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「3人の親」を持つ胚の作製を米国専門委員会が支持

Credit: MEHAU KULYK/Science Photo Library/Getty

米国科学工学医学アカデミー(National Academies of Sciences, Engineering and Medicine)は2016年2月3日、「米国食品医薬品局(FDA)は、一定の条件が満たされるなら、3人に由来する遺伝物質を持つ胚を作り出す遺伝子治療技術の臨床試験を承認すべきだ」とする報告書を提出した。

ミトコンドリア置換法(MRT)と呼ばれるこの生殖技術については議論が多い。ミトコンドリアはエネルギー産生を担う細胞小器官で、MRTにより、その機能に障害がある女性の卵のミトコンドリアを健康なドナーの卵のもので置き換えることができる。この治療の目的は、母親のミトコンドリアDNAの変異が原因で起こる重度もしくは致死的な疾患を子に伝えないようにすることだ。しかし、MRTの安全性に対する懸念や、遺伝学的な親を3人持つことが子どもに及ぼす心理学的および社会学的影響を踏まえて、米国の関係当局は保留の立場を取っている。さらに、2015年末に承認された連邦法により、現在FDAはその種のいかなるヒト臨床試験も承認することはできない。

米国科学工学医学アカデミーの委員会は、安全対策の1つとして、MRTの臨床試験を男子の胚に限定することを提案している。ミトコンドリアは母親から受け継がれるものなので、胚の性別が男であれば、置換されたミトコンドリアがそれより先の世代に受け継がれることはないからだ。

今回の報告書では、MRTの安全性を監視するための特別な取り組みもいくつか挙げられている。例えば、MRTで生まれた子どもたちを追跡する試みや、その結果得られたデータを研究者や社会と共有することなどだ。MRTの安全性が男子の胚で明らかになれば、この技術を女子の胚にも拡大できるだろうと同委員会は述べている。2015年にMRTが承認された英国では、対象とする胚の性別に制限を設けていない。

オレゴン健康科学大学(米国ポートランド)の生殖生物学の専門家Shoukhrat Mitalipovは、今回の委員会による報告を「むなしい勝利」だと評している。彼は2014年に、ヒト胚を使ったMRTの臨床試験実施をFDAに申請したが、実施は現状ではできないのだ。

一方で、委員会が出した結論に賛同しない人々もいる。非営利組織である遺伝学・社会センター(Center for Genetics and Society;CGS、米国カリフォルニア州バークレー)の事務局長Marcy Darnovskyは、今回の新しい報告書が、「さまざまな懸念があるにもかかわらず、事を進めてしまおうと結論を急ぎすぎている」として批判している。

翻訳:船田晶子

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2016.160510

原文

US panel greenlights creation of male 'three-person' embryos
  • Nature (2016-02-11) | DOI: 10.1038/nature.2016.19290
  • Sara Reardon