News

43万年前のヒト核ゲノムで判明した驚きの人類進化史

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160616

原文:Nature (2016-03-17) | doi: 10.1038/531286a | Oldest ancient-human DNA details dawn of Neanderthals

Ewen Callaway

43万年前の謎の旧人類シマ人の核DNAの配列が解読された。シマ人の正体が判明したのと同時に、現生人類とネアンデルタール人の種分岐が想定外に古かったことも分かった。

拡大する

Javier Trueba, MADRID SCIENTIFIC FILMS

ある旧人類のゲノム配列解読プロジェクトの結果が、Nature 2016年3月24日号504ページに発表された1。このプロジェクトの解読結果は、「世界一ぜいたく」な内容かもしれない。解読されたDNAは43万年前の骨から得られたもので、これまでに塩基配列解読が行われたヒトゲノムでは最古のものだ。この成果を発表した研究チームは、その骨に含まれるわずか0.1%の核ゲノムを解読するために、現生人類のゲノムを何十回も明らかにするのに相当する生データを得て、そのほとんどを破棄した。しかし、大量のゲノム配列解読とデータ破棄は必要なことだった。というのも、そのDNAは分解と汚染に見舞われており、不要な情報を特定して解読データから排除していく必要があったからだ。

マックス・プランク進化人類学研究所(ドイツ・ライプツィヒ)の分子生物学者Matthias Meyerらは、そうした過程を経て、スペイン北部の洞窟から出土したその骨が初期のネアンデルタール人のものであることを明らかにした。さらには、現生人類の大昔の祖先がネアンデルタール人の系統から分かれた年代も、これまでの推測値より大幅にさかのぼることとなった。

デンマーク自然史博物館(コペンハーゲン)で古代のDNAを研究しているLudovic Orlandoは、「こんなに骨の折れる仕事に着手したことだけでも十分に野心的なことなのに、それをやり遂げるなんて感動的です。これで、やれることはほぼやり尽くしたといえます」と称える。

43万年前の「シマ」の大腿骨の粉末。 | 拡大する

Javier Trueba, MADRID SCIENTIFIC FILMS

この骨は、スペイン・アタプエルカ山中の深さ13mの竪穴「シマ・デ・ロス・ウエソス(スペイン語で『骨の穴』の意)」で発見されたことから、シマ人として知られている。シマほど重要な遺跡や興味深い遺跡はめったにない。少なくとも28人の骨が、数十頭のホラアナグマやその他の動物の骨と一緒に埋まっていたのだ。シマ人たちは転落死したのかもしれないが、そこに埋められたのだと考える研究者もいる。

シマ人の頭骨には、ネアンデルタール人に典型的な形質がいくつか確認できる。その1つが、眉弓の隆起のきざしだ。しかし、それ以外の特徴やさまざまな研究結果では、シマ人の年代が約60万年前とも40万年前とも示唆され、確定できずにいた。そのため多くの研究者は、シマ人がネアンデルタール人ではなく、さらに古い種であるホモ・ハイデルベルゲンシスに属するのではないかと考えていた。

今回の核ゲノムの解析結果により、この混乱が収束に向かいそうだ。Meyerと共同研究者Svante Pääboを中心とするチームは2013年に、シマ人の大腿骨からミトコンドリア(エネルギーを産生する細胞小器官)のゲノムを回収し、その配列を明らかにしていた2。細胞内に存在するミトコンドリアゲノムのコピー数は、核DNAよりもはるかに多い。この論文で、シマ人の少なくとも1人(この大腿骨の持ち主)は、欧州のネアンデルタール人よりも、デニソワ人と呼ばれる集団の近縁だったことが示唆された。

何千kmも離れたシベリアで発見されたデニソワ人とのミトコンドリア上の関係が明らかになると、混乱は最高潮に達した。そこで研究チームは、骨の核DNAが回収されれば全てが明らかになると考えた。核DNAには、母系からしか伝わらないミトコンドリアDNAよりも多くの祖先系統が表れるからだ。

ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(UCL;英国)の古人類学者Maria Martinón-Torresは、「43万年前のものからミトコンドリアと核のDNAが回収されたというのは、素晴らしいニュースです。まるでSFのようで、驚いています」と話す。

核DNAの回収

Meyerらは、異なる個人のものと考えられる5点のシマ人標本から核とミトコンドリアのDNAを集めることに成功した。Meyerによれば、その成功の大きな要因は、2006年以来、シマ・デ・ロス・ウエソスから出土した歯と肩甲骨の組織を考古学者が用心深く冷蔵し、古いDNAを保存していたことにあるという。分子解析技術の進歩を待っていたのだ。

3月14日付でNatureオンライン版に掲載された論文1でMeyerらは、核DNAの解読により、シマ人が実は初期のネアンデルタール人であり、ネアンデルタール人とデニソワ人の分岐は47万3000〜38万1000年前であったと結論している。さらに、現生人類の祖先がネアンデルタール人の祖先から分かれた年代は76万5000~55万年前であることも示唆された。この結果は、ネアンデルタール人の祖先に当たるホモ・ハイデルベルゲンシスが、現生人類とネアンデルタール人の共通祖先であるとする説を否定するものだ。ホモ・ハイデルベルゲンシスが欧州、アフリカ、アジアで生存していたのは60万〜25万年前と考えられている。

Martinón-Torresは、約90万~70万年前に生きていた集団をただちに探すべきだと主張する。スペインでは1994年に90万年前の骨、ホモ・アンテセッサーが発見されている3。これに近い標本がアフリカか中東で発見されれば、ホモ・アンテセッサーが共通祖先の最有力候補になる、とMartinón-Torresは考えている。

一方、研究チームの最新のミトコンドリア配列は、シマ人とデニソワ人との不可解なつながりを再確認している。Meyerによれば、初期のネアンデルタール人であるシマ人が持っていたミトコンドリアDNAはデニソワ人にも確認されたが、後のネアンデルタール人には存在しないという。それが失われたのは偶然かもしれないが、Meyerは現在、アフリカ発の未知の種がユーラシアに移動してネアンデルタール人と混血し、ミトコンドリアDNAの系統が入れ替わったという仮説を支持している(この説を支持するように、約50万年前と25万年前の2回にわたり、アフリカからユーラシアに石器技術が広がっている)。

新しいデータなしにこの種の多数の仮説を排除していくのは難しい、とMeyerは話す。シマ人の全ゲノムもしくはほぼ完全なゲノム、または他の初期ネアンデルタール人の遺伝学的なデータが必要になるだろう。

自然史博物館(英国ロンドン)の古人類学者Chris Stringerは、「その全てを明らかにしようとする研究は興味深く、私たちは目が離せません」と話す。これほどの古い核DNAが回収されたことで、さらに古い時代のDNAも分析可能になることが期待されるという。「年代の解明は過去10万年から抜け出せずにいましたが、人類の系統樹のさらに深部の年代をDNAから知ることが実際にできるようになってきたのです」とStringerは語る。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Meyer, M. et al. Nature 531, 504–507 (2016).
  2. Meyer, M.et al. Nature 505, 403–406(2014).
  3. Carbonell, E. et al. Nature 452, 465–469 (2008).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度