Editorial

食餌などの環境要因が動物研究に及ぼす影響

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160532

原文:Nature (2016-02-18) | doi: 10.1038/530254a | Chow down

科学者は、動物研究に対する食餌と環境のさまざまな影響にもっと注意を払うべきだ。

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MAURO FERMARIELLO/Science Photo Library/Getty

東北大学(宮城県仙台市)の研究チームが動物栄養学に関する驚くべき実験を行い、その結果報告が2015年に公表された。この実験に用いられたマウスは、研究史上最も餌が良かったと言えるかもしれない。餌の量が多かったというのではなく、餌の質が高かったのだ。

この実験用マウスの典型的な1日の食餌は、次の通りだ。朝食は、しらす干しとアオサ粉の混ぜご飯と煮豆、里芋と小松菜の味噌汁がある一群に与えられ、別の一群には、ベーコンエッグとトーストと茹でジャガイモが与えられた。昼食には、かぼちゃと鶏ひき肉の煮ものとわかめときゅうりの酢の物というメニューやハンバーガーとサラダというメニューがあった。

科学者が選んだ夕食のメニューには、海老のチリソース炒め、四川風麻婆豆腐、あじフライ、大根おろし、しめじ汁、あさりの酒蒸し、さわらの蒸し物などが含まれていた。実験用マウスは、このような食事を生まれてから死ぬまでずっと与えられた。デザート菓子はなかったが、おそらく苦情はなかったと思われる。

これらは、日本人の標準的な1週間のメニューだ。こうしたグルメ料理をそろえたのは、過去数十年間の典型的な日本食を再現して、健康への影響を調べるためだった。日本食(伝統食)には、体内と体表に存在する害のない微生物の保護作用を強化すると考えられる発酵食品が多く、日本人の平均余命が長いのは日本食のおかげだと考えられてきた。しかし、日本国内で入手できる食料はますます欧米化してきており、日本食が健康維持に有効かどうかが疑問視されている。そこで、マウスでの検証実験が行われたのだ。

1960、1975、1990、2005年の日本の典型的な家庭料理が再現され、それぞれの実験群に与えられた。これらの日本食はすりつぶされ、通常の「実験動物用標準飼料」に混ぜた状態で供された。その結果は、1975年頃の伝統的な料理を与えられたマウスが最も寿命が長く、長期間にわたって繁殖したというものであった(K. Yamamoto et al. Nutrition 32, 122–128; 2016)。

この研究では注目すべき点が2つある。1つは、環境(この研究の場合には食餌)が健康に大きく寄与している点で、もう1つは、この実験によって、臨床試験ではできない方法で環境が健康に与える影響を評価できたことだ。

マウスを用いる実験を計画する科学者は、光、熱、食餌、同伴個体、運動、撹乱、ストレスを全て自由自在に調整できる。従って、外部要因により健康状態が変わる過程を調べる際には、こうした環境要素をわずかに変化させることで、重要かつ有用となり得る発見が可能になる。例えば、マウスがトンネル、階段、回し車で運動できるようにすることで、雌のマウスと仔マウスの相互作用がどのように変化し、その結果として仔マウスの脳の発達がどのように変化したかを調べる研究が行われたことがある(T. Begenisic et al. Neurobiol. Dis. 82, 409–419; 2015)。一方で、疾患などの環境要因の影響を最小限に抑えるために用いられる最新の無菌状態の個別換気ケージの方が、マウスにとって静かで臭いが少なく、聴覚系と視覚系の刺激が減ることを示した証拠も得られている。

実験の結果が環境によって左右されることが分かっているのに、他の研究(例えば、治療法候補の影響を検証する研究)の環境設定に関する理解が進んでいないのは意外なことだ。Nature 2016年2月18日号264ページのNews記事によれば、マウスを利用する多くの研究者は、実験動物用標準飼料の中身を知らないし、研究内容によって飼料の中身がどのように変わるのかも知らない。科学者は、自らの研究の再現性を阻害する要因を探索するのだから、飼育条件のばらつきとそれをなくす方法にもっと注目すべきだ。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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