News

現生人類が「ホビット」を絶滅させた?

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160602

原文:Nature (2016-03-30) | doi: 10.1038/nature.2016.19651 | Did humans drive ‘hobbit’ species to extinction?

Ewen Callaway

最新の発掘調査により、「ホビット」の愛称を持つフローレス原人が生きていた時代が、これまで考えられていたより数万年も前だったことが示された。

「ホビット」の愛称を持つフローレス原人H. floresiensisの頭蓋骨(中央)。 | 拡大する

JIM WATSON/AFP/Getty Images

2003年にインドネシアのフローレス島で発見されたフローレス原人Homo floresiensisは、トールキンの小説にちなんだ「ホビット」という愛称を持つ、小柄で謎めいた化石人類だ。今回、この骨の年代が当初の推定より数万年も古いことが明らかになり、Nature 2016年4月21日号に報告された1。当初の報告に基づくと、フローレス原人は、現生人類がフローレス島にやってきた後も数万年間にわたり生き延びていたことになり、類人猿に似た点もあるこの原始的なヒト属が、現生人類とどのように共存していたかが論争の的となっていた。だが、このたびの報告により、フローレス原人が現生人類と共存していたどころか、現生人類によって絶滅に追い込まれた可能性が出てきた。

リャン・ブア(Liang Bua)洞窟でフローレス原人の骨を最初に発見した研究者たちは、これをわずか1万1000年前のものだと結論づけた。けれども、今回の発掘調査で、骨の周囲にあった多数の岩石や堆積物の年代が新たに測定され、ホビットが5万年前には姿を消していたことが明らかになった。

5万年前といえば、現生人類が東南アジアとオーストラリアを通って移動していた頃である。ウーロンゴン大学(オーストラリア)の地質年代学者Richard Robertsは、「現生人類が他の新たな土地に入ったときに何が起きたかを考えると、この年代の一致はただの偶然とは思えません」と話し、初期の現生人類がアフリカから欧州に到達して間もなくネアンデルタール人が姿を消したことを指摘する。彼は、同じウーロンゴン大学の考古学者で、2003年の発掘調査の調整にも協力したThomas Sutiknaと、レイクヘッド大学(カナダ・サンダーベイ)の古人類学者Matthew Tocheriとともに、今回の研究を主導した。

洞窟の経年変化

フローレス原人が発見されたリャン・ブア洞窟(インドネシア・フローレス島)では考古学的発掘調査が進められている。 | 拡大する

Liang Bua Team

2003年に最初に発見されたLB1と呼ばれるフローレス原人の骨は、厚さ約6mの土砂と岩石の下から発掘された2。その繊細な骨は貴重な資料であり、放射性炭素年代測定を実施するわけにはいかなかった。そこで研究チームは、骨の近くに埋もれていた木炭を同時代のものと仮定して年代測定を行った。その結果、木炭は1万1000年前と比較的新しい年代のものであることが分かった3,4。「つまり、ホビットたちは、現生人類がフローレス島にやって来てから3万年後まで生き延びていたということになるのです」とRoberts。「私たちは頭を抱えました。話のつじつまが合わないからです」。

研究チームは、その後もリャン・ブア洞窟の発掘を続けている。主な目的は、もっと多くのフローレス原人の骨を探すことにあるが、巨大な洞窟の地質学的特徴をよりよく理解するためでもある。そして、最近の発掘調査により、以前フローレス原人の年代推定に用いた木炭が埋もれていた場所が特殊な状況にあったことが分かった。そこは、古い堆積物が浸食により失われた後に、ずっと新しい時代の岩石が蓄積した箇所であったのだ。

研究チームは、フローレス原人の骨と同じ堆積物層に蓄積していた岩石や土砂を新たに発掘し、いくつかの手法を用いて年代を測定したところ、10万~6万年前のものであることが明らかになった。以前の調査で発掘されたフローレス原人が製作したと思われる石器は、19万~5万年前のものと推定されており、その結果と矛盾しない年代だ。

フローレス原人がどのようにして現生人類と数万年も共存していたのかという謎は、フローレス原人の年代が大きくさかのぼったことで解決された。つまり、彼らは共存していなかったのだ。けれども、全ての謎が解明されたわけではない。フローレス原人と他の化石人類との進化的類縁関係についてはほとんど手掛かりがなく、他の化石人類と交配したのかどうかもまだ分からない。

因果関係はあるか?

フローレス原人の骨が最初に発見されたのは、2003年の発掘シーズンの終わりである。この時点でリャン・ブア洞窟の地質学的特徴に気付くのは困難だったと、Robertsは考えている。「私たちは、もっとうまくやれたでしょうか? いいえ。当時の知識では不可能でした。今の私たちはあれから10年分、先に進んでいるのです。その間、当時よりもっと多くの事実を知り、もっと多くの発掘を行ってきたのです」と彼は言う。

オックスフォード大学(英国)の考古学者Tom Highamは、最新の年代測定研究には十分な説得力があると評価し、「今回明らかになった年代は、この地域に現生人類が住んでいたことを裏付ける最も古い証拠のある年代に非常に近く、その後のフローレス原人の絶滅との因果関係を示唆している可能性があります」と話す。

Robertsも、現生人類は、おそらく乏しい資源をめぐってフローレス原人と競争したことで、彼らの絶滅に関与したのではないかと考えている。「私たちは今回、現生人類の関与を示唆する決定的な証拠を手にしましたが、これは直接的な証拠ではありません」と彼は言う。研究チームは今、最後のホビットと遭遇した可能性のある現生人類の骨を発見したいと考えている。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Sutikna, T. et al. Nature 532, 366–369 (2016).
  2. Brown, P. et al. Nature 431, 1055–1061 (2004).
  3. Morwood, M. J. et al. Nature 431, 1087–1091 (2004).
  4. Morwood, M. J. et al. Nature 437,1012–1017 (2005).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度