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大丈夫か、標本の名称表示

フレンチローズはどんな名で呼ばれようと甘い香りがするだろうが、その学名は、香り高いかどうかはさておき、ロサ・ガリカ(Rosa gallica)と決まっている。そして標本にはこの名称を表示するのが正しい。

だが、最近Current Biologyに掲載された研究によると、植物標本館に収められている標本の半分以上は名称表示が間違っているらしく、植物以外の標本についても同様の可能性があるという。

英国のオックスフォード大学とエディンバラ王立植物園の研究者たちは表示間違いの程度を調べるため、アフリカショウガの標本4500件とアサガオの標本4万9000件以上の表示タグを例に取ってチェックした。「調査した標本に表示された名称の半分以上が異名または基準外の変則的名称であることを発見しました」と植物学者のRobert Scotlandは言う。

誤った名称表示になったのは、植物学者やコレクションの管理者が他の研究施設の仲間に相談せずに標本を分類したのが主な原因とみられる。また、標本作製時に種名が不明または不確定だった場合には、属の名称だけを表示している例がある。Scotlandらはこうした単純化も誤りとして数えた。表示間違いの問題は脊椎動物よりも植物の標本に多いと考えられるものの、昆虫の標本コレクションではやはり名前の間違いが山ほどあると同チームはにらんでいる。

ニューヨーク植物園植物標本館(米国)の館長Barbara Thiersら一部の専門家は、植物標本の半分が名称間違いであるとの推定は大げさだと考えている。だが、標本管理に対する経済的支援が不十分なせいで、大量の標本を一貫して正確に分類するのは気が遠くなるほど難しいという見方では、ThiersもScotlandも一致している。「プラントリスト」や「フィッシュネット」「ズーバンク」といったオンラインデータベースの試みは、この状況の改善に役立つかもしれない。

標本の名前なんてどうでもいい? いや、名称間違いは特定の生物の研究の妨げになり、保護活動が困難になることもある。「植物や動物の正しい名前が分からなければ、守ることができません」とThiersは言う。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2016.160409b