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暗黒物質粒子の検出へ王手

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160307a

これでも見つからなかったら暗黒物質モデルは振り出しに戻る

暗黒物質(ダークマター)について物理学者がうまい説明をつけるには、今こそ好機、逸すべからず。物理学者の多くは、宇宙に充満しているらしいこの見えない物質がWIMP(弱い力で相互作用する質量のある粒子)というタイプの粒子でできていると考えており、WIMPを探す過去最大かつ最高感度の実験「XENON1T」が2016年3月、イタリアのグランサッソ国立研究所で始まる。

このプロジェクトは1980年代から暗黒物質を探し続けて全て空振りに終わった一連の検出器の最新版だ。この捉えどころのない粒子を今後数年内にXENON1Tでも発見できなかった場合には、物理学者たちは現在最有力の理論を諦めて、もっと風変わりな説明を探究する必要に迫られるだろう。「現在最高の理論モデルはいずれもXENON1Tで検証できる範囲にあります」と、同実験に携わるパデュー大学の物理学者Rafael Langは言う。「WIMPが見つからなかった場合、それは私たちの仮説が完全な間違いであることを意味し、本当に振り出しに戻らざるを得ません」。

WIMPが衝突したキセノンの発光を狙う

WIMPは超ひも理論から予測される粒子だ。素粒子物理学の「標準モデル」を拡張したこの理論は、宇宙の物質を構成するあらゆる既知の基本粒子に、その相方となる粒子が存在すると考える。WIMPはそうした超対称性粒子のうち最も軽いものだ。暗黒物質WIMP説が支持を集めているのは、超ひも理論から予測されるWIMPの量が暗黒物質の量とまさに無理なく一致するためだ(暗黒物質はそれが発揮する重力から存在が確信されている物質で、宇宙の全物質の84%を占めると推定される)。理論的に考えられたWIMPの多くのバージョンはこれまでの探索実験で何も発見されなかったためにすでに除外されたが、まだ残されている可能性のうちのどれかが今後の実験で姿を現すだろうと研究者たちは期待をつないでいる。

地下1400mの洞穴に埋められたXENON1T実験装置は3500kgの液体キセノンを満たした大きな円筒形の容器を擁している。キセノンの原子は擾乱を受けると自然に発光する。暗黒物質粒子がキセノン原子核にまれに衝突すると独特のエネルギー信号を残すはずで、科学者たちはこれを捕まえようと狙っている。暗黒物質は至る所に存在すると考えられているものの(1cm2の空間断面を毎秒およそ10万個の暗黒粒子が通過していると考えられる)、通常の物質とはほとんど相互作用しないので、一般には暗黒物質が発揮する重力によってのみ、その存在をうかがわせる。XENON1Tで計画されている2年間の探索で、暗黒物質に予測されている特性に一致する粒子を10個検出できれば、暗黒物質粒子発見を主張するのに十分とされる。

LHCも検出スタンバイ

XENON1Tは10カ国が1500万ドルを拠出した国際共同プロジェクトで、以前の装置の規模を25倍にして実験する。新装置は検出器の容積が大きい他、暗黒物質と紛らわしい別の粒子を阻止する遮蔽力を高めたので、稼働後2日以内に前回実験の感度を超えられるはずだ。また、暗黒物質検出で現在最先端を行く370kgの大型地下キセノン検出器(LUX;米国サウスダコタ州)をも数週間以内に追い越せるだろう。「過去の代々の実験が惜しいところで逃してきた発見をXENON1Tが実現しても、全く驚くには当たりません」と、この実験には加わっていないカリフォルニア大学アーバイン校(米国)の理論物理学者Tim Taitは言う。

(翻訳:鐘田和彦)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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