献

  1. Murakami, M. et al. Science 304, 855–858 (2004).
  2. Ohta, K. et al. Science 320, 89–91, (2008).
  3. Pozzo, M. et al. Nature 485, 355–358 (2012).
  4. de Koker, N. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. 109, 4070–4073 (2012).
  5. Ohta, K. et al. Nature 534, 95–98 (2016).
  6. Tarduno, J. A. et al. Science 349, 521–524 (2015).
  7. Biggin, A. J. et al. Nature 526, 245–248 (2015).
  8. Konôpková, Z. et al. Nature 534, 99–101 (2016).