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たるんだ肌を若返らせる薄膜

Credit: Cultura RM Exclusive/Liam Norris/Getty

材料科学者と化粧品会社の共同研究により、たるんだ肌に若々しい弾力をもたらす透明なシリコン系薄膜が世界で初めて開発された。この研究を率いたマサチューセッツ工科大学(米国 ケンブリッジ)の生物工学者Robert Langerによると、この薄膜は2種類のゲルを顔などの体表に塗布することによって形成され、ひとたび固まれば16時間以上も皮膚に密着できるという。この研究成果は2016年5月9日、Nature Materialsのオンライン版に掲載された。

Langerらが「第二の皮膚」と呼ぶこの薄膜を塗布すると、目の下のたるみ(目袋)やしわが目立ちにくくなるだけでなく、皮膚の弾性が回復し、つまんでできたしわも元に戻りやすくなるという1。さらにこの薄膜には、乾燥した皮膚から水分が失われるのを防ぐ防壁としての機能もあり、化粧品としての利用だけでなく、湿疹などの皮膚疾患の治療に軟膏の代わりに利用できる可能性がある。ただし、後者の用途についての臨床試験はまだ行われていない。

Langerが共同設立したリビングプルーフ社(Living Proof;米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)では、日常のケア用に、2014年から皮膚科医を通じてこのポリマーを販売している。同社にはハリウッド女優のジェニファー・アニストン(Jennifer Aniston)も投資していて、2年前には美容ブロガーが、この製品を「まるで肌のための補正下着」と評している。

今回の研究論文は、リビングプルーフ社のポリマーについて詳細に報告する最初の科学文献であるが、Langerによると、同社が現在販売している製品は論文で報告した材料の「ごく初期のバージョン」であるという。

研究チームが「第二の皮膚」と呼ぶポリマーは、たるんだ皮膚に塗布すると透明な薄膜となり、若々しい弾性を回復させることができる。 Credit: Melanie Gonick/MIT

ポリマーを目の下に塗布した後(写真左側)。 Credit: Ref.1

ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の皮膚科医で、論文の共著者であるBarbara Gilchrestは、「皮膚の弾性を回復させる材料はこれまでありませんでしたが、この材料はそれを可能にするのです」と話す。また、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米国)の生体材料科学者John Rogersは、研究チームの成果に「強く感銘を受けた」と言う。

研究チームは、考えられるポリマーを100種類以上調べて、弾性がありながら透明な薄膜を作り出すことに成功した。実際に使用する際には、皮膚にまずシロキサン(ケイ素と酸素が交互に並んだ鎖を持つ化合物)を含有するゲル様ポリマーを塗り、その上に白金系触媒を含有する別のゲルを重ねる。この触媒がポリマー鎖を架橋させて材料を強化することにより、厚さわずか40~70µmの薄膜、Langerの言葉を借りれば「まず目に見えないはず」の第二の皮膚が完成する。

マンチェスター大学(英国)の皮膚生物学と皮膚再生の専門家であるArdy Bayatは、こう話す。「このポリマーは目袋やしわを治療するわけではなく、むしろ透明な化粧品のようなものです」。

Langerは、ポリマーの化学組成や塗り方を変えれば、医療にも応用できるかもしれないと考えている。例えば、乾燥した皮膚に水分を補給したり、皮膚の表面に抗炎症作用のあるコルチコイド(副腎皮質ホルモン)を保持させて吸収を高めたりするのだ。Langerはリビングプール社から分離独立した子会社オリーボ研究所(Olivo Laboratories;米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の顧問も務めており、そこではこうしたアイデアの実現に向けた研究が行われている。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2016.160702

原文

Transparent film smoothes sagging skin back into shape
  • Nature (2016-05-09) | DOI: 10.1038/nature.2016.19876
  • Linda Geddes

参考文献

  1. Yu, B. et al. Nature Mater. http://dx.doi.org/10.1038/NMAT4635 (2016).