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肢再生に欠かせないシグナルの連携プレー

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160827

原文:Nature (2016-05-19) | doi: 10.1038/nature17889 | Limb regrowth takes two

Miguel Torres

有尾類は優れた器官再生能力を持ち、例えば四肢を切除されても元通りに再生することができる。メキシコサンショウウオを用いた研究から、こうした肢再生では、2種類のシグナル伝達分子が互いに協力し合いながら複雑な再生過程を調節していることが分かった。

驚異的な再生能力を持つメキシコサンショウウオは、アホロートル、ウーパールーパーとも呼ばれ親しまれている。 | 拡大する

Henrique NDR Martins/iStock / Getty Images Plus/Getty

イモリやサンショウウオなどの有尾類が切除された肢や尾を再生できることを初めて報告したのは、イタリアの博物学者ラザロ・スパランツァーニ1で、18世紀のことだった。以来研究者たちは、哺乳類が進化の過程で失ったとされるこの素晴らしい能力をよみがえらせようと、有尾類の器官再生レシピを明らかにする努力を続けている。40年前に行われた実験2では、イモリの肢の再生には、肢の前側と後側(親指に近い側とその反対側)の両方の組織が必要であることが示されたが、それがどのようなメカニズムで進むのかについては謎のままだった。このたび、ドレスデン工科大学およびマックス・プランク分子細胞生物学・遺伝学研究所(ドイツ・ドレスデン)に所属するEugeniu Nacuらは、肢再生に前後の組織が必要であることの理由が、それぞれの組織から分泌される2つの拡散性シグナル伝達分子にあることを明らかにし、Nature 2016年5月19日号407ページに報告した3

肢の再生過程では、切断面の細胞が「再生芽」と呼ばれる前駆細胞の塊を形成し、この再生芽から新たな構造体(肢)が生じる4。この過程には3つの条件が必要で、まずは損傷が起こることが前提となる。損傷という引き金がなければ再生に不可欠な組織修復応答が起こらないからだ。2つ目は適切な神経支配で、これについては神経が除去された肢では再生が起こらないことが示されている5。最後に、再生芽は、肢の切断面の最前部および最後部に由来する細胞に隣接する領域(つまり前側領域および後側領域)を含んでいなければならない2。これは、起源の異なる細胞間の「クロストーク(情報伝達系の相互作用)」により、再生に不可欠なメカニズムが開始されることを示している。

肢の前側のみに損傷を加え、その肢の神経の向きを傷口に向かうように変更した上で、損傷部に肢の後側組織の一部を移植すると、過剰な肢が形成される6。しかし対照的に、損傷を加えて神経の向きを変えただけで後側組織の移植を行わなければ、再生芽が「フリーズ」状態に陥り、肢の再生は起こらない。Nacuらは今回、有尾類の中でも特に再生能力が高いメキシコサンショウウオ(Ambystoma mexicanum;別名アホロートル)を用い、まずはこの「前側組織のみ」の再生芽を使った実験で、前側-後側クロストークに関与する分子経路を詳細に調べた。肢芽の形成に関係するシグナル伝達経路を活性化できる「ソニックヘッジホッグ(Shh)」と呼ばれるタンパク質の活性を模倣する、smoothenedアゴニスト(SAG)という分子を投与したところ、フリーズしていた再生芽が機能し始め、後側組織がなくても過剰肢が形成された。

図1:肢再生における相補的な2つのシグナル
a 有尾類では、肢が損傷した場合、神経を傷口へと向けると、再生芽と呼ばれる細胞の塊から過剰な肢が生じ得る。しかし、新たな肢の形成には、再生芽が、損傷した肢の前側および後側の両方に由来する細胞を含んでいなければならない。Nacuら3は今回、前側組織しか含まない再生芽で肢を再生できないのは、後側の細胞から分泌されるShhと呼ばれるシグナル伝達タンパク質を受け取っていないためであることを明らかにした。前側の細胞は通常、Shhシグナル伝達に応答して別のシグナル伝達タンパク質FGF8を産生し、これによって肢形成が引き起こされる。
b 対照的に、後側組織しか含まない再生芽は、Shhは受け取っているものの、FGF8の活性化が十分に起こらないため、肢を再生できない。
c 肢を切断した場合は、前側の細胞と後側の細胞の両方が再生芽に寄与し、ShhとFGF8間のクロストークによって肢の再生が促進される。 | 拡大する

Shhは通常、再生芽の最後部の細胞から分泌され、これが組織全体に拡散して受容細胞表面の受容体に結合すると、その細胞内でシグナル伝達カスケードが開始する。Nacuらは、前側組織のみの再生芽細胞においてSAGでShhシグナル伝達を促進すると、別の拡散性分泌タンパク質である繊維芽細胞増殖因子8(FGF8)が活性化されることを見いだした。また、前側組織のみの再生芽における肢再生には、FGF8の持続的な活性が必要で(図1a)、たとえShhシグナル伝達が起こらなくても、FGF8の活性化により肢再生を誘導できることが分かった。

一方、「後側組織のみ」の再生芽は、Shhを発現する細胞を含んでいるにもかかわらず、前側組織のみの再生芽の場合と同様、それだけでは肢を再生することができない。Nacuらは、この一見矛盾に思える状況が、後側組織はShhに応答してFGF8シグナル伝達を活性化するものの、その強度や持続性が共に不十分なためであることを見いだした(図1b)。また、後側組織でFGF8を強制発現させると過剰肢が形成されたが、これはShhシグナル伝達が活性化された場合のみで、Shhを阻害すると肢再生は阻害された。Nacuらはさらに、切断された肢の生理的再生には、Shhシグナル伝達とFGF8シグナル伝達の両方が必要であることを確認した(図1c)。

このようにしてNacuらは、肢の再生に必要な前側-後側クロストークを詳細に解明し、再生芽からの肢形成を促す因子を突き止めた。前側の細胞は、後側の細胞からのShhシグナル伝達がないため、それだけでは再生できず、後側の細胞も、Shhに応答してFGF8を持続的に活性化できないため、それだけでは再生できない。しかしながら、後側組織のみの再生芽で、Shhシグナル伝達がない場合に、FGF8を強制発現しても肢再生を促進できない理由はまだ明らかになっていない。

今後の研究では、今回の実験結果が「前側組織と後側組織では肢再生に必要な条件が異なっている」という事実を示しているのかどうか、決定することが重要だろう。別の可能性としては、実験系の限界を反映しているとも考えられる。例えば、Nacuらが後側組織の細胞においてShhを阻害するのに用いた薬剤に、非特異的な作用があったのかもしれない。また、FGF8がShhで活性化されるという前側特異的な機構もまだ説明できていないため、今後の研究では重点的に取り組むべきだ。

肢の再生過程で働くメカニズムについては、長い間議論が繰り広げられており、これまで提唱されたモデルは大きく2つのグループに分類される。1つ目のグループでは、あらゆる細胞はそれぞれ位置情報を持ち、再生には局所的な細胞の相互作用のみが関与すると仮定している。対照的に、2つ目のグループでは、再生芽の「形成体(オーガナイザー)」と呼ばれる特定の領域から拡散性シグナルが産生され、その作用により周辺の組織の発生が指示されるとしている。

Nacuらの今回の研究結果は、形成体モデルを支持しているが、各細胞がある程度の位置情報を持っている可能性も排除できない。例えば、Nacuらは、前側の細胞はShhを産生せず、また、前側組織のみの再生芽から形成された過剰肢では、後側に生じる指を欠くなど、後側の特徴が獲得されないことを明確に示しており、これは形成体モデルと一致する。だがNacuらのデータはまた、再生芽の細胞群が前側領域および後側領域という明確に定義される2つの領域に分かれる傾向があることも示しており、これは再生芽の細胞が広い領域内で自らの位置(前側/後側および背側/腹側)を把握することで、自己を認識していることを意味する。これらの観察結果は、いくつかの点で境界モデル7に一致する。この境界モデルでは、拡散性のシグナル伝達分子を産生する形成体領域が、肢全体を前背・前腹・後背・後腹の4つの領域で区切ったその境界で誘導されるとしている。

ShhやFGF8の四肢発生における役割については、さまざまな脊椎動物の胚で詳細に明らかにされている。また、この2つのシグナル伝達経路間には正のフィードバックループが存在し、その中継には第3の拡散性分泌タンパク質Gremlinが関与することも報告されている8,9。Nacuらの今回の研究でも、前側組織と後側組織の相互作用に関連するGremlinの顕著な発現上昇が見いだされており、おそらく有尾類の肢の再生過程でもこのフィードバックループが機能していると示唆される。

ShhおよびFGFのシグナル伝達経路が進化的に保存されていることを考えると、今回の研究で、「再生芽の誘導さえできれば、特定の因子を用いて哺乳類の組織再生を促進できる」という夢にまた一歩近づいたことになる。また、同じ研究室の別チームは最近、損傷に応答して細胞を増殖させ、再生芽を形成するMLPと呼ばれる拡散性分子を同定しており10、今回の結果と合わせて、器官再生に共通するレシピの解明に向けた大きな前進であるといえる。

(翻訳:三谷祐貴子)

Miguel Torresはスペイン国立心血管研究センター(マドリード)に所属。

参考文献

  1. Dinsmore, C. E. Int. J. Dev. Biol. 40, 621–627 (1996).
  2. Bryant, S. V. Nature 263, 676–679 (1976).
  3. Nacu, E., Gromberg, E., Oliveira, C. R., Drechsel, D. & Tanaka, E. M. Nature 533, 407–410 (2016).
  4. Nacu, E. & Tanaka, E. M. Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 27, 409–440 (2011).
  5. Singer, M. Q. Rev. Biol. 27, 169–200 (1952).
  6. Lheureux, E. J. Embryol. Exp. Morphol. 38, 151–173 (1977).
  7. Meinhardt, H. J. Embryol. Exp. Morphol. 76, 115–137 (1983).
  8. Niswander, L., Jeffrey, S., Martin, G. R. & Tickle, C. Nature 371, 609–612 (1994).
  9. Zúñiga, A., Haramis, A.-P. G., McMahon, A. P. & Zeller, R. Nature 401, 598–602 (1999).
  10. Sugiura, T., Wang, H., Barsacchi, R., Simon, A. & Tanaka, E. M. Nature 531, 237–240 (2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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