Japanese Author

植物の体内時計、組織ごとに異なる役割!

遠藤 求

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160323

地球の生物は、地球の自転に応じた24時間周期の昼夜変化に同調して生きている。例えばヒトでは、体温、睡眠、ホルモン分泌などが24時間のリズムを刻んでいる。このような概日リズムは、脳の 視交叉上核にある体内時計が機能することで刻まれ、光や温度変化のない条件でも認められる。一方、ヒトのような中枢神経系を持たない植物にも、日長や季節に応じた花芽の形成、細胞の伸長などが見られる。京都大学生命科学研究科の遠藤求准教授らは、シロイヌナズナの体内時計を組織ごとに破壊し、維管束では日長、葉肉では温度というように情報を別々に処理していることを突き止めた。

–– 植物の概日時計に興味を持たれたきっかけは?

遠藤: 博士課程では、光受容体の機能解析をしていました。植物にとって太陽光は、光合成のためのエネルギー源であるとともに、日長感知や季節変動予測をはじめ、光の強さや向き、他の植物の陰にあるかどうかなどの周囲環境を知るための情報源にもなっています。ただ、植物には私たちのような中枢神経系がないことから、「光情報は組織ごとに受容される」と漠然と考えられており、組織特異的な研究はなされていませんでした。そこで私は、どのような光がどの組織で受容されているかを、分子レベルで調べることにしました。その結果、「赤い光を感知し、日陰かどうかを判断するための光受容体(phyB)」は葉肉の細胞で、「青い光を感知し、日の長さを測るための光受容体(cry2)」は維管束でのみ機能していることを突き止めました1,2

学位取得後は、それまでの研究を生かせる他分野に進もうと考えました。熟慮の末、光受容体を起点とする情報伝達経路の下流に位置すると思われる「体内時計」の領域に飛び込みました。当時カルフォルニア大学サンディエゴ校(米国)で植物の体内時計の中でも概日時計研究を牽引していたスティーブ・ケイ博士の研究室に入ったのです。彼も光受容体の研究をしていた時期があり、私の研究をよく理解してくれました。

–– 植物における概日時計の定義は?

遠藤: 24時間周期で発現する遺伝子のうち、以下の3点を満たすものを概日時計遺伝子としています。

第1に、外部環境の刺激がなくても、発現が24時間周期であることです。単に光の明暗周期に同期しているだけでは、概日時計遺伝子といえません。第2に、位相同調性があることです。位相同調性とは、明暗のリズムを人工的にずらしても、植物が自ら少しずつ調節して正しいリズムを取り戻す性質を指します。第3に、温度保障性を持つことです。地球上の常識的な温度内で、温度の高低にかかわらず24時間の発現リズムを刻み続ける性質のことを指します。

植物の概日時計遺伝子と呼べるものは、現時点で20種以上(狭義には十数種)知られています。それぞれの発現は、互いの遺伝子がマルチフィードバック・ループを構築することで制御されていることが分かってきています(図1a)。例えば、ある概日時計遺伝子(CCA1LHY)は朝一番に発現ピークを持ち、別の遺伝子(TOC1)は昼頃に発現ピークを持つといった具合です。概日時計遺伝子は植物個体のほぼ全ての組織で発現していますが、組織の生理応答は実に多様です。例えば、日長感知は光合成や成長に関わる生理応答につながり、葉の上下運動、気孔の開閉、胚軸伸長速度などを制御しています。また、季節変動予測は、季節に応じた花芽の形成につながります。不適当な日長下では、正常な花芽の形成が阻害され、早咲き、遅咲きなどの異常が生じます。

–– 留学中はどのような研究をされたのでしょうか?

遠藤: 博士過程で、phyBやcry2などの受容体が特定の組織でのみ機能していることを突き止めましたが、これらの受容体が植物の全身で発現していながら組織特異的に機能していることを不思議に思っていました。また、花芽形成や細胞伸長などを制御している体内時計がどの組織にあるかも不明でした。そこで留学先では、概日時計機能の組織特異性を高精度に解析し、光受容体との関係に迫ろうと考えました。11カ月と短い滞在だったこともあり、実験による成果よりもアイデアを得たという感じでしたが、その分、帰国後に研究が一気に進みました。

京大に戻ってまず着手したのは、組織ごとに概日時計機能を破壊したシロイヌナズナ系統の作製です。概日時計は全ての組織で発現しているので、全体で遺伝子を破壊した単純な変異体では「どの組織が重要か」を解析することができないと考えたからです。具体的には、植物全体、維管束、葉肉、表皮、茎頂、胚軸、根のそれぞれにおいて特異的に働くプロモーターを利用し、特定の概日時計遺伝子(CCA1TOC1)を過剰発現させました3

さらに、この系を利用して花成について検討したところ、維管束でCCA1TOC1を破壊したものだけが「花芽を作るべき条件」がそろっても花芽を作らなくなることが分かりました3。シロイヌナズナは、日が長くなることを感知して花芽を作る長日植物で、日長の感知に維管束の概日時計が必要だったわけです。花芽を誘導するホルモン(フロリゲン)も維管束で作られますので、この組織に概日時計が必要なことは容易に理解できました。

図1:概日時計のフィードバック・ループの概念図(a)と、組織特異的にシロイヌナズナの時計機能を破壊した各系統を1カ月間成長させた姿(b)
a 概日時計遺伝子は転写因子でもあり、お互いの転写を抑制または促進する複雑なループを形成している。
b 維管束を含む全体と維管束で概日時計機能を阻害した系統だけ、遅咲きになっている。 | 拡大する

–– 今回は、どのような研究をされたのでしょうか?

遠藤: まず、葉肉、維管束、表皮をそれぞれ短時間で抽出する系を開発しました3。既存の手法では抽出に4時間以上かかり、その間に概日時計が進むために解析の精度が極端に低かったのです。私は超音波処理と酵素処理を併用し、30分で抽出できる独自の手法を開発しました。

その上で、花芽形成を誘導する長日条件下と誘導しない短日条件下において、花芽形成までの時間を測定しました4。また、同じく概日時計が制御する生理応答として知られる「茎(胚軸)の伸長」や「子葉の展開」においても維管束の概日時計が重要かどうかを検討しました4

–– 組織ごとに、概日時計の使われ方が異なっていたのですね。

遠藤: はい、そのとおりです。まず、花芽形成についてですが、維管束で概日時計を阻害したものと、植物全体で阻害したものだけが、長日環境下にあるにもかかわらず、通常よりも遅咲きになりました。花芽を誘導しない日長条件にすると、どの系統にも差が見られなくなったことから、維管束の概日時計が季節を感知し、その情報が組織特異的に機能して花芽形成を制御していることがうかがえました。このことは、日長を感知する光受容体(cry2)が維管束でのみ機能することともよく一致します。

次に、子葉の展開や胚軸伸長についてです。まず、維管束の概日時計機能を阻害しても、表面上は何の異常も現れませんでした。ところが、表皮および全体で阻害した場合は、子葉が展開しなくなり、胚軸の伸長が促進されるといった表現型の異常が見られました。こうした異常は、常温(シロイヌナズナがストレスと感じない範囲の温度)でのみ見られ、日長変化には左右されませんでした。これらの結果は、表皮の概日時計は常温の刺激を処理し、この情報処理によって細胞伸長が制御されることを強く示しています(図1b)。

図2:シロイヌナズナの概日時計の機能分担ネットワーク構造 | 拡大する

Bulb, indicator, Clock: Thinkstock

情報学や社会構造などの理論に、ネットワークを集中型、非集中型、分散型の3つに分類するというものがあります。私は、この理論が生物にも当てはまると考えています。例えば、中枢神経を持つ動物の情報ネットワークは集中型といえます。それに対しシロイヌナズナは、表皮や維管束などがハブ組織として機能する「自律しつつも緩く関連している非集中型」といえるでしょう。分散型には、ヒドラなどが挙げられるかと思います(図2)。

–– 概日時計の仕組みは、植物にとってどのような意義が?

遠藤: 植物は、概日時計を全く持たなくても生きていけます。ただし、正常な概日時計を持つ植物と一緒の場合には、時計を持たない植物が淘汰されます。概日時計遺伝子は植物に広く共通していますが、下等な植物ほど種類や数が少ないです。その起源は、約30億年前に出現したシアノバクテリアまでさかのぼります(ただし、現存の植物の概日時計遺伝子とは全く異なる)。おそらく、紫外線を避けるために使われ始め、その後は、陸上化や耐乾燥化などの進化に伴って種類や数、機能が増大し、周囲の環境をモニターするようになったのでしょう。

現在、葉肉と維管束のハブ組織が情報をやり取りする仕組みを検討し始めたところです。また、表皮に温度受容体があるかどうかにも迫りたいと考えています。私が目指すのはあくまでも基盤の解明ですが、温度受容体や温度情報伝達の研究は、地球温暖化による農業や森林への悪影響を回避する技術開発にもつながると考えています。

–– ありがとうございました。

聞き手は西村尚子(サイエンスライター)。

Author Profile

遠藤 求(えんどう・もとむ)

2007年、京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学および米国カリフォルニア大学サンディエゴ校のポスドクを経て、2009年より京都大学生命科学研究科 助教。2015年、同准教授。大学院生時代から植物の組織特異的な機能分担に興味を持ち、一貫してこのテーマを追い続けてきた。異分野の知見を積極的に取り入れるとともに、新規技術の開発を通して、植物の環境応答の統合的理解と制御を目指している。

遠藤 求氏

参考文献

  1. Endo, M et al. Plant Cell 17, 1941–1952(2005).
  2. Endo, M et al. Plant Cell 19, 84–93(2007).
  3. Endo, M et al. Nature 515, 419–422(2014).
  4. Shimizu, H et al. Nature Plants 1 ,15163 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度