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バイソン流の民主主義

都市では数年ごとに市長選がある。これは割と簡単な手順で、市民が投票し、最多数を取った候補者が勝つ。そして同じようなことをウシの仲間も行っている。

今回、フランス国立科学研究センター(CNRS)の生態学者Amandine Ramosは、ニースから約30kmのところにあるモンダジュール生物保護区でヨーロッパバイソンの群れを3カ月間観察した。その結果、バイソンも多数決ルールに従って行動していることが分かった。

Ramosの観察によると、ヨーロッパバイソンはどちらの方向に動きたいかを、自分の身体の向きで示して“投票”している。草を食べたい場合には草地の方を向き、喉の渇きをいやしたいバイソンは水場の方角を向く。そしてついに1 頭が動く。これが群れの大多数が望んでいる方向であれば、群れはその動きについていく。だが、あまり人気のない方角だった場合には少数が続くだけで、一時的に群れが分裂することもある。

どのバイソンも移動の口火を切ることができるが、多くのフォロワーを集めるのは大人の雌であることが多い。基本的には最も多くの票を集めた1頭が勝ち、群れの大半を率いる形になる。この成果は、Animal Behaviour に報告された。

コミュニケーションと合意形成

今回の発見は、畑を荒らすバイソンと農家との対立を和らげるのに役立つ可能性がある。リーダーになりそうなバイソンに首輪をつけて軽い電気ショックを与えることで、群れ全体の動きをうまくコントロールできるかもしれない。

ヒトやヨーロッパバイソンの他にも、集団で意思決定をしている動物はいる。アフリカスイギュウなどの有蹄類からトンケアンモンキーなどの霊長類まで、さまざまな動物で同様の行動が観察されている。Ramosは今回の研究を通じて、「コミュニケーションと合意形成が動物界にも存在する」ことに改めて気付かされたという。民主主義は自由主義国家のホモ・サピエンスに固有のものではないのだ。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2016.160208a