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ブラックホールは老いた銀河を操る

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160829

原文:Nature (2016-05-26) | doi: 10.1038/533473a | How black holes restrain old galaxies

Marc Sarzi

年老いた星が多数を占める銀河には、星の材料になるガスがあるのに星が作られないものが多い。銀河の中心にあるブラックホールが銀河の中のガスをかき回し、星形成を抑え込んでいるとみられることが観測から分かった。

Akiraのイメージ図。Akira(右)の重力によって伴銀河(左)のガスがAkiraの超大質量ブラックホールに引き込まれ、ガスのアウトフローが発生している。 | 拡大する

Kavli IPMU

年老いた星が多数を占める銀河には、星の材料になるガスがあるのに星が作られないものが多く、その理由は謎だった。銀河の中心にある超大質量ブラックホールに物質が降着するとき、超大質量ブラックホールが、そのホスト銀河のガスを排出する強力なエンジンになり、星形成を止めている可能性がある1。天文学者たちは、超大質量ブラックホールが星形成をまさに抑制しているところの決定的な証拠を、特に銀河系(天の川銀河)近傍の銀河で捉えようとさまざまな試みをしてきた2,3が、それは容易ではなかった。今回、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(千葉県柏市)の特任研究員であるEdmond Cheungらは、最先端の観測機器による観測結果に基づき、年老いた赤い星がすでに支配的な銀河で、超大質量ブラックホールが銀河の中のガスをかき回すことにより、新たな星の形成を抑え込んでいるとみられることをNature 2016年5月26日号504ページで報告した4。彼らは、ついにそのメカニズムを明らかにしたのかもしれない。

現在の銀河形成論によれば、銀河は、他の銀河と合体するか、新たに獲得したガスや年老いた死にゆく星から失われた材料を使って新しい星を形成することで成長する。合体イベントは、銀河をより丸い形状へ配置し直す。一方、外部からのガス、あるいはリサイクルされたガスを常に供給される銀河は、若くて青い星が多数を占める銀河円盤を形成する。外部からのガスの供給がない銀河は、早期型銀河(楕円銀河とレンズ状銀河の総称)と呼ばれる、年老いた赤い星からなる系へと受動的に進化する。

しかし、早期型銀河の最大75%は、新たな爆発的な星形成の材料になる可能性のあるガスを含んでいることが分かっている5。にもかかわらず、早期型銀河のうち星形成が観測されるのは10~20%だけであり6,7、この事実は、何らかの星形成の抑制が起こっていることを示している。これは、早期型銀河のガスは通常、比較的高温で電離した状態にあり、星を形成できるような低温のガス状分子の雲としては存在していないという発見とも一致する。

図1:早期型銀河での双円錐形ガスアウトフローの模式図
Cheungらは、年老いた星が多数を占める赤い銀河(早期型銀河)でのガスのアウトフロー(流出)モデルを提案し、Akiraと名付けた早期型銀河の観測結果を説明した4。そうした銀河の中心にある超大質量ブラックホールに物質が降着すると、それが銀河核の活動を刺激して双円錐形のガスアウトフローを引き起こす結果、銀河の他の場所で運動しているガスをかき回すこと、もしかしたら、ガスの一部の排出をも引き起こすのかもしれないことを彼らは示した。これは、早期型銀河での星形成が抑制されるメカニズムの説明になる可能性がある。 | 拡大する

早期型銀河の電離ガスからの電磁波放射は一般に、銀河系や他の渦巻き銀河の銀河円盤で見られるような新たに生まれた大質量の星からではなく、高温だが年老いた星からエネルギーを得ている6,8,9。また、低温の分子ガスは、局所的な重力ポテンシャルによって定められた円軌道速度で、薄い銀河円盤の中の軌道を常に進んでいるのに対し、早期型銀河の比較的高温のガスは、かなり大きなランダム運動を示すことが多い。これは、早期型銀河の比較的高温のガスは、理由は不明だが、かき回されているか、まだ静まっていないかのいずれかであることを示唆している10。とはいえ、早期型銀河の電離ガスの運動はこれまで、(完全に整然としてはいないかもしれないが)コヒーレントな回転とみて矛盾はないと考えられてきた。

ここでCheungらが登場する。Cheungらは分光観測を行い、それを基に1つの銀河の中の電離ガスの運動の分布図を得、また、ガスの電磁波放射にエネルギーを供給しているのは何かを推測した。その結果、彼らは、かなりの割合の早期型銀河で、その電離ガスがコヒーレントには回転していないことを決定的な形で示した。そしてCheungらは次のようなモデルを提案した。そうした早期型銀河のガス速度場で地球に近づく物質と遠ざかる物質とが観測されるのは、傾いた円盤の中をガスが循環しているためではなく、中心にある1個の活発な超大質量ブラックホールによって引き起こされる、双円錐形(2つの円錐を頂点で逆向きにつないだ形)のガスのアウトフロー(流出)によるというものだ(図1)。

双円錐形のアウトフローが起こる早期型銀河のグループでは、電離ガスの電磁波放射の強い場所が、ガス速度場の勾配の方向(ガスの速度が大きく変化する方向)に細長く、線対称に分布していることが特徴だ。Cheungらのモデルは、この種の銀河に典型的なこの特徴をシンプルに説明できるという利点がある。つまり、こうした特徴は、アウトフローの近づく側と遠ざかる側の両方に物質が蓄積することを反映している。

今回Cheungらは、このグループの天体の原型になる銀河の観測を報告した。彼らがAkiraと名付けたこの銀河の場合、中心の超大質量ブラックホールの活動は、近くの伴銀河との相互作用によって引き起こされたらしい。Akiraでは、中心の超大質量ブラックホールの活動は、流れ出す風の運動パワー(単位時間当たりの運動エネルギー)を維持するのに十分で、その風の運動パワーが比較的高温の電離ガスの冷却を相殺することが、Cheungらの計算で分かった。銀河の中心の活動がAkiraからガスを追い出すほどではなくても、乱流や衝撃波を起こすことで、ガスをかき回すには十分なエネルギーを与え、星形成につながるガス冷却を妨げるだろう。

Cheungらが提案した双円錐形アウトフローモデルは定性的なものにすぎないが、彼らの結果は、銀河進化における超大質量ブラックホールの役割に関する私たちの理解を深めてくれるかもしれない。Akiraは、米国ニューメキシコ州のアパッチポイント天文台で行われている観測計画「スローン・デジタル・スカイ・サーベイ」の一部、MaNGA(アパッチポイント天文台近傍銀河地図作製)サーベイが観測対象にする1万個の銀河のうちの1つであり11、Cheungらの観測データはこのサーベイで得られたものだ。最近までにMaNGAサーベイが調査した約700個の銀河のうち、Akiraに似た銀河は早期型銀河の5%と、小さいが無視できない割合を占める4。これは、氷山の一角にすぎないかもしれない。銀河の中心のブラックホールの活動は、さまざまな降着イベントによって複数回誘発される可能性がある。つまり、現在はアウトフローを示していない多くの銀河でも、以前の降着イベントで、ガスがかき回されるか、そのガスを排出するかした可能性がある。

観測されたアウトフローは、もう1つの謎も解決してくれるかもしれない。早期型銀河のガスの起源だ。早期型銀河が得たガスが、他の銀河からのものか、銀河の星から失われてリサイクルされた物質かを知る1つの方法は、星の角運動量とガスの角運動量とを比較することだ。ガスが銀河内部で作られたものなら、ガスの運動は星の運動に従うはずだが、ガスが銀河の外部から獲得されたものなら、星とは反対方向へも運動し得る。早期型銀河の星とガスの運動の観測結果12は、ガスの起源はどちらの場合もあることを示している。これは困惑する結果だが、例えば、銀河団などの混み合った環境にある銀河は、容易には互いに相互作用せず、より小さな伴銀河からガスを奪うのは難しいことを考えれば、それほど問題ではない12

もっとやっかいな問題は、早期型銀河の25%にはガスがほとんどないか、全くないという事実だ5。早期型銀河には互いによく似た年老いた星集団があり、こうした星集団は、時間がたてばそのホスト銀河にガスを返すはずだ。だから、全ての早期型銀河は、外部にガスの源がなくても、リサイクルされた物質の少なくとも一部を保持していると考えるのが自然だ。Cheungらの今回の研究は、ガスの少なくとも一部を銀河から追い出す可能性のあるメカニズムが存在する証拠となり、一部の早期型銀河にはなぜガスがないのかを説明することに一歩近づいたのかもしれない。

(翻訳:新庄直樹)

Marc Sarziは英国ハットフィールドのハートフォードシャー大学宇宙物理学研究センターに所属。

参考文献

  1. Fabian, A. C. Annu. Rev. Astron. Astrophys. 50, 455–489 (2012).
  2. Schawinski, K. et al. Mon. Not. R. Astron. Soc. 382, 1415–1431 (2007).
  3. Cicone, C. et al. Astron. Astrophys. 562, A21 (2014).
  4. Cheung, E. et al. Nature 533, 504–508 (2016).
  5. Sarzi, M. et al. Mon. Not. R. Astron. Soc. 366, 1151–1200 (2006).
  6. Sarzi, M. et al. Mon. Not. R. Astron. Soc. 402, 2187–2210 (2010).
  7. Young, L. M. et al. Mon. Not. R. Astron. Soc. 414, 940–967 (2011).
  8. Binette, L., Magris, C. G., Stasińska, G. & Bruzual, A. G. Astron. Astrophys. 292, 13–19 (1994).
  9. Stasińska, G. et al. Mon. Not. R. Astron. Soc. 391, L29–L33 (2008).
  10. Young, L. M., Bureau, M. & Cappellari, M. Astrophys. J. 676, 317–334 (2008).
  11. Bundy, K. et al. Astrophys. J. 798, 7 (2015).
  12. Davis, T. A. et al. Mon. Not. R. Astron. Soc. 417, 882–899 (2011).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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