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老化細胞を除去したマウスは長生き

ほぼ2歳齢の同腹子。右側のマウスは1歳齢から、薬によって老化細胞を除去されてきた。このマウスは、老化細胞特有の遺伝子(p16Ink4a)が細胞内で発現されると不活型のカスパーゼも産生する。カスパーゼを活性化する薬剤を注射するとアポトーシスが起こり老化細胞が除去される。 Credit: Jan Van Deursen

使い古された細胞を排除すると、その個体の健康寿命が延びることが、マウスを使った実験で示された。ヒトでも、このような細胞を除去する、あるいはそうした細胞の影響を遮断するなどの処置が、加齢関連疾患の治療に役立つ可能性がある。

DNA損傷やテロメア短縮、がん遺伝子の活性化などにより細胞の発がんリスクが上昇すると、細胞は分裂をやめ、そのまま生きながらえる。この現象は細胞老化と呼ばれる。細胞分裂を再開することのないこの「老化細胞」は、動物が年を取るにつれ全身に蓄積し、周囲組織に害を及ぼす可能性のある分子を放出していることが分かってきた。老化細胞は実際、腎不全や2型糖尿病などの老年期の病気にも関連付けられている。

加齢における細胞の役割を調べるために、メイヨークリニック(米国ミネソタ州ロチェスター)の分子生物学者Darren BakerとJan van Deursenらの研究チームは、遺伝子改変により、ある薬剤を注射すると老化細胞が死んでいくマウスを作出した。

この研究では、高度な遺伝子操作技術と詳細にわたる生理学試験が実施された。だが、その概念は的確で簡潔だ。「こうした細胞は蓄積すると害になると考えられています。それを確かめるために、そうした細胞を取り除いてその結果を見るのです」とBakerは述べる。「うちの子どもたちに説明しようとするときにはそんなふうに話します」。

元気に長生き

6カ月にわたって老化細胞を死滅させたマウスは、こうした細胞を除去しないでおいた対照群の同腹子よりも、いくつかの点で健康だった。老化細胞を死滅させたマウスの方が、腎臓の機能が良好で、心臓はストレスに対して回復力があり、ケージの中でよく動き回る傾向があり、がんが発生する時期も遅かったのである。また、老化細胞の除去によりマウスの寿命は20~30%延びた。Bakerとvan Deursenはこの結果をNature 2016年2月11日号184ページで報告した1

この研究は、2011年の研究の続報に当たる。彼らのチームは、2011年にもマウスを使って老化細胞の除去を行い、それによって老齢に伴う疾患の発症が遅れることを発見している。ただし、その研究は、早期老化を引き起こす変異を持つマウスで行われた2

老齢による病気の治療法を見つけることを目指して、研究者たちはすでに、直接的に老化細胞を除去する薬、あるいは周囲の組織に損傷を与える因子の放出を阻止することができる薬を探している。Bakerとvan Deursenもそうした目標を持っており、彼らはvan Deursenが共同設立者として名を連ねる会社に対し、このような薬を開発するために彼らの特許技術を使用することを許可している。

このチームの実験から「老化細胞が重要なターゲットであるという確信が持てます」とロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)で老化の研究をしている臨床科学者で、Bakerらの論文に付随したNews & Views3の共著者であるDominic Withersは言う。「実施可能な治療として選択肢の1つになる可能性は大いにあると、私は思います」。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2016.160406

原文

Destroying worn-out cells makes mice live longer
  • Nature (2016-02-03) | DOI: 10.1038/nature.2016.19287
  • Ewen Callaway

参考文献

  1. Baker, D. J. et al. Nature 530,184–189 (2016).
  2. Baker, D. J. et al. Nature 479, 232–236 (2011).
  3. Gil, J. & Withers, D. Nature, 530,164–165 (2016).