News

11億個の星の地図を公開

欧州宇宙機関(ESA)は2016年9月14日、ガイア宇宙望遠鏡で観測した、銀河系(天の川銀河)のこれまでで最も広範囲で、最も詳細な地図データを公開した。ガイアは視差を利用して銀河系の星の位置を高精度に測定する宇宙望遠鏡で、公開された地図データは、11億個の星の三次元での位置と明るさを示し、そのうちほぼ4億個は既存のどの星表にも記載されていない。また、200万個については天球上での運動も得られた。これは、2013年12月のガイア打ち上げ後、その観測結果の初めての公表(2014年7月から2015年9月までの14カ月分)であり、世界中の研究者に独自の分析を促している。ガイアの観測結果は、新たな太陽系外惑星の発見、ダークマター(暗黒物質)の分布の調査、星の進化モデルの修正、宇宙の膨張速度のさらに正確な測定を可能にし、天文学を変貌させると期待されている(Nature 537, 292–293; 2016参照)。

ガイア計画には、計画全体で10億ユーロ(約1100億円)近い費用が投じられている(Nature ダイジェスト 2014年1月号「ガイア衛星打ち上げへ」参照)。今回の注目すべき結果の1つは、おうし座にあるプレアデス星団までの距離の測定だ。この問題は長年にわたって議論になってきた(Nature http://doi.org/bqpt; 2014参照)。プレアデス星団は、太陽から約135パーセク(440光年)の距離にあるとする測定が多かったが、ガイアの先行計画だったESAのヒッパルコス衛星(1989年打ち上げ)は、そうした測定よりも約15パーセク近いと結論したのだ。今回、ガイアの測定は6パーセクの誤差で134パーセクとし、ヒッパルコスの測定は不正確だったことを示唆した。

また、ガイア計画に加わっている、ボローニャ天文台(イタリア)の研究者Gisella Clementiniは「ガイアの観測で、銀河系の隣の大マゼラン雲のハローがこれまで考えられていたよりも大きく広がっていることも分かりました。ガイアの今後の観測で、銀河系のハローも同様にこれまでの見積もりよりも大きいことが分かるかもしれません」と話す。

しかし、星表の初公開に伴って発表された分析結果はわずかだった。通常の慣習と異なり、データ公開前にガイア計画の研究チームに許された分析は限られていたためだ。ガイア計画のプロジェクト・サイエンティストで、ESAの欧州宇宙研究・技術センター(ESTEC;オランダ・ノールトヴェイク)に所属するTimo Prustiは、「観測データのデータベースが14日に公開されるとすぐ、数百人の天文学者がアクセスし始めました」と話す。ESAによると、公開後24時間で1万1000人のユーザーがデータをダウンロードし、さまざまな研究チームがガイアのデータに基づいた分析結果をプレプリントサーバーに投稿しようとしているという。

Credit: ESA/Gaia/DPAC

ガイアは5年間の観測で、銀河系の多くの星の距離を1%以内の誤差で正確に測定することになっている。シカゴ大学(米国イリノイ州)の天文学者Wendy Freedmanは「ガイアがこれから行うことは並外れたことです。その結果は今後数十年間、天文学者たちにとって不可欠なよりどころになるでしょう」と話す。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2016.161211

原文

Detailed map shows Milky Way is bigger than we thought
  • Nature (2016-09-22) | DOI: 10.1038/nature.2016.20591
  • Davide Castelvecchi