Editorial

助成金申請却下に不服申立てができる?

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160736

原文:Nature (2016-04-14) | doi: 10.1038/532147b | Under appeal

研究助成金申請却下に対する不服申立てが認められるという快挙は、現状では、ほとんどの研究者にとってそれほど興奮するような話ではない。

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stevanovicigor/iStock/Getty Images Plus/Getty

Natureのウェブサイトで4月8日から行われているインフォーマルなアンケート調査(nature.asia/28LegJ5)で注目すべき結果が出た。この調査に回答した1000人あまりの科学者のほぼ半数が、研究助成金申請が却下されたときに不服申立てをできることに気付いていなかったのだ。

このアンケート調査のきっかけは、助成金申請却下に対する英国の研究室の不服申立てが認められ、500万ユーロ(約6億円)の助成金が交付されるという快挙が3月末に明るみに出たことだった。ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(英国)に所属するコンピューター科学者のPeter Coveneyが、生物医学データにコンピューターモデルを適用するためのハブを構築する研究に対する助成金を申請したが、欧州委員会(EC)がこれを却下したため不服申立てを行ったところ、同委員会が却下決定は誤りであることを認めたという事案だ(Nature 2016年4月14日号159ページ)。

「もし自分の研究が一連の判断ミスによって危うくなれば、それに不服を申し立てる準備をすべきです」とCoveneyは語った。このスローガンのような発言が全世界の研究室で称賛されるのは間違いないだろう。科学者であれば、社会に対する貴重な貢献を認めてもらえず、助成金申請が拒絶されれば、不当な扱いを受けたと必ず感じるからだ。

Coveneyの勝利は、これまで抑圧され、正当な評価を受けていなかった研究者にとって発奮材料になると思われるかもしれないが、今後同じように不服申立てが認められる事例が増える可能性は低い。そもそも、Natureのアンケート調査に回答した多くの科学者が不服申立て手続きを利用できることを知らなくても、本人たちとその運命にとって大した影響がなかったからだ。大きな研究助成機関の多く(いくつかの国立機関を含む)は、不服申立てを受け付けない。スポーツ競技における審判の判定のように、どんなに不当だと思っても却下決定は絶対に覆らないのだ。また、不服申立てを認める研究助成機関の場合でも、誤りがあったことを示す具体的な証拠を示さなければ不服を申し立てることはできない(不服申立てができるかどうかを知るには、研究助成機関のウェブサイトが役に立つだろう)。Coveneyの事例では、ECの要求条件が満たされていたのに助成金申請の評価が低かった点に誤りが認められた。

ところでだが、不服を苦情と呼ばないでほしい。多くの研究助成機関は、不服申立てができる機関を含めて、苦情には対応しないことを明示しているからだ。

ただし、一部の機関は、苦情に関する調査の結果に対する不服申立てを認めている。米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)もその1つであり、不服申立てを最初は「苦情」として扱い、解決できないときだけ「不服申立て」に切り換えるようにしているという話だ。その場合には、組織の正式代表者(AOR)が、NIAIDのしかるべきプログラムオフィサーに書面を提出しなければならないことになっている。プログラムオフィサーは、この不服申立てに単独で対応することも科学評価官と一緒に対応することもある。AORとNIAIDのプログラムオフィサーの間で意見が一致しない場合には、NIAIDはこの不服申立てを諮問委員会に送付する。この不服申立てはさらに、NIAIDの諮問委員会から上部組織である米国立衛生研究所(NIH)の科学審査センターに送付される。研究代表者は、却下された助成金申請を修正することはできない。再審査は、同じ科学審査グループの別の調査官か別の科学審査グループが行う。

訳が分からないと思われるかもしれない。一部の不服申立て手続きは、鉄道会社の遅延による料金払い戻し手続きと似ている。この手続きは非常に複雑にできており、利用できる人がほとんどいない。両者の類似性は偶然だと思いたい。ところが1987年にThe Scientistに掲載された記事には、研究助成金申請の却下に対する不服申立ての正式な手続きが「科学コミュニティーで最も厳重に守られている秘密の1つだ」と指摘され、「科学アドミニストレーターはそうしておくことに満足しているように思われる」とさりげなく書かれていた(go.nature.com/d99fc5参照)。

それが、Coveneyの努力と彼の不服申立てを認容する決定によって秘密ではなくなったのだ。Coveneyをはじめとする共同申請者は、ECの決定に対する不服申立て手続きを乗り切るために弁護士を雇った。ECの官僚主義は一筋縄ではいかないことが知られていたからだ。また、少なくとも一見したところでは、一部の研究助成機関の不服申立て手続きは利用しやすくなっているように思える。例えば、英国学士院の場合には、助成金申請を却下された者が執行責任者に書面を提出すれば、それを受け付けるという単純な規定になっており、最後の手段として院長に書面を提出することが認められている。興味深いのがアイルランド科学財団の例で、助成金申請を却下された者は、さまざまな手続き上の瑕疵を理由として不服を申し立てることができる。例えば、「助成金審査委員が風説または伝聞を不適切に考慮すること」も不服申立て理由になるのだ。

でも注意した方がいい。不服申立てが認められれば必ず助成金が手に入る、というわけではないのだ。カナダ自然科学工学研究会議(NSERC)の助成金申請に関する不服申立て規定によれば、「NSERCが、当該助成金申請の審査において手続き上の瑕疵があったという結論に達した場合には、その結果下される助成金交付決定は、当初の決定の維持、助成金の増額もしくは減額または交付期間の延長もしくは短縮となる可能性がある」。不服申立ては、ここまで魅力を失ってしまったのだ。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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