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太陽系に未知の巨大惑星発見か

Credit: FREDERIC J BROWN/AFP/GETTY

ローウェル天文台の設立者として知られるパーシバル・ローウェル(Percival Lowell)が太陽系外縁部に「惑星X」が潜んでいると予想してから1世紀が経過した今、そうした天体が存在している確かな証拠をつかんだと主張する天文学者が現れた。彼らはこれを「第9惑星(Planet Nine)」と呼んでいる。この存在を裏付けるという分析成果は、Astronomical Journal 2016年1月20日号に掲載された(K. Batygin and M. E. Brown Astronom. J. 151, 22; 2016)。

軌道計算によると、第9惑星がもし存在しているなら、質量は地球の約10倍で、太陽の周りを1万~2万年で1周する楕円軌道を公転しているという。その軌道は非常に大きく、太陽に最も近づいたときでも太陽から地球までの距離の200倍、すなわち200天文単位(au)より近づくことはない。そこは、冥王星の軌道のはるかかなた、氷の天体が集まっているカイパーベルトと呼ばれる領域だ。

研究者らは第9惑星を直接見たわけではなく、カイパーベルトにある他の複数の天体(太陽系外縁天体と呼ばれる)の運動に基づいてその存在を推定した。しかし、これまでの太陽系外縁天体探しの歴史を考えると、第9惑星も見込み違いの1つになる可能性がある(「惑星Xを探して」参照)。

カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の天文学者で、この論文の執筆者の1人であるMichael Brownは、「私がもしこの論文を突然読まされたら、最初は『そんなばかな』と思うでしょう。けれども、そこにある証拠と統計データを見たら、これ以外の結論を導き出すことはできないでしょう」と言う。彼は、同僚のKonstantin Batyginと2人でこの論文を発表した。

コートダジュール大学(フランス・ニース)の軌道ダイナミクスの専門家で、この論文を詳細にレビューしたAlessandro Morbidelliは、第9惑星の存在を「確信した」と言う。けれども、そう思わない研究者もいる。サウスウェスト研究所(米国コロラド州ボールダー)の惑星科学者Hal Levisonは、「私はこれまで、そうした主張をうんざりするほど見てきましたが、正しかったものはいまだに1つもありません」と言う。

第9惑星が存在するという主張は、19世紀に天王星の軌道の摂動を調べた天文学者が未知の惑星の存在を予言し、海王星の発見につながったときのことを思い出させる。彼らは、天王星の摂動は目に見えない天体の重力により引っ張られることで生じると考え、実際に予想どおりの場所に海王星が発見されたことで、彼らの推測の正しさが証明されたのだ。「私たちは、もう一度同じ経験ができるのではないかと期待しています」とBatygin。

第9惑星の物語は、2014年にジェミニ天文台(米国ハワイ州ヒロ)のChadwick Trujilloとカーネギー研究所(米国ワシントンD.C.)のScott Sheppardが「2012 VP113」というカイパーベルト天体を発見したと報告したことから始まった。2012 VP113の天体の軌道は、太陽に最も近い所(近日点)でも80au以下にならない。これは、太陽系の天体では最も遠い上、太陽から最も遠い所(遠日点)は452auと広がっている(C. A. Trujillo and S. S. Sheppard Nature 507, 471-474; 2014)。ちなみに、冥王星の遠日点は48auである。当時、2012 VP113ほど大きな軌道を持つ太陽系の天体は、準惑星セドナ(近日点76au、遠日点約900au、公転周期1.1万年以上)しか知られていなかった。TrujilloとSheppardはこの論文で、セドナと2012 VP113の軌道は、太陽から250auほど離れた所に地球より大きい惑星があることを示唆していると主張した(「太陽系外縁天体」参照)。

BatyginとBrownは、この点に引っ掛かりを感じ、挑戦を受けて立つことにした。「そんな天体は存在しないと証明しようとしたのです」とBrown。彼はこれまで、上述のセドナやエリスなどの太陽系外縁天体をいくつも発見してきたが、いずれも地球よりかなり小さかったからである。

TrujilloとSheppardは、セドナと2012 VP113、太陽系外縁天体の少数に、奇妙な共通点があると指摘していた。これらの天体の軌道は、太陽系の惑星の公転軌道がある平面(黄道面)に対して傾いているが、どの天体の軌道も近日点が黄道面上にある上、黄道面を横切るときには南から北に向かうのだ。

BatyginとBrownはさらに軌道を分析して、軌道の長軸も物理的に整列していることを発見した。これらの天体があたかも「何か」に押され、太陽の周りの同じ空間領域に追いやられているかのようだった。研究チームは、大質量の天体がこれらの軌道に影響を及ぼしているに違いないという結論に達した。「私たちは、太陽系外縁部で巨大惑星の重力の痕跡を見いだしたのです」とBatygin。

Credit: K. BATYGIN AND M. E. BROWN ASTRONOM. J. 151, 22 (2016)

彼らが「ファッティー(Phattie)」というあだ名で呼ぶ第9惑星は、おそらく海王星よりは小さく、ガス状の外層を持つ、氷の惑星だ。Batyginは、太陽系が誕生して300万年ほど経過した頃に、天王星と海王星の重力作用がこの天体を外縁部に放り出したのだろうと考えている。

中央研究院(台湾・台北)の天文学者Meg Schwambは、第9惑星はほとんどの時間を太陽から遠く離れた所で過ごすため非常に暗くて見えにくく、望遠鏡で発見するのは難しいだろうと言う。BrownとBatyginはハワイのすばる望遠鏡を使って第9惑星を探しているが、まだ見つかっていない。Brownは、大型シノプティック・サーベイ望遠鏡(チリ)が2020年代初頭に観測を開始すれば、これを発見できるかもしれないと考えている。

BrownとBatyginによると、第9惑星の存在は他の方法でも検証できるという。第9惑星の重力の影響で、大きく傾いた軌道を持つ太陽系外縁天体の集団が形成されると考えられるからだ。サウスウェスト研究所の惑星科学者David Nesvornyは、こうした太陽系外縁天体はまだ一部しか特定されていないので、もっとたくさん見つけることで今回の統計データを強化し、第9惑星が実在するか否かをはっきりさせることができると言う。計算から観測に戻るのだ。「もっと極端な軌道を持つ太陽系外縁天体が発見される必要があるのです」とTrujillo。「カイパーベルトはまだよく解明されていない場所なので、望遠鏡を向けて『ほら、あった』というわけにはいかないのです」。

惑星Xを探して

太陽系外縁部に未知の大きな惑星が存在しているのではないかという説は昔からあるが、まだ1つも確認されていない。

1846 天王星の摂動から未知の惑星の存在が予測された領域をヨハン・ゴットフリート・ガレ(Johann Gottfried Galle)が探索し、海王星を発見した。

1905 天王星の外側の軌道に海王星があるように、海王星の外側の軌道にも未知の惑星があると予想したパーシバル・ローウェル(写真)が、自ら設立したローウェル天文台で「惑星X」探しを開始した。1930年、ローウェルの計算に基づいて惑星Xを探していた同天文台の天文学者が冥王星を発見したが、その質量は予想より小さく、発見は偶然だったと考えられている。

Credit: EVERETT COLLECTION HISTORICAL/ALAMY

1984 地球上の化石記録を見ると定期的に大量絶滅が起きていることから、太陽の伴星で、つぶれた楕円軌道を持つ矮星(後にネメシスと命名)が 2600万年ごとに太陽系のオールトの雲を乱し、太陽系内部に飛来する彗星の数を増やす結果、地球に衝突する彗星の数も増えるという仮説が提案された。

1999 彗星の軌道の摂動から、太陽系外縁部に褐色矮星(惑星よりも大きいが恒星よりは小さい天体)が存在するのではないかと提案され、テュケー(因果応報の女神ネメシスの姉妹である幸運の女神)と名付けられた。

2014 NASAの広域赤外線探査衛星を使った観測から、ネメシスとテュケーの存在は否定された。しかし、遠方のカイパーベルトに天体が発見されたことから、Chadwick TrujilloとScott Sheppardがカイパーベルトに大きな惑星があるかもしれないと提案した。

2016 Konstantin BatyginとMichael Brownによる軌道計算の結果は、彼らが「第9惑星」と呼ぶ「見えない惑星」の存在を強く裏付けるものとなった。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2016.160412

原文

Unseen planet may lurk near Solar System’s edge
  • Nature (2016-01-21) | DOI: 10.1038/529266a
  • Alexandra Witze